第七十九話◆:コンボの出し方
第七十九話
「今日は……ニアきゅんに告白しますっ」
「毎度毎度、お前の根性は凄いと思うぜ」
「四度目の聖天使はきっと僕の潔白なるこの心に舞い降りてくれるだろう」
まだ暑いからなぁ、暑さにやられたんだろう。かわいそうに。
「やめておいたほうがいいんじゃないのか」
「ふっ、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるんだよ。見てな、僕が君の人生の先輩となる瞬間をね……」
教室の扉に手をかけ、スライドさせる。
五分もしないうちに乱暴にドアが開け放たれた。
「聞いてくれよ、零一ぃ」
「ど、どうしたんだよ」
ぼろぼろの姿で帰ってきた満は目に涙を浮かべたりしている。相当ひどい仕打ちをくらったようだ。
「……ヘタレの匂いがするって言われたんだっ。僕ってそんなにヘタレの匂いがするかなぁ」
「……そんな匂いするもんだろうか」
「いやいや、その見解はまだまだ君が若い証拠だね、この世の中にはヘタレの匂いがする男子が存在するものなのだよ。いいかい、満君に零一君。君がニア・D・ロード君に右向き状態で←→Pで出せる『ニア・アップ』で宙に浮いた後の→↑↑Kの『ニア・ブレイク』、↑↑←P『ニア・ジェネシス』を喰らい、↑↑↑→←K『ニア・システムゼロ』でバウンドした間の時間に彼女は↓←→↑←Pで繰り出される『ゼロツーシステムの支援』というコンボを完成させたんだ。まぁ、それらの連続コンボを叩き込まれる前に昨日の夜に兄妹ゲンカで君が負けたのもヘタレといわれるゆえんだろうね。まったく、妹に負けるなんて同じ兄として情けないよ」
首をすくめてそういう真先輩だったが……俺と満は、満よりもぼろぼろとなっている真先輩を凝視していた。どっからわいたとかの質問は一切なしだ。気がついたら其処にいる存在その一だからな。
「真先輩、その右目……どうしたんですか」
青あざが出来ている。左目のほうには眼帯がされていた。唇は妙に膨れているし、右腕辺りは青あざだらけで包帯までされていて痛々しい。
「栞にやられたんだ。昨日の夜に宝をいつものように本の森に隠そうとしていたところを彼女に見つかってね……いやぁ、まいったまいった。まぁ、先に言っておくけどぼくの拳だって妹に……」
「ぜんぜん届かなかったわよ」
「……」
あ、珍しく真先輩が黙り込んだぞ。
笹川がやってきてそういう。そのまま席に座った。
「………俺は妹いないからわからないんですけど……真先輩はともかく、満は弱すぎだろ」
「いいや、それは違うね。僕の妹が強すぎるんだよっ」
吐き捨てるようにそういうが、満から以前聞いた妹の話では『二メートルを超えて、丸太のような腕をしており、まるで戦車のような体躯をしている』という化け物のような存在ではないようだし。いくらなんでも、そんなの相手にしたら勝てないんだろうが……本当、ヘタレだな。
「ウソをつくなよ。だからヘタレって言われるんだ。真先輩なんてある意味自業自得だけど、笹川が妹だったら俺も兄妹喧嘩で勝てるとは思えな……ごはっ」
隣から飛んできた拳と辞書がもれなく俺の急所に直撃する。勿論、それは他のクラスメートが見ていないところでの凶行だ。
「くっ、相変わらずやるじゃね……げはっ」
次々と飛んでくる拳に蹴りを俺は避ける術など知らない。自分の思うままに雲が宙を浮いていると思うな、あれは風に全てを左右されているだけの流されるままの存在だ。そして、俺もまたそんな雲のような存在だ。
倒れ付す俺を見ながら真先輩はうんうんと頷いていた。
「………これぞまさしく『笹川(妹)スペシャル』。まずは←←←Pから繰り出される『栞の気持ち』で相手をスタンさせ、←←←↓P『栞のため息』、↓↓←P『栞の笑顔』の連続攻撃で相手に息つく暇も与えさせずに→→←←K『栞の覚醒』後の←←→→K『栞連撃初ノ鐘 開キ足』、↑→↓←↑P『栞連撃中ノ鐘 時計回リ』、↑↑P『栞連撃終ノ鐘 撃砕』……まさか、ここまで洗練された動きとは……昨日、ぼくが練習台にされていたのはこれを完成させるためか」
納得している真先輩だが……煙の出ている俺を何とかして欲しい。
「……雨乃も駄目ね」
「……お前が強すぎ……ぐはぁっ」
最後に辞書が投げられた。まったく、もうちょっとは優しい対応して欲しいものだな。
「ほ、ほら、立ちなさいよ……手、かしてあげるから」
そんな甘い期待をしちゃ、いけないでしょうか……
「零一、世間ってつらいんだなぁ」
「そうだな、満」
「そうだよ、二人とも」
男三人の友情が深まった気がした。
はい、今日も休みになりました。昨日はジンクス作ってました。小説書くとか言っておきながらジンクスです。タンスの上で只今朝日を浴びて輝いています。よし、今日こそ小説を書くぞ…と、一応宣言はしておきます。三月十六日火曜、七時十六分雨月。