第七十七話◆:ニアが知りたい事は実力をもって…
第七十七話
校門を出ると、俺は鎖でがんじがらめにされた。いきなり、分銅のついた鎖が飛んできて俺をぐるぐる巻きにしたのである。どうやってそうしたのかはわからないが、両足も別の鎖でしっかりと固定されていたりする。それでも、飛び跳ねて急いで逃げようとしたら今度は壁に貼り付けにされた。まるで、標本のようだ。
「……零一、あいつら何なんだ」
ニアの声が背後から聞こえる。いつもの間の抜けたような声ではなく、鋭く、冷たい声だったりするのがちょっとだけ怖かった。
「に、ニア……え~と、これは一体全体何の真似だ。まるで忍者だぜ」
俺を貼り付けにしているのは棒手裏剣に十字手裏剣だった。きっと、身体のどこかに当たっていたならば確実に血を見ることになっていただろう。まぁ、そこは俺の高い運動神経が何とか……いたっ。
恐ろしく冷たい瞳をしているニアは静かに近づいてくる。その姿がクノイチのような露出の多いもので、それに見とれている間(色気にやられたとは絶対に思っていない)気がついたら絆公園まで移動していた。
「え、どうなってるんだ」
「……零一、ニアはお前が苦しむところなんてあまり見たくないし、これを使いたくもないんだ」
そういって蒼と紅のマーブルの液体が入った注射器を俺にチラつかせる。
「そ、それはどういった用途でつかうんだ……」
「ああ、これか……これはな、首筋の脈に打ち込んでやるんだ。すると……あっさりと知りたいことを教えてくれるじーじがくれたクスリだ」
「……」
「素直に答えてくれ」
あの爺さん、孫になんてものを……まぁ、もしも渡そうとしている場面に出会ってもニアが持っているのなら別にいいかぁと流してしまいそうだ。
自白剤なんて本当、遠慮したかったので俺は首が千切れるほど縦にふりたくった。
「うん、ニアは素直な零一が大好きだ」
「はははは、それは嬉しいなぁ……ちっちゃなやつが雨乃佳奈って名前で俺を預かってくれている親戚の娘、肩までの髪で鋭い目をしていたのが笹川栞でな、俺の席のお隣だ。残ったメガネをかけている子が湯野花朱莉……こ、これでいいか」
そういってニアのほうへと首を動かす。ものすご~く、疑っているような目を俺に向けている。
「……嘘なんてついていないよな」
「も、勿論だ」
嘘であると思った方はご連絡ください。誠心誠意、真心こめて弁解に応じます。俺ってさ、嘘なんてつかない人間だし。そうニアに言ってみるが相変わらずの怪しいやつだという目をしている。俺から言わせてもらえばニアのほうが怪しいぜ、絶対。
「で、零一はニアのことをどう思ってる」
「え、ニアのことか……」
唐突にそういわれても……
「ちょっとまった、まずはその危ない注射器を放そうか」
蒼と紅のマーブルがどろりと注射器内で蠢く。それって一体全体何なんだよっ。すっごく、怖い……俺の身体全体がそれに近づいちゃいけないって訴えているぜ。
「……安心しろ。零一が悩んだとしてもお前の口はしっかりと答えを導き出してくれるからな」
「……ニアのことだろ……えっとだな、ほら、何処となく謎があって純粋に凄いやつだ。マネキンの時だってしっかり俺を守ってくれたし」
あれは本当に格好良かったな。それに、心で通じ合ってるって感じる事が出来たし、これまで一人で生きてきたって言ったら言い過ぎかもしれないが心が通じる友人、『心友』だとニアのことを思えた。俺もニアのことをあの時一切心配しなかったのはそれほど信頼していたということなのだろう。
俺の気持ちがしっかりと伝わったのか近寄っていたニアの魔の手がようやく動きを停止した。よし、いいぞ俺っ。他にもニアが活躍した何かを記憶から穿り返すんだ。このまま押し返してそんな危ないものは捨てさせて所持しちゃいけないと説得させろっ。
しかし……他にこれといってニアと何かしたって記憶がねぇな。なまじっか、爺さんのほうがキャラが濃いからニアのことを思い出そうとしてもおまけのはずの爺さんが高笑いをして俺の脳内を駆け巡ってしまう。
「ゼロツーじゃあ、ゼロツーの完成を急ぐんじゃあ」
「ゼロワン様、身体を手に入れた暁には共にお爺様のお世話をしましょう」
いかん、ほかの事まで脳内に出てきている。俺って意外と記憶力いいよなぁ、テストのときにこのぐらい出てくれればもうちっとましな点数が採れるはずなのによぉ。
「……」
いいい、いかんっ。またもや針が俺の首筋へっ……急げ、嘘をついてもいいから何か、何か……
ぷすり
「にゅああああああああ」
その後、俺は何を口にしたのか覚えておらず、気がついたら雨乃家前に転がっていた。後日、俺がニアの家に行くと何故か、ニアがクノイチの服装をしていた。
「な、なんでそんな格好してるんだ」
「だ、だって……零一がこの格好が好きだって言ったからだろ」
そんなこと言っただろうか。記憶にないな。
最近、空振り気味な作者雨月です。昨日のバイトでは荷台でドナドナしてました。さて、今日からまた新しい週が始まったわけですが(実は日曜が頭ですが)疲れが残っていると青空を見るのも億劫なのですよ。意味がわからなくなってきていますが、日曜潰れたのは痛かった。時間がないため、日曜にまとめて執筆しているのです。あくまで仮のもので加筆修正は投稿前日にやります。では、また次回。感想などがありましたら宜しくお願いします。三月十五日月曜、雨月。