第七十四話◆:女子の邂逅
第七十四話
「ふわ、眠……」
「早く寝ないのが悪いんでしょ」
朝の登校時、佳奈と一緒にアスファルトを歩く。眠い、ただ一言に尽きるな。
「佳奈つ~んそれと、零一、おはよう」
「おはよう、吉田君」
「満、お前自分をふったやつにさわやかに挨拶できるほど凄い人間だったんだな」
皮肉交じりにそういうと頷かれた。
「僕は零一と違ってさわやかを売りにしているからね。残念ながら恨みがましいことを言ったりはしないのさ」
「それは見上げた根性だな」
ま、俺にはあまり関係ないけどな。佳奈は佳奈で普通に挨拶してるし。そんなものなのだろうか。
「あ、偶然ですねっ」
「んを……湯野花さん」
「おはよう、零一君」
「おっほぉ、零一ぃ。僕は今胸がときめいたよ」
「……」
曲がり角から湯野花さんが突如として顔を出し、それにいちいち満が反応する。やれやれ、朝から騒がしいことだな……ついでに、佳奈が湯野花さんのことをジト目で見ている気がするのは何でだろう。
まぁ、嫌いじゃないけどな。
「やぁやぁやぁ、これはこれは……結構な大所帯になっているじゃないか。おはよう、零一君、それと彼のお友達だよね……ぼくは笹川真と言って雨乃零一君、そして吉田満君の友人だから何か困ったときは先輩として君たちにも力を貸してあげよう。ええとだね、それと……」
真先輩が顔を出す。そして、もう一人……
「……雨乃、おはよう」
「あ、ああ……笹川、おはよう」
「「……」」
「……」
佳奈と湯野花さんがなにやら笹川のことを睨んでいる気がしないでもない。さて、なにやら不穏な雰囲気になってきたので綺麗な輪を保とうと考えてみたりする。
「おっはよ~、零一っ」
「ぐっはぁっ」
まぁ、考えている途中で強制的に現実に戻されてしまったわけだが。
「「「……」」」
き、気のせいか知らないが……佳奈、湯野花さん、笹川から睨まれている気がしてならない。
「ん、零一、こいつら誰だ」
「俺の友達だ」
「そっかぁ……あ、笹川栞だ」
「知ってるのかよ」
「名前だけ」
「なんだそりゃ」
笹川はニアのことを睨みつけている。そして、ニアもその挑戦的な瞳を真っ向から受け止めていた。
「いやぁ、相変わらず零一君は凄いと思うよ。これだけのメンツをそろえることが出来るんだからね。メンツといえば、このメンツの中にしっかりとぼくが組み込まれていなかったらどうしようかとついつい不安になってしまうよ。ちょっと彼女達はぼくとちがって濃厚すぎる人たちだからねぇ。勿論、ぼくの妹もなかなかいい味を出しているだろうね。ぼくがとても一般人過ぎるのが逆に目立ってしまって申し訳ない気分だよ」
「いや、先輩はしっかりと、中央にいるほうっすからあんしんしてください」
「そうかな、満君はどう思う」
「え、僕は……一般人過ぎるのでなんとも言い難いです」
「そうかぁ、お前はそういいながら名前とか手帳に刻み込んで……『告白予定帳簿』って、お前はここのメンバー全員に告白するつもりかよ」
「僕は物量戦闘が得意なんだ。この世のどこかにはきっと僕のことを受け止めてくれる人がいてくれるに違いない」
そんなこんなで大所帯となった集団登校。ちょっと漢字を間違えれば何か面倒ごとを引き起こした連中による集団投降。もっとも、後者の場合は笹川とニアがおとなしく投降してくれるなんて考えもつかないけどな。
男子メンバーのほうは結構団結力が固そうなのだが女子のほうはどうも、仲があまりよろしくないようでまるで、殺人現場のような張り詰めた空気が其処には漂っていた。
「「「「………」」」」
佳奈が湯野花さんと話しておらず、まぁ、笹川はいつもの通りだんまり、湯野花さんは『地獄行き列車名簿』と書かれた手帳に一生懸命何かを書き込み、ニアが珍しく相手をしっかりと観察している。
「……な、何なんだろうなぁ、この空気は」
重苦しいだけで非生産的だ。誰か何とか、して頂戴っ。
実は会っていなかったんですね。このまま会わなければよかったのかもしれませんけど。まぁ、世の中なるようにしかならなかったりします。そして、予定としましては前作以降からの長編がそろそろきます。中心人物がなんと、湯野花です。陰が薄いっぽいので仕方ないと言えば仕方ないと思います。うすばかげろう、薄馬鹿下郎…特に意味はありません。薄刃陽炎だったら格好いいなぁと思っただけです。三月十三日土曜、七時二十一分雨月。