第八十三話◆:ひと時
第八十三話
文化祭が自由参加というのも珍しいかもしれないが俺の通っている高校は本当に自由参加である。
「零一は誰と一緒に文化祭に出るんだい」
昼休み、満がそんな事を言ってきた。そのことについてはすでに答えが出ているために首をすくめる。
「どうもこうも、その日はちょっと用事が出来ちまったから俺は出ねぇよ」
「ええっ、てっきり女をはべらせて、ついでに男もはべらせて登場するって思っていたのに」
「……俺はどんな人間だよ」
サングラスをかけてスターの衣装、女の肩に手を回して『HAHAHAHA』といいながら校門に入ってきているであろう自分の姿を想像して怖気がした。
「あ、そんなことより聞いてくれよぉ」
「そんなことってな……なんだよ」
「妹がこの高校を受験したいからどうすればいいかって聞かれたんだ」
「……それこそ、そんなことだな。俺がお前に教えてやれることなんてない。第一、俺は此処に入学してきたんじゃなくて転校してきたんだぜ」
ちなみに、俺が以前通っていた高校はアホが集う、アホのための高校だと言っていい。名前を書けば通るといわれていたぐらいで(実際に名前だけを書いて満足していた馬鹿は落ちた)相当、校舎がぼろぼろだった。トイレは個室のドアが壊されていたし、先輩達も悪そうなのがごろごろしていた気がする。
まぁ、こっちの高校の編入テストは間違いなく、以前の高校の入学テストよりも難しく、大変なものだったということを覚えている。よくもまぁ、たった一週間勉強をしてこっちに来れたものだと今更ながら冷や汗をかくね。
「ああ、そういえばそうか。じゃあ、この高校の名物って何だろうね。行事とかでもいいからあげてくれないかな」
「おいおい、俺はまだ一年生だぜ。そんなことなら上級生に聞けよ。真先輩とかいるだろ」
「だって、あの先輩に語らせたのをメモできるとは僕は思えないんだけど」
「……そうだな」
完全自立自動書記が何体いるだろうか。真先輩に聞くよりもやはりここは自分達が体験してきた行事を伝えたほうがいいだろう。
「って、そんなに俺らが体験してきたことなんてないぜ」
「む、そうだねぇ」
「いっそのこと、『僕がいること自体、あの高校の名物かな』とか言っちまえよ」
「無理だよっ、僕の妹は凶暴且つ、冗談が大嫌いなんだ。言ったら僕が逝っちまうよっ」
珍しく慌てている満だが……一度でいいから見てみたいなぁ、満の妹。
「ん、よく考えてみたら今度の文化祭につれてきてあげればいいんじゃないのか」
「あ、ああ……なるほど、それは盲点だったよ」
そんなときに教室の後ろの扉がスライドして笹川がやってきた。そのまま三冊の本を自分の机の上において読み始める。
「栞たんっ、僕と一緒に文化祭をエンジョイしてみないかいっ」
「……おいおい、お前は妹を案内しないといけないだろ」
「いいんだよ、あんな奴。放っておけば勝手に校内の何処でもうろつくだろうし……で、どうかな」
「………いい、遠慮しておく」
「の~んっ」
そういって教室を飛び出していった。あいつは本当、どんな脳みそしてるんだろうな。一度でいいから覗いて見たいという興味は相変わらず尽きない。
「笹川は文化祭参加するのか」
「……どうだろ、その日になってみないとわからない」
「そっか」
「雨乃は」
間髪いれずに返ってきた言葉にちょっと驚きながらも満に言ったそれと変わることのない言葉を笹川に喋る。
「俺か……俺は参加しないぜ。その日ちょっと用事があるからな」
「………それならわたしも参加しないわ」
「え、何でだよ」
全く意味がわからない。ついつい、そんな事を聞いてしまった……余計なことを聞いたりすると『聞くな』よりも先に拳か足が飛んでくるからなぁ……
「わたし、友達少ないから。一人で文化祭に行ったって楽しくなんてないもの」
しかし、今日に限って拳も蹴りも返ってこなかった。そして、驚くことにごく普通の、何処にでもいそうな少女の言葉が返ってきたのである。
「さ、笹川……お前、体調でも悪いのかよ。それとも、何か嫌なことでもあったのか」
「何言ってるの」
「い、いや……なんでもない」
最近になって気がついたのだが、俺ってたまに空気を読めていないのかもしれない。いや、自分では完全に空気を読めているつもりさぁ。会話だっていつもをかみ合っている気がしないでもないし、笹川とは変なところで繋がっているのかもしれない。
自分で何を言っているのかわからなくなってきたが、とりあえず笹川が俺のことを友達だと思ってくれているようなのでよしとしよう。
「……笹川、俺たちって友達か……ぐはっ」
今度は拳が返ってきた。何でだろう。友達って言ったじゃん。
「……友達じゃないわ、親友よ」
それだけ残してすぐさま、彼女は教室を飛び出してしまった。お、女の子ってわからんな。
満の妹の話がちょくちょく出てきていますがまだまだ本人は出てきません。予定としては……にだす予定です。楽しみにしていてください。シリアスやらないよ的な話を以前したような気がしますが、忘れてください。たまにはやります。感想なんかがあったらお願いします。それではまた次回。三月十八日木曜、八時三十二分雨月。