第八十四話◆:ゼロツーの方舟
第八十四話
弱点があるというのは非常にいけないことなのだろう。いちいち、佳奈にニヤニヤされていたら俺のクールな心が打ち砕かれる日がいつかはくるかもしれん。
「なぁ、爺さん……どうやったら弱点って消すことが出来るんだ」
俺のケータイに色々と細工を施している忍者というよりも研究者の見た目となったニアの爺さんに話しかけた。
「あぁ、特訓すれば消えるじゃろ」
「特訓ってどんなことをすればいいんだよ」
「それは後で詳しく聞いてやるから……ほれ、出来たぞ」
乱暴に投げられたケータイを受け取る。
「おいおい、出来たって……爺さんが勝手につけたんだろ。出来たってまるで俺が頼んだみたいじゃないか」
「元ネタはお前じゃから仕方ないじゃろ……開けてみろ」
二つ折りのケータイをあける。以前は雲の待ち受けだったのに今ではしょぼいドットの二頭身女子が手を振っていた。
「一応、其処に文字が出てくるが普通に電話するように耳に当てると声も聞こえるぞ」
爺さんに言われたとおり、俺は耳を当ててみた。
『テステス、ただいま声帯のテスト中……あ、あ~、ゼロワン様、聞こえますか』
「ああ、聞こえてるよ」
どうして、こんなことになったのだろうか。
―――――――
文化祭があさってに迫った日、俺はニアの爺さんの呼び出し(矢文だった)をくらった。早速その日の放課後にニアの家によるとクノイチの姿をしたニアが顔を出したのである。
「な、なんでそんな格好してるんだ」
「だ、だって……零一がこの格好が好きだって言ったからだろ」
そんなこと言っただろうか。記憶にないな。ともかく、クノイチニアの案内で俺は地下室へと赴くことになったのである。
「じゃあ、ニアは修行があるから」
「修行って……どんなことするんだよ」
「苦手なものを克服するんだ」
そういって姿が消えた。ううん、最近思うんだけどニアって本当に忍者なのかもしれないな。いやいや、でも忍者なんていないだろ普通は。
忍者は置いておくとして地下へともぐる。地図は頭の中にしっかり叩き込まれているために迷う事無く爺さんがいる場所へとすぐに向かうことが出来た。
「ケータイはあるか」
「ああ、あるぜ」
すぐさまケータイが取り上げられてなにやら分解され始める。
「な、何するんだよ」
「ゼロツーを育ててもらおうと思ってな。まだボディーは完成しておらん」
そういって作業は続けられ……俺はぼーっとしていたということである。
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「で、弱点をどうのこうのと言っておったな」
「ああ、そうなんだ。どうやったら克服できるか何かいい手はないかって探しているところなんだ」
「そんなもんは簡単じゃ」
そういってため息をついた。
「慣れろ」
「え……」
「不安定な足場で戦うのが苦手ならばそこで戦い続け、電線の上での戦いが苦手ならばそこで戦い続けるんじゃっ」
な、なんだか……爺さんが凄い人に見えた気がする。いや、今でも充分凄い人なのだが。
「わ、わかった……俺、やってみる」
「そうじゃ、その意気じゃ」
『ゼロワン様、がんばってください』
―――――――――
「何よ、いきなり下着姿になれって……」
「俺はお前を超えたいんだっ。脱いでくれ」
「脱げってあんた……脱ぐわけないでしょ」
「お願いペーター」
「ぐっ………何処がペーターよ、何処がっ」
挑発にうまく乗ってくれた佳奈は服を脱いで……
「ぶはっ……やっぱり駄目じゃねぇかっ。こんなもん、慣れるかよ……」
視界が真っ赤に染まっていく。くっ、俺の力はこんなものなのか……
消え行く視界の中で、佳奈がニヤニヤしているところを見ると本当、俺は一生こいつに敵わないんだろうなと思った、佳奈だけに。
みんな大好きゼロツーのお話。さて、いかがだったでしょう。笑って頂けているのかは不明なのですがそれでいいんです。作者がやるべきことは執筆、読者がやるべきことは読書ですからね。感想、要望がありましたらご連絡下さい。三月十九日金曜、七時十二分雨月。