第六十八話◆:突然の猛る霧
第六十八話
「い、いやぁぁぁぁぁっ」
「待てこらーっ」
唐突な話だが、俺は三人に追いかけられている。湯野花さんが図書館に佳奈を連れて行ったその日の放課後のことである。女に追いかけられているのならこれほど嬉しいことはないのだろうが、相手は男だ。俺に睨まれたとか因縁を吹っかけられたのだ。制服を見たところ、どうやら近隣の工業高校の連中のようで、相変わらずあそこは噂に聞く番長制度があるらしい。
俺、追いかけられるより追いかけるほうが好きなんだけどなぁ。大体、追いかけるときに待てこらーっとか侘び寂びって物をわかっちゃいないね。きづかれるか、気づかれないかのどきどきを楽しむもんだって……うお、行き止まりかよっ。
「へっへっへ、観念しな」
「く……」
まるで変質者の声のようだ。
いつもだったらあいているはずのドアが開かない。此処を抜けることが出来ればお店を突っ切ることが出来るので巻くことも可能かと思ったのだがそうもいかないのだなぁ、人生という奴は。
人生の黄昏時かと腹をくくっていると声が聞こえてきた。
「まぁた、君たちか。いい加減懲りたものかと思ったんだけれど……僕の考えが甘かったようだね」
「そ、その声は……」
不良三人組がおののく。どうやら、知り合いがきたようで最初はこの不良の上の立場にある人たちかと思ったがどうやら違うようだった。
「洋一郎をいじめなくなったと思ったらこうやってすぐまたいじめるんだ……猛、行くよ」
「おう」
俺を助けてくれたのは二メートルを超えたおっさんのような高校生と、柔和そうな男子高校生だった。これがまた、見ていて恐ろしいものがあった。おっさんのほうは拳一撃で相手を沈め、もう一人の男子高校生は二人相手に投げ技、関節技という独特な方法で相手を気絶させてしまった。気のせいかもしれないが、関節技を受けた奴の腕が変な方向に曲がっているように見えなくも無い。
「ふぅ、これで終わった……洋一郎、怪我はないかい」
「え、あ……」
「おい、こいつ洋一郎じゃないぜ」
おっさんのほうがそういう。
「あ、本当だ」
「あ、本当だ……じゃねぇよ。まぁ、いいか。こいつらを今度視界の隅に映したら悪いことは言わない、さっさと逃げるんだな」
「そうそう、かかわると面倒ごとに巻き込まれちゃうからね」
柔和そうな男子高校生は笑ってそういった。
「あの、ありがとうございます」
「いいよいいよ、あのさ、君もしかして……洋一郎の弟だったりするかな」
「すみません、俺、残念ながら一人っ子なんで」
「そっか、まぁ、そうだよね。似てるけどさ、世の中には三人ぐらい似ている人がいるって言うからねぇ」
謎の正義の味方である高校生はそのまま去っていった。名前も何も聞いていないのだがそれがまた、格好よかったりする。
「格好いいなぁ、俺もあんなふうになれたらなぁ」
まぁ、なれないっていうのはわかっているので俺は無駄な努力はしないほうだ。
――――――――
「いやぁ、昨日は本当に参ったぜ」
「何かあったの」
珍しく話しに乗ってきてくれた笹川に事情を説明。無表情が変わる事無く、どうでもよさげに本を読み出した。
「……きっと雨乃は幻覚でも見たんじゃないの」
「ええっ、幻覚じゃねぇよ」
「そんなに喧嘩が強い人たちがいるわけ無いじゃない」
いや、そのハードルを軽く超える奴が何を言い始めるのだろうか。俺はそれが不思議でならなかった。
「ともかく、御礼になったんだからいつか恩返しをしないとな。あの人たちが困った時に助けてやるとかしないと」
「……雨乃じゃちょっと無理かもね」
確かにそうかもしれないが、あの人たちが不良に囲まれて大変だったときは笹川とニアを連れて行こう。そうすれば、俺がぼこぼこにされたとしてもあの人たちを助けることは可能であろう。
しかし、あの人たちの名前ぐらい聞いておけばよかったな。
…死にそうです。友人とカラオケに行き、午後十時から午前五時までずっと歌いました。あ〜眩暈が…徹夜型の人間ではないのでもうフラフラ。そういう理由で今回のあとがきは…無しです。三月七日日曜、十時三十七分雨月。