第七十三話◆:かなへのこくはく
第七十三話
今年の残暑は本当に厳しいもので相変わらずの紫外線を浴びながらグラウンドでソフトボールをしている連中を眺める。時折吹く風も生暖かい。
「……あぁ、だりぃ」
サボって木陰に座る俺だが、他の連中もやりたくない連中はだらだらしている。デッドボールで悶え、苦しんでのた打ち回っている満だが……残念ながらあれは演技だな。ひじをかすった程度でオーバーだ。
「いやぁ、痛くて選手交代してもらったよ」
「そりゃあ、よかったな」
どうでもよさげにそうつぶやく。俺のすぐ傍に腰をかけてため息をついた。
「零一、僕は恋をしたんだ」
「ああ、そうか」
「だからさ、今日の放課後に告白をしようと思う。僕の青春の目次は今此処なんだ」
また、相変わらず夢と希望で生きている想像妄想爆発野郎だな。きっと脳みその中身はピンクで固められているに違いない。
しかし、流石にそれを面と向かって教えてやるのは憚られた。人は失敗を経験して強くなる人間だと偉い先生がテレビで言っていたような気がすると佳奈が昨日の夜に言っていた気がする。鈴音さんに対しての言い訳で使用していたな、皿を三枚程度割っちまったときに。
「で、誰に挑戦状を送りつけるんだよ」
「ふっふっふ、聞いて驚くなよ……それはな、雨乃佳奈つんだっ」
「……そうか、佳奈つんに告白するのか……」
よかったな、佳奈。お前のことが好きで好きでたまらないという男が現れたぞ。
「あれ、思ったより興味持ってくれないんだね」
満が俺を見ながらそういう。俺はニヒルに笑ってこういった。
「……人はな、あまりの暑さを感じてしまうと自己防衛反応が働くようになっているんだよ。今は暑くてどうしようもないんだよ」
「なるほど、時間差で驚くってやつだね」
「ああ、きっと今日の夜にお前のケータイに電話して驚いてやるぜ」
――――――――
「って、えぇぇっ、お前佳奈に告白するのっ」
「意外と驚いてくれるの早かったね」
佳奈に告白をするとは……全く、本当に、救いようのないやつだな。あの佳奈だぞ、佳奈だ。
「零一、何で起こしてくれないのよっ」
「零一、料理がまずいわよっ」
「零一、洗濯物が飛んでいっているわよっ」
「零一、部屋の掃除してよっ」
きっと、満はお尻にしかれて……可哀想に。零一の部分が満にいずれ変わってしまうのかと思うと心底ほっとしてしまう。
「あのさ、なんでニヤついているんだい」
「まぁ、何だ。お前の輝かしい未来を称えて応援するぞ」
「ふっ、ありがとう……だけど、この愛は自分ひとりで貫いて見せるから安心して屋上から堂々と佳奈つんの彼氏となる僕を見ていてくれ」
――――――――
屋上から校舎裏を眺めることにする。お、何も知らない佳奈がやってきたぞ……すぐに隠れていた満が姿を現して……ど、土下座だとっ……おいおい、最初ッから堂々としてないぞっ。
「……あーりゃりゃ、かわいそうに」
佳奈は頭を下げて去って行ってしまった。後に残されたのはかわいそうな空気と、土下座をしている哀れな満だけだった。
その後、満に佳奈から何を言われて断られたのかと訊ねると……
「……なんだかさ、家族のことで色々とあるから今は恋愛なんて考えられないって……」
はて、家族のことで色々ってどういうことなんだろうか。あいにく、満は俺に答えを求めていたようだったが俺はその答えを持ち合わせてはいなかった。
メガネを瞬間接着剤でつけてみました。効果の程はまた明日、報告します。メッセージを一件いただいていたのを言うのを完全に忘れていました。まだまだ零一がどんな人間かはお待ちしております。恥ずかしさなんて捨てて是非お願いします。三月十二日金曜、七時八分雨月。