第九十一話◆:校長室に来た客
第九十一話
「そ、それはどういう事ですか」
羽津高校校長室では三人の男が話し合っている。三人のうちの一人、羽津高校校長である湯野花勝は驚いて残りの二人を見ていた。
二人の片割れである執事服を着た老人は立ったまま笑顔で言うのだ。
「ですから、先ほども申し上げたとおりこの方のご子息が雨乃零一だということです。今回、此処に足を運んだのは……面倒ですから言いますが、不当な理由で私の孫を停学にした貴方に文句をいいに来たというのですよ」
笑顔……その割には目の奥が笑っておらず、ソファーに座っている男も笑顔ではあるが怒っているのは間違いない。
執事はいいたいことなどもうないといわんばかりに黙り込んだ。そして、執事の補足をするかのように男が口を開く。
「正直に申し上げると此処への献金……断ち切って構わないと思っています。息子が正当な理由で停学になるのならば親である私も納得できますが……不当な理由で停学にさせるとは校長としていかがなものか、そう思っています」
「……」
校長は目が泳いでおり、言い訳を探しているようだった。校長を除く二人の男は席を立った。執事が扉を開け、先に男が外へと出て行く。
執事も一礼をして出ようとしたが思い出したかのように立ち止まった。
「ああ、貴方の孫である湯野花朱莉……正直に申し上げましてあまり上手だというわけではないようですね。あの程度の腕ならば怒ってでもやめさせたほうが彼女のためでもありますよ……湯野花勇気の愛娘、残念ながら才能は受け継いでいないようです……それに、これ以上引っ掻き回すというのなら明日にでもプロが彼女を尾行し、誘拐するかもしれませんよ」
それだけ残して執事は扉を閉めるのだった。残されたのはただ呆然と立ち尽くす一人の老人だけが残された。
―――――――
「……プロって誰のことなのでしょうか、おとうさん」
黒塗りの車に乗って屋敷へと帰る途中……男は執事へと尋ねる。
「それはもう、零一しかいないでしょう」
執事は自信満々にそう答えるのだった。
「……ぷっ、そりゃ無理だろ。尾行はできても誘拐は出来ねぇ……」
「左様でございます」
執事もわかっていたのか口がゆがんでしまうのをこらえることが出来なかった。
「ともかく、これで停学も一ヶ月から短くはなるだろうな」
「……一週間ぐらいですか」
「そうだな、それまであいつが何をしているのかは……自由だ、俺らの知ったことじゃねぇよ」
執事と男を乗せた車は制限速度を守った完璧な安全運転をして屋敷へと戻るのだった。
「この後、わたくしは定例会に出席しなければいけないので失礼させていただきます」
男を家の前でおろし、黒塗りの車は主人の返事を待たずにさっさと立ち去るのだった。
――――――――
「え~こちらが、今回の『ゼロツープロジェクト』の原案を出してくれた雨乃零一君です。皆さん、拍手をお願いします」
まるでてんぷら油の中に何かを突っ込んだときのように凄い音がした。そりゃそうだ、まるで学校の体育館ほどの大きさである部屋いっぱいに人がびっしりといるのだから。その人たちが手を叩く……想像しただけでも煩い。
俺の近くにいる爺さんは続ける。
「では、これからも皆さんで仲良く老後の楽しみとして……『ゼロツープロジェクト』を続けていきましょう」
「いいぞ~」
「家に帰ったら天使がいたとか、天使がやってきたとかオタクの妄言じゃ~」
「天使なんぞ人間の手で作ればいいんじゃ~」
もし、神様がいたら確実に天罰を下されるに違いないなぁ、まぁ、いればの話だが。
会場が静かになったところで爺さんが口を再び開いた。
「……ただいま、『ゼロツーユニット』は皆さんの知っての通り完成しております。零一少年の携帯電話の中に搭載されており、彼の生活ぶりを見て日々成長を続けているのです……後はボディーだけなのですが残念ながらまだ出来ておりません」
会場から無念じゃ~とか死んでも死に切れんわいなどの声が聞こえてくる。やれやれ、老後の楽しみって本当、凄いものを作り出すよなぁ。
「では、『ゼロツープロジェクト』の話は一旦おいておくとして……これからは定例会の『わしの孫を見よっ』をはじめたいと思います」
先ほどの拍手より、すさまじい唸り声が会場のあちらこちらから聞こえてきた。
「……すげぇな」
そうつぶやいたのだが、俺の声などあっさり消えたに違いない。
どうも、雨月です。そろそろご入学のシーズンですね。学校に入学するという方、勝手ながらお祝いさせていただきます。適度にがんばってください。新社会人の方々、無茶すると身体が壊れます。あまり無理をしないようにしてください。それと、今のままで学年などが一年上がった方は要領よく日々を過ごしていきましょう。雨月もがんばらないように気をつけますので。さてぇ、予定としては第百十話ぐらいに零一に変化が起きている予定です。どういった変化かはまだ、秘密です。それと、出来ればそれまでに以前やった『雨乃零一がどんな人間であるか』はお願いしたいと思います。それでは、今日こそ休みなので思い切り小説を書くぞという意気込みの作者、雨月でした。三月二十三日火曜、八時十四分雨月。




