第九十九話◆:笹川のささやかなお礼
第九十九話
笹川が朝のHRで行方不明ではなくなったという報告は取り消されたが相変わらずだった。そんなとき、窓から風が吹く。十一月ともなると、そよ風が吹くだけで少しは寒くなってくるもんだな。
HRが終わった後に満が俺のところにやってくる。心配そうな顔をしているところを見ると告白しただけのことはあるな。
「零一、栞たんは一体全体どうしたんだ」
「ん~ああ、ほら、なんだ。暴力的だったなんていわれたくないから来れないんだよ」
「何だ、そんなことか」
「そうそう、俺らにとっちゃ結構そんなことなんだよなぁ……」
「いつも零一をぼこぼこに殴ってるし」
「気がつかれないようにやってるつもりかもしれねぇけど、あれって結構色々な人に見られてるからなぁ」
ため息を一つ。満は首をすくめている。
「ともかく、笹川が学校来てくれないとちょっと寂しいよな」
「僕は明日が見えないほどがっかりしているよ。僕の全てが栞たんさ」
「それは言いすぎだろ……でも、何とかしねぇとな」
さて、どうしたものだろうか……
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「みんな、聞いてくれ。昨日行方不明で昨日の未明に何処にいるのかわかったこのクラスの笹川栞についていっておきたいことがあるんだ。それと、やってもらいたいこともある」
帰りのHR。俺は教壇に立ってみんなにとある提案をした。そして、その提案を快くのんでくれたのだ。
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「笹川さん、何か面白い本持ってないかな」
「栞さん、今度遊びに行ってもいいかな」
「栞ちゃん、今度遊びに行こうよ~」
「あ、今度護身術教えてよ」
夏服から冬服へと移行した女子達が笹川の机に殺到している。
「……凄い人気だねぇ」
「ああ、女の園だな」
それを遠巻きにして俺は中央で少し困惑気味だが楽しそうにしている笹川の横顔を眺めていた。
「零一、たまにはいい事するね」
「失礼なことを言っているんじゃねぇよ。俺はいつもいい事しかしてねぇ」
「クラスメート全員にメッセージを書かせるなんてね。しかも、寄せ書きじゃなかったし」
「そうだな、やっぱり手紙のほうがいいって思ったからな」
三十通以上の手紙、それを笹川はしっかりと読んだのだろう。あいつは真面目でいい奴だ。
「ちなみに、お前は何と書いたんだ」
「僕はね……『僕の全てです』って書いたよ」
「やれやれ、お前って奴は馬鹿だな」
「それで、零一は」
「俺か……俺は何も書いてねぇ」
「ええっ、何だそれ」
満がそういうが、書かなくてもいいと俺はちゃんと言ったのでセーフである。
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放課後、笹川は女子と一緒に帰って行った。その後姿はやっぱり困惑しているようだったが何処か嬉しそうだった。
「さてと、俺も帰るかな……」
かばんを掴んで教室を後にする。
廊下を歩き、なんとなく校庭のほうを見る。外では夕焼けに染まったグラウンドをサッカー部が縦横無尽に駆け巡っているし、野球部だって素振りをしたり、ランニングをしたりと練習メニューをこなしている。
ぼーっと歩いていると声をかけられた。
「雨乃」
「……笹川……どうかしたのかよ」
いつものように無表情で仁王立ちのようにして俺の進路を阻んでいる。
「お前、さっきクラスの女子と一緒に帰ってなかったか」
「用事があったから先に帰ってもらった」
「そうか、用事があるのか……じゃあな」
「待って」
笹川の横を通ったところで腕をつかまれた。いつものような乱暴な掴み方ではなくそっと、抱きしめられるようにつかまれたのである。
いや、俺の腕をしっかりと抱きしめていた。
「どうかしたのかよ」
「……雨乃なんでしょ。わたしが学校に戻ってこれるようにしてくれたのは」
「俺は特に何もしてねぇよ」
「嘘つき」
「本当だよ。俺は何もしていない。お前が自分で戻ってきたんだ」
「……」
黙りこんだ笹川。俺はその隙に腕を抜いた。
「じゃあな、また明日」
「……待ってよ。待ってっ」
「お、おい……笹川……」
背後から笹川に抱きしめられる。まさかそのままプロレス技に派生はしませんよね。
「……ありがとうぐらい言わせてよ」
背中に顔がうずめられ、もっと強く抱きしめられるのがわかる。夕焼けの廊下、俺と笹川以外の生徒の姿を見ることは出来ない。
「まぁ……お前が言いたいって言うなら……」
「ありがとう……雨乃零一」
呟くようなその言葉……しかし、しっかりと俺の耳は言葉を捉えてくれた。
その後、笹川は俺のことをなかなか放してくれなかった。外が暗くなるまで、グラウンドのライトが点灯するまでそれまでずっと、二人で夕焼けの廊下にいたのである。
「言いたいことがあるけど、まだ怖くて言えない」
ただ、それだけ残して笹川は姿を消した。でもまぁ、明日もまた会えるのだから構わないだろう。しかし、何が怖くて言えないのだろうか。
眠い、眠いぜっ……と、そんなことはいいけどとりあえず第九十九話。さぁ、笹川の変終わりましたっ。そういうわけで何か感想とかございましたらお願いします。笹川の株が上がりますので。ええ、色々と……ね、次回は『新潟のアヒルさん』原作の話です。小説の案なども受け付けておりますので思いついたよ~って方はどうぞ、ご遠慮なくぐぇっへっへ、雨月のところまでネタを送ってくださいね。雨月のカラータイマー赤です。三月二十四日水曜、二十二時十八分雨月。