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4人の魔女と守護騎士  作者: 案子丹子
1章 雷の魔女
13/13

急襲タルクス山脈

進むにつれ、荒く、険しいものへと姿を変えていくタルクス山脈の街道。

エルウィン達以外にも、すれ違う人達はそれなりにいるものの、その道の険しさのせいか、皆一様に不安を抱えているような表情にすら見えてくる。

所々に崩落したと見られる岩の破片が散在していて、それが木車の走行を妨げている状況も多々あり、その都度、大きな岩は道脇へと取り除く作業も発生している事で、当初の見通しよりも移動に時間がかかっている。


「この岩の除去もこれだけ数が多いと、なかなか重労働になってきますね。」


「もともと開通したまでは良いが街道の整備すらままならないエリアだからね。本来ならもう少し人を注ぎ込んで本腰を入れてでも開発するべき土地ではあるのだけれど・・・こう斜面が多いと、必要な建築や資材の運搬も中々難しいよね。」


「おりゃああ!!」


エルウィンとコンラドの会話している横で通行の邪魔になっていた大きな岩を道脇へと放り投げるオリヴァー。


「・・・オリヴァーさん、見た目に違わずスゴい怪力ですね。」


「おう!新人!お前も俺様のように身体を鍛えようじゃないか!パワーは裏切らないぜ!よぉし!OKだ!木車を動かせ!」


オリヴァーの合図で再び木車を動かす御者。

そのまま少し走った頃に、道脇に中間地点である事を表す標識が姿を見せた。


「おっ?やっと中間地点かぁ!思ったよりも時間がかかったなぁコンラド。」


「そうだね。とりあえずは無事にここまでは来れたようだね。」


エルウィンも含めた3人が一息ついた中で、いち早くその異常に気がついたのはトーマだった。


「っっ!!止まれぇぇ!!!」


街道上の斜面より何かが転がってくるような音が聞こえたと思った瞬間、轟音と共に大きな岩が、一行の目の前に落下してきた。

トーマの咄嗟の叫び声で、木車は間一髪、落石の手前で止まる事ができた。トーマの声と木車の急な停止に中で待機中だったジェラルドが顔を出し、即座に状況を確認する。


「・・・落石かぁ?」


木車から降りてくると、落ちてきた岩に目を凝らす。と、同時に何かを察知したように周囲を見渡したかと思うと、これまでのジェラルドからは想像できないような力強い声で叫ぶ。


「・・・総員!戦闘態勢っっ!!」


木車前にいるエルウィン達や後ろのチェスター達に加え、中でジェラルド同様に待機中だった三人も素早く降りてきて身構える。


「・・・人為的ですか?」


エルウィンがジェラルドに問う。


「たぶんそうだなぁ・・・。この岩、半分近く土が付着している面がある。」


先ほどの力強さとは打って変わり、いつも通りの雰囲気へ戻るジェラルド。


「・・・埋まっていた?」


「・・・まぁ、下を通る俺達を完全に狙っていたのは間違いないねぇ。」


再び周囲に視線をやる。


「・・・こりゃ、結構な人数がいるな・・・。骨が折れそうだ・・・。おーい、いるのはわかってるぞぉ、さっさと出てこぉい。」


ジェラルドの呼び掛けから少し間が空いたかと思った時、街道の前後、そして上や下の斜面からも、ぞろぞろと男達が剣を手に現れた。皆模様の入った布で顔の下半分を覆っている。

エルウィンは男達の姿を見て、あの夜の出来事を思い出し、その身体をわなわなと震わせていた。


(あの布・・・母さんを殺した傷の男がつけていた布と、同じ模様か?やはり魔女狩りは同じ一つの組織なのか?)


