第八十八話◆:停学
第八十八話
今日の校長室は俺に対して口を閉ざしていた。前回の失敗をふまえた上で今度はノックをせずに扉を開けてみた。
「君はノックも出来ないのか」
「あ、すみません。急いでいたもので……」
そういって入ろうとするとやり直せと言われたのでもう一度やり直すことにする。
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一生懸命廊下を走ってきた俺は肩で息をする(ふりをする)。
「はぁ……はぁ……」
今日の校長室は俺に対して口を閉ざしていた。前回の失敗をふまえた上での失敗を次はふまえて試みる。
コンコン……
「どうぞ」
「失礼します」
次はやり直せとは言われなかったのでほっとした。扉を後ろ手に閉めて立っていると校庭を眺めていた校長がこっちを見ていた。
「雨乃零一君、君には本当……がっかりだ。今日から一ヶ月、君を停学処分にする」
いきなりそんな事を言われたどうせ、そんなことだろうと想像できていたので今更驚きもしない。
「え、ちょっと待ってくださいよ。どうにかならないんですか」
まぁ、どうせ結果は変わらないが、一応足掻いてみた。校長に殴りかかっても無意味であろう。今日は何故か、黒服、サングラスの体躯のよろしい人たちが校長を取り巻いて四人ほど無言で立っているのである。
「「「「……」」」」
この包囲網を潜り抜けて校長をどうこうしようという体力など、俺は持ち合わせていない。
「何で俺が停学処分になるんですか。きちんと説明してください」
無駄に感情はこめない。此処で怒ったところで何も変わりはしないし、結果は更に悪い方向に転がるだろうし。諦めたわけじゃない、冷静でいられるわけがない。俺は俺なりにどうにか停学を回避できないかと考えているだけだ。
説明を求めたのも説明の中で何か揚げ足を掴むためのものだ。
「残念だが此処は義務教育の場ではないんだよ。嫌なら、やめてもらって構わない」
しかしまぁ、相手はあれだ。歴戦の勇者的な存在だからか俺の魂胆もきっと丸見えだったに違いない。説明なんてしてくれなくてそれこそ、門前払いを喰らったわけだ。
「……」
ちょっとだけ恨みがましく校長を睨んでみたがそれ以上何も言ってくれなかった。そして、にらみ合いが続く校長室の扉が乱暴に開け放たれる。
「はー……はー……」
肩で息をして湯野花さんが飛び込んできたのだ。
「お、おじいちゃん……これは……どういうことですかっ」
近づいて、物申したところで校長先生は右手をちょっと動かして視線を湯野花さんから動かした。
「……この子を連れ出しなさい」
「「「「はっ」」」」
「ちょっとっ、放してくださいっ」
哀れ、湯野花さんはあっという間に校長室から四人の男に連れ出されたのである。なるほど、あの四人はこのためにいたのか。
「一ヶ月ですね」
深く、深呼吸して言葉を吐いた。
「ああ、一ヶ月だ」
「……わかりました」
こうして、俺は……雨乃零一は停学処分になったというわけである。自宅謹慎というわけで……佳奈の家にずっといなければいけないということだ。全く、ふざけているといえばふざけているのかもしれないが相手は校長先生だ。殴りかかったところで得など一切ない。それより、停学から退学というグレードアップも期待できるというまさに、百害あって一利なしという文字通りの何かが俺にプレゼントされるということだ。
「ちっくしょぉっ」
俺はその日、初めて屋上の壁に拳をぶつけて骨折という痛みを体験した。骨が折れるとは本当、痛いな。ちなみに、骨折だと知ったのはそれから数週間後のことだ。
疲労限界きている作者雨月です。死にそうと言おうとしてまちがって死にてぇと言ってしまいそうになりました。危なかった…。さて、そろそろあの方の登場です。三月二十二日月曜、十二時三十四分雨月。