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第八十九話◆:家族

第八十九話

「本当、信じられないっ。何で朱莉は表彰されて零一は停学なのよっ。納得できないっ。何で、何でよぉっ」

「おいおい、佳奈……俺に言われても困るだけだぜ」

 俺が停学処分となったその日の夜、帰ってきた佳奈が玄関で泣き出したのだ。驚いたし、困った。

 泣いている佳奈は歳相応の女の子だったし、どうすればいいのか俺にはわからない。泣き止まない佳奈はそのまま言葉を口からこぼす。

「か、家族なのにっ……何も出来ないなんて」

「あ~、いや、まぁ……俺も何もできなかったよ」

「何で、何であんたは悔しくないのよ……あんたは……」

「その、ありがとな」



「……っ」



 面倒なので抱きしめてやった。驚かせれば泣き止むかなぁと思ってやったことだったが、尚のこと、泣き出した。逆効果だったか……。とりあえず、そのまま抱えるようにしてリビングのほうへと連れて行くことにする。

「とりあえず落ち着けよ。それとな、泣くなよ」

「……えぐっ、な、泣いてないわよ」

 未だ泣き続けているのに相変わらず強い奴だな。

「泣くなよ、何も退学になったわけじゃないんだから別にいいだろ」

「良くないわよっ。何も悪いことなんてしていないじゃん。何で、何で……これも全部……朱莉がっ……」

 そういって携帯電話を取り出した。慌てて俺はその手を掴み、肩へと手を動かす。

「佳奈っ、落ち着けよ……」

「でも……」

「でもじゃねぇっ。湯野花さんに言ったところで何も変わるわけがねぇよ……それに、佳奈と湯野花さんの仲が悪くなるだけだろ」

「だって……」

「でも、とかだっては言い訳だ。何度も言ってるけど落ち着けって。たかが停学だぜ。一ヶ月学校からお暇をもらっただけだ。そんなにマイナスに捉えるなよ」

 しばしの間、佳奈は俺の顔を見てつぶやいた。

「いや、マイナスよ……」

「よし、ようやく冷静に考えることが出来るようになったな。お前が感情的なのはいつものことだが何も出来ない人に言っても無意味だ。佳奈には別のことをしてほしい」

「じゃ、じゃあ……私はどうすればいいのよ」

 携帯電話を握り締め、佳奈は震えている。

「湯野花さんと仲良くして学校生活を楽しめばいい。今月の終わりには中間テストだってあるからな。それに備えて勉強をしろよ」

「……あんたはどうするのよ」

「俺は家でのんびりしてるさ」

 佳奈に向かってそう告げる。一ヶ月間引きこもるしかないな、これは。

 そんな時、玄関が乱暴に開けられてリビングに繋がっている扉が開け放たれた。

「零一っ」

「た、達郎さん……おかえりなさっ……がっ」

 俺は思い切りリビングの床を滑っていった。何が起こったのか理解が出来ず、反射的に殴られた左頬に手を当てていた。

 そのまま胸倉をつかまれ、目線を一緒にされ睨まれる。

「……この馬鹿野郎がっ。何で校長を殴ってでも停学処分を取り消してもらわなかったんだよっ」

「お父さんっ、何で……何で零一を殴るのよっ」

「異論を唱えないとこいつは停学になっちまうからだ。それをこいつがわかってないからわからせてやったんだっ」

「な、殴ったところで何も変わりはしませんよ。達郎さんも落ち着いてください」

 口の中が切れたらしい。血の味がする。きっと、本気で殴られたんだろうなぁ……めちゃくちゃ痛いぜ。歯が折れなかったのが不思議なくらいだ。

「何でお前はそんなに落ち着いていられるんだっ。息子が停学喰らって落ち着いていられるか馬鹿野郎っ」

「……いえ、もういいんですよ。それに、殴ってもらって嬉しかったし」

「……は」

 お前は何を言っているんだという目が俺に向けられる。

「家族だ、息子だ……そういわれて嬉しかったんですよ。落ち着いてください、達郎さん。退学になったわけじゃないんですよ。停学です。たった一ヶ月の停学ですからマイナスじゃありません」

 しばしの間、達郎さんはあごに手を当てて考えて俺にこう言った。

「いや、それはお前が損しているからマイナスだろ」

 場違いながらも佳奈とこの人は似ていると思ってしまった。

「それに、学校側には復讐して来ましたから安心してください」

「何したのよ」

「屋上の壁、思い切り殴ってきたからな」

 そういって笑う。

 しかし、達郎さんは相変わらず怒っているようでそれは佳奈も同じのようだった。

「お前はいいかも知れねぇが、俺は納得いかねぇな。明日、直訴してやる」

「……私も納得いかない」

「やめなさい」

 いきり立つ二人を鎮めるような声が玄関のほうから聞こえてきた。鈴音さんだろう……若干疲れたような顔でリビングへとやってきた。

「おいおい、鈴音……零一がやられたんだぜ……これは仇討ちしないと気が済まん」

「そうよ、お母さん」

「馬鹿なことはやめなさい。そんなことしたら零一君がもっと悪い立場になるわよ」

「「……」」

 よかった、この人は冷静だ。

「大変だったでしょう、零一君」

「ええ、まぁ……」

「停学にされて、達郎さんに殴られて……」

 俺は悪くないぞという顔をする達郎さん。いや、本当、冷静に考えたらやっぱり殴られ損です。

「でも、嬉しいです。俺にも家族がいるんだなって思えましたから」

「馬鹿野郎、お前は俺たちの家族だろ。朝おきて、飯食って、笑って、怒って、風呂に入って、寝て……同じ屋根の下に寝ている共同体だ」

「たとえはともかく、私も同意見よ、零一君」

「ありがとうございます」

「わ、私もそう思ってるからね。困ったときは頼っていいから」

「……ああ、ありがとうな」

 照れた仕草の佳奈に俺は笑いかけるだけが精一杯だった。停学になってよかった……そんな事を言ったら笑われるかもしれない。だけど、俺は停学になってよかった。


感想もらったら更新するということで、昨日は寝てしまっていたために更新できなかったのでいましています。繰り越しってやつです。さて、気がついてみれば第九十話までやってきたわけです。早かったですねぇ、次で九十話ですよ。雨乃零一のしょぼい活躍もつもりつもって此処まで来たというものです。前作では出てくるヒロイン達それぞれにエンディングがあったわけなのですが……それで良かったのかどうだったのか……判別つかなかったりします。それならそのまま行けばいいじゃないかっ。そう思う方もいらっしゃるかと思います。まぁ、また読者の方々に聞いてみて誰のエンディングが見たいのか……聞くとしましょう。それでは、何かお気づきになったことは感想や、メッセージでお願いしいたします。今、気がつきましたが今日は祝日だったんですね。普通にバイトがあったから気がつきませんでした……三月二十二日月曜、十九時二十九分雨月。

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