「・・・ざっと各方面20人程、計80人ってところですかね。」


チェスターがジェラルドの横までにじり寄ってくると、小声で呟く。


「予想より多いなぁ・・・まぁなんとかなるでしょ。1人が8人斬ればお釣りがくるよぉ。前方のあの1人だけ外れた所にいる奴がわかる?あれが大将かね。」


「・・・でしょうね。明らかに身に纏う雰囲気が他の奴らとは違ってます。」


2人の視線が前方の集団後方に外れた1人の長髪を後ろで束ねている男に集中する。

その男は2人の視線を感じとると、片手を顔の高さまで上げ、そのまま振り下ろす仕草を見せた。すると同時に周囲に展開していた男達が一斉に怒声を上げ、木車目掛けて剣を構え突撃してきた。


「背中を味方に預けて囲まれるなよ!各個目の前の敵を討ち、木車を死守しろっ!」


「「おおっ!!」」


チェスターの号令にブレイヴナイツの面々も剣を抜き声を張上げ、迫ってくる敵をそれぞれが迎え撃つ。


「先制は、この俺様だぁぁぁ!」


オリヴァーが背中から抜いた巨大な剣を片手で楽々と振り抜き、なぎ払う。その一撃はあまりの威力に、先頭を走ってきて受け止めようとした敵を軽々と吹き飛ばし、その後方も巻き込んで数人が倒れる程だ。


「見たかツヴィヘンダーの威力を!ハッハッハ、死にたい奴はかかってこい!」


彼の使用している剣はグレートソードと言う巨大な騎士剣で、その見た目通りかなりの重量を伴う事から、本来は両手で扱う事を想定している剣で、それを彼のように片手で振り回すなどあり得ない話しである。恵まれた体格から、巨大で重いグレートソードを振り回した時の威力は並みの人間に受け止める術はない。


「オリヴァーさん!!すげーパワーっす!これからはアニキと呼ばせてください!」


コーネルがオリヴァーを羨望の眼差しで見つめながら、自身も自前の怪力を活かした剣技で目前の敵をねじ伏せる。初めての実戦であったが、その動きには緊張も躊躇も見受けられない。


「ハッハッハ!お前も中々いいパワーだ!見込みがあるぜ!俺様についてこい!」


その性格、そして戦闘手法的にも、同じタイプのコーネルとオリヴァーの2人は通じ合うものがあるに違いない。


「大軍勢相手と言えども、私達は切り抜けて見せますよ!・・・大軍勢?なんて数なんだ・・・切り抜けられるの?!ひいぃぃ!」


ヨッヘンは今にも泣き出しそうな顔をしながら悲鳴を上げてはいるものの、その表情や声とは裏腹に自身の長い手足から繰り出す攻撃は、相手を間合いの外から一方的に斬り刻む。ネガティブ思考の強い性格からか、どれ程優勢であっても慎重に、油断も隙なく息の根を止めるまでその攻撃を続けるヨッヘンのその姿は、第三者からすれば非常に残酷に映り、それを見ている周囲の敵も戦意喪失する程である。


「こいつら・・・!!化物だっ!!」


「こっちは人数がいるんだ!ガーディアンは無視しろっ!木車を狙えっ!」


魔女狩りの集団も、その数の利を活かしてブレイヴナイツの面々を真っ向から相手にせず四方八方から木車内にいるであろう魔女を狙いにかかる。


「・・・っ上等だ。」


トーマは身体がオウラハの平均的な成人男性よりも遥かに小さく、非力であったが、その分常人よりも身軽で俊敏性に長けていた。

さらに自身のその長所を活かすべく、サブウェポンとして利用される事の多い、軽い短剣であるダガーを左右1本ずつ握りしめ二刀流として利用し、決して敵と斬り結ぶ事なく間合いを一気に詰めては、その隙をついて素早く縫うように集団の中を斬り進み、相手を次々に無力化していく。集団戦の場合、人数が多い勢力は多対一の状況で戦闘しようとする事が多いのだが、トーマは足を止める事なく常に移動しながら戦うため、敵もその動きを捉えきれずに、仲間との同士討ちを避けようと手が出しづらい状況を産み出している。


