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第九十八話◆:知られてしまうと言う事

第九十八話

 工業高校での死闘は俺らの高校が勝利を収めたわけだが、俺の隣人さんは学校に来ていなかった。

「やっぱり、あれが効いたんだろうな……」

 昨日、最後の一人を倒したのは笹川だ。そして、そのときに……クラスメートに見られたのだ。校門近くで倒したのだから、偶然見ていたのだ。その後、俺を残して走り去ったのだ。追いかけようとしたのだが、警察に追いかけられたために自分のみを守るだけで精一杯だったのである。



 笹川は暴力的な自分を隠してきたのだから……



 それをクラスメートに指摘されるのが怖くて来れないのだろうか……



 朝のHRが始まり、担任の先生がいつものように入ってきた。いつものような表情で、いつもと同じ歩幅。クラスメート達は色々と騒いでいるだけで、いつもと一切変わりの無い。

「はい、静かに」

 そういうのもいつものことだ。

 隣に笹川がいないのが寂しいなんてな。

 いつもと同じなんかじゃない。

「笹川が……実は昨日から行方不明だ。誰か行方を知っている奴はいないか」

「えっ、先生……それって本当ですかっ」

 クラス中がざわつき、満が俺のほうを見る。俺は首を振った。満は首をかしげ、再びざわついた生徒達を先生が手を叩いて静かにさせた。

「静かに、静かにっ。昨日最後に笹川に会ったのは誰だ」

「えっと……俺だと思います」

 その後、簡単な取調べじゃないが幾分か聞かれた。ケータイに連絡したが駄目だった、出てくれない。

「じゃあ、何かわかったら教えてくれ」

「ええ、わかりました」

 一時間目が始まる時間帯、俺はようやく先生から解放された。

「……笹川」

 つぶやいたらすぐ後ろから暗そうな声で『何、雨乃』って聞こえたら嬉しかった。だけど、今、ここに笹川はいない。

「……」

 俺が探しに行ったところで変わりはしない。そう思った。だけど、なんだか友達一人を失った気がして怖い。

「……よし」

 俺は覚悟を決めて下駄箱へと走る。無駄かもしれない、他の人が見つけるかもしれない。それでもいいから、笹川にあって大丈夫だって言いたかった。



――――――――



「はぁ……はぁ……」

 もう一つしか思いつかない。俺の目の前には『笹川写真屋』と書かれた看板がさび付いてぶら下がっていた。

 店の窓にはレースのカーテンが内側からかけられており、中が見えない。それでもチャイムを連打して待つ。

「……」

 それでも、反応は無かった。

 此処じゃなかったか……ため息を一つついて背中を見せて帰ろうと思っているとガチャリという音と共に店内から一人の女性が出てきた。

「おっと、雨乃零一君だったね」

「あの、此処に笹川いますか」

「ほほう、其処まで私のことを買ってくれているとはね。まぁ、正解。あってるよ」

 にこりと笑う笹川の親戚さんにほっと胸をなでおろした。

「よかった……びっくりしましたよ、行方不明だって聞いてますから」

「なるほど、そういえばそうだったなぁ。うぬぬん、せめて親御さんには連絡を入れておかないと……まぁ、君が来てくれただけでもいいかぁ。私は連絡してくるから君は会ってあげなよ」

「はい」

 店内へと入り、俺は応接間のソファーに座っている笹川を見つけた。

「笹川、おはよう」

「雨乃……おはよう。ところで、何で此処に」

「お前がいるかなって思ったからだよ。隣に座らせてもらうぜ」

 ソファーに座り、どうしたものかと首をかしげる。

「怖いの……」

「え」

 弱々しい声が何処から聞こえてきたのかと首を傾げれば俺ではないので笹川のものだと予想がつく。

「何がだよ」

「……『笹川栞は暴力を振るう』って言われるだけで怖いの。友達なんて出来なかった、出来てもすぐにいなくなった……せっかく仲良くなれたはずなのに、嫌いだって目を向けられるだけで怖い。暴力的だって……言われるだけ怖い」

「……」

 まさか、笹川がそんな事を言うなんて……相当、弱っているんだなぁ。結構大変なんだろう。

「俺はどうなるんだよ」

「え……」

「俺だよ、俺。偶然お前と友達になってきたやつが殴ったり蹴ったりが嫌いな連中で……うぅん、違うな。極度に嫌っていただけだろ。他は知らんが俺は大丈夫だ。あ、言っておくが殴られて嬉しいとかそういうのじゃないぞ。俺はお前の友達だ。親友だってお前も俺のことを言っただろ」

「……ごめん、ありがとう」

 素直に言葉が出てくるなんてな……本当、思いもよらなかったぜ。

「だけどね、ごめん。やっぱり学校には行けない」

「……何でだよ」

「家に帰って、お願い」

 帰れねえよ。俺、これから学校行かないと。

 まぁ、独りになりたい時だってあるからな。俺は笹川をひとり残して出て行くことにした。

「笹川、明日は来いよ」

「……」

 多分、笹川は来てくれないだろう。何故だか俺はそう確信してしまった。

 そして、次の日……やはり、笹川は来てくれなかった。


はい、明日もバイトなのですよぉ。じきじきにバイト先のご主人から連絡を頂きました。ばりばり、ゲームしながら電話を受け答えする横着っぷり。そういうわけで、明日に備えてもう寝ないと……夜更かしはお肌の敵ですよ、奥様。三月二十四日水曜、二十二時九分雨月。

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