第九十四話◆:戻った日常
第九十四話
「は、停学解除ですか」
『ああ、そうだ……残念ながら君が素直に家にいたから職員会議で停学一週間で解除ということになった。勿論、君がこれまで騒ぎを起こしていなかったからというものだからだぞ』
受話器を片手に小さくガッツポーズをしたのはいうまでもない。
『今後も問題行動を起こした場合は配慮などせずに停学などの処置をするからな。気をつけておくように』
「はい、気をつけます」
校長先生じきじきに連絡があるとは珍しい気がしないでもないがまぁ、いいだろう。
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「おお、零一じゃないか。まだ停学中だろう」
朝、偶然満と会った。俺の隣では佳奈が笑っている。
「それがね、一週間で停学が終わったの」
「佳奈つんも嬉しそうだけど、僕も嬉しいよ。これでまた二人で馬鹿をやれるねぇ」
「いや、俺はこれまでお前と一緒に馬鹿をやった覚えはないぞ」
「またまた、照れちゃって」
今度、ニアから連続コンボの出し方を習っておこうかな……
雑談しながら歩いているとふと、思い出したかのように満がこんなことを言った。
「そういえばさ、そろそろ中間テストだよね」
「……そうだな、そうだったなぁ……俺、まだ勉強してないや」
「今度の中間テストは結構難しいってことだからね。ちゃんとしておいたほうがいいと思うよ」
まぁ、僕は勉強しなくても結構いい点数取れるぐらいの脳みそは持っているけどね、うはははは……と、笑っている満などどうでもいい。
「零一、勉強見てあげようか」
「ん、その申し出は嬉しいが自分で何とかして見せるぜ」
「……そう、それならいいけど、赤点なんて採ってこないでよ」
「お、相変らず佳奈つんは零一に優しいね」
「べ、別に優しいってわけじゃないわよ。吉田君、誤解しないで……」
「ちっちっち、僕と君の間柄じゃないか親しみをこめて『みつるん』と呼んでくれ」
「み~つるん」
「零一じゃないよっ」
ああ、やっぱり俺は帰ってこれたんだなぁ。一人で騒ぐ満を見て、笑う佳奈を見て、そう思えた。まぁ、あれだな。やっぱり一人で家にいるよりもこっちのほうが楽しいって事だ。
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「はい、雨乃」
「ああ、本か……ありがとな」
結局、不必要となってしまった本を受け取る。それはものすごく分厚いもので電話帳を超えるものだった。
「……これで笹川から殴られたら俺、死ぬかもしれないな。どの道、笹川にかかればネギも凶器だけどな」
「……安心していいわ、こっちで殴るから」
辞書を取り出してそういう。いや、本よりも若干薄いが充分撲殺可能レベルだろう。
「ま、ともかく雨乃が戻って来ることが出来てよかったわ」
「そうか、笹川も寂しかったんだな」
「まぁ、少しは」
くすりと笑う笹川に見とれてしまったというのは偶然であったと思いたい。冗談を真面目に捉えるんだから性質が悪い。
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「湯野花さん」
俺は廊下を歩いていた湯野花さんに手をあげる。
「どうかしたんですか」
「いや、珍しく俺の前から歩いていたからな。いつもは俺の後ろにいるだろ」
「……そうかもしれませんね。でも、たまには前から歩いてくることだってありますよ」
そういって冗談っぽく笑う。うん、いつもの湯野花さんだ。その後も少しだけ雑談して気がついたら休み時間が終わりそうだった。
「あ、じゃあ、俺はそろそろ行くから。湯野花さんも遅れないようにな」
「ちょっと待ってください」
腕をつかまれた。
「どうかしたのかよ」
「……『湯野花さん』は辞めてくれませんか」
「え……」
じゃあ、何と言えばいいのだろうか。
「湯野花氏に変えろってか」
「そうじゃありません、朱莉って呼び捨てにしてくださいよ」
相変らず冗談が通じない。顔も赤いし、何でだろう。
「わかった、朱莉だな」
「ええ、お願いします」
呼び捨てにされたほうがいいのだろうか。まぁ、本人が言いというのなら気兼ねなく呼ぶことにしよう。
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「そういえばニアも停学中だったな」
「うん、そうだぞ。窓ガラスを二枚割って逃げたらばれて……弁償と一週間の停学だ」
なるほど、それはやっぱり停学になるんだな。俺も気をつけておかないと……
「ところで、何で窓ガラスを割ったんだよ」
「まぁ、ニアも色々とあるんだよ」
珍しくニアが話をはぐらかそうとしていると気がついてなんとなく、驚いた。ま、人の話に深く突っ込む必要もないだろう。
ええ、もう、ね、なんだか……やる気満々ですよ。ばかやろーって叫びたい。ああ、そういえば通称マネキン、書きました。ニアの地下にいたやつですね。はい、忘れちゃっている方に是非とも見せたい代物です。いつも絵を描いていただいている無感の夢者さんに送るべきか悩みましたが送っていません。気持ち悪い出来に仕上がったからです。はい、ではまた次回お会いしましょう。三月二十四日十八時五十分雨月。




