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第七十五話◆:笹川の教えて欲しい事

第七十五話

「ねぇ、あの連中について教えてくれない」

「ん、どういうことだよ。あの連中って……」

 隣人さんにそういわれたが俺は顔をしかめるしかなかった。本当に何処のどの連中なのか見当もつかない。そんな時、満がやってきて馬鹿にしたかのように首をすくめやがった。

「栞たんは佳奈つん、朱莉ん、ニアきゅんの事を説明して欲しいと零一に言っているんだよ」

「どうでもいいけどよ、お前のその他人の呼び方どうにかならねぇのかよ」

「そりゃあ、記憶喪失になってでも無理だね……おっと、これから僕は朱莉んに告白するための必勝法を考えないといけないんだった」

 右手を軽く上げて去っていった幸せな男を見送って俺は笹川のほうへと視線を動かした。

「教えて欲しいのは誰のことなんだ」

「……全員よ」

 まぁ、その程度ならばいいだろう。

「ちっちゃくて俺の近くにいたのが雨乃佳奈だ。親戚で俺は其処に今、住まわせてもらってる」

「何で、住まわせてもらっているの」

 詳しいことはあまり人に話さないほうがいいかもしれないと思っていたため、聞かれるまでは説明してない。もともと、というか……このことを知っているのは多分、佳奈と湯野花さんぐらいだろう。

「そりゃあ……以前は爺ちゃんと一緒に住んでいたんだけどよ、行方不明になっちまったんだ。だからだよ」

 爺ちゃんが行方不明になったというのは俺が転校してきたときに先生が言ってくれたと俺は記憶しているのだが、どうであろうか。ま、その時点では笹川にとって俺という転校生などどうでもいい存在でしかなかったに違いない。

「両親は」

「え」

「雨乃の両親はどうしたの」

「……う~ん、それが……爺ちゃんが言うには行方不明だってさ」

「……」

 急に黙り込み、笹川は何かを考えているようだった。いつも何を考えているのかわからないために今更その顔を眺めていたところで何かがわかるというわけでもない。

「雨乃は……寂しくないの」

「ん、寂しいかって……難しい質問だな。とりあえず、今は寂しくないぜ」

「何で」

 今日の笹川はやたらと突っ込んで聞いてくるなぁ……まぁ、いいけどな。

「だって、住む場所はあるし、俺のことを心配してくれる人もいる。笹川みたいな友達だっているからな。そりゃ、誰も……家族、話せる友人もいなかったりしたら寂しいかも知れねぇけど……う~ん、ま、お前みたいな友達がいるからこうやって話してるんだけどな。やっぱり、笹川だって一人だったら寂しいなって思うときがあったりするだろ」

「わたしは……」

 口ごもり、迷っているようだ。一人が似合う雰囲気もあるのだが、この前のクラスメート告白イベントはやっぱり、一人じゃ出来ないことだからな。みんなに囲まれて一人で本を読んでいるというそんな姿が似合っているのかもしれない。一見すると孤独のようだがそれはみんなが笹川という人間をわかってくれているからだ。

「……今は、一人でいたら寂しいかもしれない」

「なんで『かもしれない』なんだよ」

「だって、一人になっていないから」

「まぁ、そうだよなぁ、大体が俺と一緒だしなぁ」

 授業中は勿論お隣にいるし、昼休みの時だって満と馬鹿をやっている俺を笹川が殴る、蹴る、叩くという三拍子捉えた突込みを繰り広げる。

「雨乃は……」

 ふと、思いついたかのように俺の名前を呼ぶ。しかし、その後はなかなか続かなかった。

「ん、何だよ」

「ううん、なんでもない」

 そういってふと、別のことを思い出したようでこんなことを言い出した。

「確か、朱莉とニアって人が雨乃の周りにいたわよね」

「ああ、いたな」

「……あの人たち、わたしと違って一般人っぽくない」

「え」

 鋭く言い当てたことも驚いたのだが、『わたしと違って』というところにも首を傾げざる負えなかった。

「で、何が言いたいんだよ」

「ずっと一緒にいると何か面倒ごとに巻き込まれると思う……友達として、忠告しとく」

 そっぽを向いてそういわれた。残念ながらとっくの昔にその忠告を受けていたというのなら俺の未来はちょっとぐらいなら変わっていたのかも知れない。だが、もう変わることはないだろう。

「ちょっと、その忠告は遅かったかもなぁ」

「……」

「けどまぁ、忠告してくれてありがとよ。それより、笹川って人を見る目はあるんだな」

 自分を客観的に見れないんだな……とは言わなかった。

「別に、雰囲気でわかるから」

「そっか、じゃあ俺はどんな感じだよ」

「……変質者」

「……」

 あながち、間違ってはいないのかもしれない。


バイト昼休みです。三月十四日日曜、十二時二十九分雨月。

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