第九話◆:笹川の事情
第九話
人は何故、走るのだろうか。それには色々と理由があると思うんだ。
俺の場合はもう、授業が始まってしまっているから。
息を切らせながらも何とか教室へとついた。まさか、移動教室とは思わなかったから迷った挙句遅刻したのだ。俺が教室に戻ってきたときにはすでに誰もおらず、転校してきたばっかりの俺には荷が重すぎた。
「すいませんっ、遅れました」
「遅いぞ、転校生。どうしたんだ」
「いえ、実は……その、教室がわからなくて遅れました」
鳩尾にハルマゲドンが突っ込んだのも原因のひとつだとはいえなかった。
「ああ、そういえばそうだったなぁ…誰か……いや、そうだなぁ、隣の席は笹川だったろ」
「はい、そうですけど……それがどうかしたんですか」
「お前、今日の放課後案内してやれ」
「ええ、わたしが……ですか」
人の腹部にハルマゲドンをぶち込んだり、番長のあごに靴跡をつけたりと……縦横無尽の隣人さんは冷ややかな視線を俺に向けるのであった。
「ほら、雨乃もお願いしろ」
「……お願いします」
「わかりました、今日の放課後案内しておきます」
つんとした表情でそういう。やれやれ、何とも冷たい人だな。まぁ、よく考えてみればあんな一撃を人体に打ち込むぐらいの人だから冷たくないと駄目なんだろうなぁ。
―――――――
「じゃ、お願いします」
「……はい、これ」
一枚の紙が手渡された。
「へ」
手渡された紙をまじまじと眺める。それはとても細かく書かれていた校内の地図だった。
「それあれば転校生君でも大丈夫でしょ」
「え、あ、ああ……確かに大丈夫だけどよぉ、案内は…」
「じゃ、わたし用事があるから」
そういってかばんをもって去っていってしまった。
「振られたな、ドンマイ」
「いや、別に振られたってわけじゃ……」
友人の満がそういってくるがまぁ、それはどうでもいい。
「……」
用事があるのならあの時断ればよかったのになぁ。
「なんなら、僕が案内してあげようか」
「いや、いいぜ。俺も今日はちょっと都合が悪かったから……じゃ、俺も帰るわ」
「うぃ、お疲れさん」
そういって俺も教室を後にするのだった。
―――――――
俺の視線の先には笹川がいる。勿論、ばれてはいない。場所は河川敷で俺は橋のところにうまく隠れている…もっとも、通行人にはもろ見えの状態のためにこの高校生は何故、こんなところで座っているのだろうと思っていることだろう。
「お」
そんなことを考えていると笹川以外の連中が現れた。此処からでは声が聞こえないかもしれないと思ったが、そうでもなかった。
「おうおうおう、昨日の借りを返しにきてやったぜっ」
「ちゃんと下駄箱の中の手紙、読んでくれていたんだなぁ」
「感謝するぜぇ……お前ら、やっちまえっ」
ああ、どこかで見たことがあると思ったらあの人たちは笹川が昨日ぼこぼこにして逃がした連中じゃないか。
孤軍奮闘……いや、獅子奮迅だな。やはり、笹川の向かうところ敵無しといったちょうしで一撃で相手を仕留めている。河川敷の砂利とお友達になった連中をまじまじみているとこの世で敵にまわしてはいけない相手だなぁ、そう思えた。
「……」
そのまま笹川は素早く……というよりも慣れたように走り去ってしまった。こちらの方向に来られていたらきっと、いいことはなかっただろう。
何故、あそこまで強いのか今度聞いてみよう。
そんな時、肩を軽く叩かれた。
→右から振り向く。
左から振り向く。
さて、次回で記念すべき更新第十回目ですね。別に何かをやるというわけじゃありませんが今後もがんばって更新続けていきたいと思います。どこまで続けられるかはわかりませんがそれなりに努力していく所存ですのでどうかお一つ、よろしくお願いします。ああ、そういえばそろそろ節分ですね。二月一日月曜、十九時十六分雨月。