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第七十話◆:家族の場所

第七十話

 暗く、広い部屋に廊下の光が差し込まれる。

「ただいま帰りました、旦那様」

「……お父さん、お帰りなさい」

「旦那様、ただいまわたくしは仕事中の身でございます」

 慇懃な態度で執事はそう告げる。暗かった部屋に光がともされ、歳より若く見える男が机についていた。オーラが物語っている、一言で言うならばダンディーだった。

 部屋に入ってきた執事のほうへと首を傾け、男は執事へと尋ねる。

「失礼、零一の話について雨乃家に行って来たのだろう」

「はい、そうです。養子の件については以前も話したとおり、鈴音さん、達郎さんはすでに知っておりまして、長女であります佳奈さんに話をしてまいりました。雨乃零一のままか、東零一であるかはあの子が鍵を握っております。勝手な判断をした報いどんなものでも受けますので命令ください」

 再び頭を下げる執事に男はため息で返した。

「……あの子の肉親はお前だからな。零一のことを考えてのことだろう」

「いえ、あくまで仮のものでございますから……それより、洋一郎様のほうはどうしたのですか。屋敷のほうに姿が見えないようですが……」

 その返事はやはり、ため息であった。

「あの馬鹿はメイドと一緒に遊園地だ」

「なるほど、美月でございますね」

 気の強い洋一郎の専属メイドが脳内で拳を握っている。幼馴染であったから心から繋がっていると執事は考える。そういえば、婚前の儀式も彼の友人達によってめちゃめちゃにされたと話を聞いている。

「まったく、あいつも自分の出生を知ったら驚くだろうな」

「いずれはこの東を継がせるのでしょう」

「いや、私は子どもにレールの準備はしてやるが走らせようとは思わないな。いずれは私の子であると洋一郎にも伝えるが……いまは自由にさせておこう」

 椅子から立ち上がり、廊下のほうへと男は向かう。

「ああ、そういえば……奥様がそろそろここに来るそうで……」

「えっ……」

 これまでダンディーだった男の顔が真っ青に染まる。

「え、嘘……何で」

「それはご自分がよくご存知かと……」

 そういわれると思い当たる節があったようで男はあごに手をつけて考え込む。

「おっかしいなぁ、どこでしくじったっけ……ともかく、今は逃げるほうが先決だな」

 うん、逃げよう。それだけ行って男は躊躇無く、窓を開け放って飛び降りるのであった。その後、すぐさま廊下側の扉がドタンという音と共に開け放たれる。

「ちっ、逃げられたかっ。お父さん、あいつは何処ッ」

「旦那様はすでに窓から退室なされましたよ」

「またその手かっ……今日という今日は許さないんだからっ」

 恨みをこめたかのように扉を乱暴に閉め、去っていく音が聞こえてくる。

「ふぅ、行ったか」

「……今度は何をされたのですか」

 わかっていて聞いているような節があった。男はそれを承知で情けない顔を執事へと向ける。

「いや、ちょっと寝ている隙にマジックで顔に落書きしただけだ」

 ちょっとした冗談だったんだけどなぁと男はため息をついた。

「相変わらず、奥様はプライドが高いですからね」

「ああ、そうだなぁ……」

 少しだけほのぼのとした空気が流れるが、すぐさままた、シリアス全開の雰囲気へと様変わりする。

「ところで……零一には追跡者としての見込みはあったのか」

「……ええ、ばっちりでございますが……ただ、複数人で動くよりも単独行動のほうがすばらしい成果を出しますね。今現在も変わらないようです。湯野花の娘と共に探偵ごっこをなさっているようですけどね」

「なるほど、湯野花か……」

 一つため息をついてどうしたものかと首をかしげる。

「もう一つ、湯野花の娘に零一お坊ちゃまの出自がばれてしまっているようですね」

「ふぅむ……それはまた、面倒になったな。誰が漏らした」

「佳奈さんでございます」

「……なるほど、楽観視するわけには行かないが……ここは零一のお手並み拝見と行こうじゃないか。手段を選ばない湯野花勇気の娘だからな……」

「しっかりと尾行しております」

「よろしい、それでは後は頼んだぞ」

 いきなりそういって窓を開け、再び姿を消した。それと同時に扉が勢いよく開けられる。

「あ~もうっ、あいつには奇襲も通用しないのね」

「まだまだ、お前ではあの方を捕らえる事は難しいようだな」

「あのね、パパは黙っててよ」

「それはすまなかった」

 執事は慇懃な態度で頭を下げる。そして、女性はいなくなった。ただ一人、部屋に残った執事は口元をゆがめ、笑うのであった。

「ここは何も変わらないな」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

 下でついに捕まったようで悲鳴が聞こえてくる。それを聞き流し、執事は部屋を退室するのであった。

「おや、これは……」

「……お爺様、下の悲劇は何なのでしょう。また、パパが何かをしたんですね」

「まぁ、そういったところでございます」

 中学生ぐらいの少女が執事へとそう告げる。執事は笑って廊下を歩き去っていった。


眠いっす。そろそろ起きねばならないっす。せっかくの七十話なのに後書き解説、出来なくて申し訳ないっす。ああ、今日はあのうたを歌わないといけないっす。三月九日火曜、八時十一分雨月。

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