そんな周りの仲間の戦いを目にしてコンラドは恍惚の表情を浮かべている。


「素晴らしい・・・。やはりブレイヴナイツは最高だよ。誰も彼もが私に引けをとらない程に美しい。」


そんなコンラドに魔女狩り2人が一斉に狙いを定め斬りかかる。


「死ねぇぇっ!!」


その恍惚の表情は一瞬にして冷酷なものに切り替わる。


「・・・君達は美しくないね。」


コンラドは手にした刺突用の剣、レイピアで瞬く間に2人の身体を貫く。その冷酷な表情の通り、そこには微塵の情もなかった。


「ぐ・・・が・・・」


「バカ・・・な・・・」


レイピアは装飾が施された鑑賞用のものが多く、護身用や決闘などの一対一の場面で利用される事はあれど、本来は戦場に決して向かない剣である。細長い特殊な形状をしている刀身は見た目よりも重量があり、切りつける動作が難しいためだ。

しかし貴族階級では騎士道精神の象徴などとして嗜まれている事が多く、コンラドは幼少期よりこれに慣れ親しんでいて、あらゆる局面への対応もその経験から可能であり、かつその性格は美への拘りも強い事から、見た目にも派手なこのレイピアを戦場でも愛用していた。


「・・・この人達、本当にすごい!全員が自身の長所を把握しながらそれを活かして危なげなくこの集団を相手にしている・・・」


自身も母を守ろうと剣を手に取ったあの日の夜以来で、コーネルと同じくほぼ、初の実戦とも言える状況ながらも、次々と襲いくる魔女狩りを難なく返り討ちにしながら、横目で見る仲間の戦いぶりに驚きを隠せないエルウィン。


(一人一人がハンス先生にも決して劣らない程の実力者だ・・・ここの隊に入れて本当に良かった!)


そのエルウィンの様子を少し離れた所から真剣な眼差しで見ているチェスターとジェラルド。もちろん2人も戦闘中なのだが、まったく危なげなくそれをこなし、余裕綽々といった様子でエルウィンには聞こえない程度の小声で会話をしている。

この2人の戦い方はオーソドックスでお手本通りの剣術だが、それだけにそこには長年の先人達の積み重ねにより洗練されてきた確かな技術が存在し、これを上回るには2人よりもさらに高い技術が必要であり、そしてそれがどれ程難しい事なのかは言うまでもない。強者の集うブレイヴナイツにおいても、ジェラルド、チェスターの実力は頭一つ抜けていた。


「誰がすごいんだかねぇ・・・言ってる本人の戦いぶりは・・・それに遜色ないレベル、いや、それ以上かぁ?」


「いや・・・本当にすごいですよこの子。新人というのが信じられない。実戦の経験なんてないだろうに・・・普通なら自身の命を失うかもしれない事、そして初めて人を斬る事への二つの恐怖がつきまとい、手の震えも止まらないはずです。俺もそうだった。」


「俺だって初めてはそうさぁ。それが普通だよねぇ。これは・・・。エルウィン君は頭も切れそうだし、将来期待できるよねぇ。師匠はよほど優秀な人物かなぁ?」


ガーディアン最強の部隊との呼び声高いブレイヴナイツ。あっという間に木車を中心とした周囲に数十人の死体が転がる事態となっており、その中にはブレイヴナイツの騎士の死体はもちろんない。それどころか全員傷一つ負っていないのである。


その数で遥かに上回っていた魔女狩りも半分以下になっており、すでにその目は恐怖の色に染まって、木車を囲っているだけで攻撃の手は止まっている。


「・・・ダメだ・・・勝てない・・・」


「ここまでの化物だとは・・・・」


「話が違うっ!これじゃあ全滅だ!」


その内の一人が背を向けて逃げ出す。


「うわぁぁぁー!まだ死にたくないっ!」


「逃げるのか?」


その男が指揮官と思わしき長髪の男の脇を駆け抜けようとした瞬間、逃げ出した男の首が宙に舞う。


「誰が逃げろと命令を出した?」


その首を胴体から切り離した一撃を見たジェラルドは、この長髪の男の実力が自身にも迫りかねない程の実力者である事を瞬時に見抜いていた。

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