第六十五話◆:壊す。
第六十五話
絆公園の中央にある噴水にツーショットの写真を裏側に沈めると仲がよくなる。ただ、男女の仲というよりもこれは友人同士でする人のほうが多いそうだ。誰が最初に言い出したのかは定かではない話だが、信憑性はともかく、試す人が後を絶たないのである。ただ、条件としては写真を鎮めるその姿を誰かに見られてはいけないというものがあった。
「じゃあ、俺がお前について行っちゃ駄目だろ」
零一はそういうが、満は首を横に振る。
「零一には見張りをしていて欲しいんだ。僕が写真を沈める間誰かが噴水に近づかないようにね。勿論、僕が写真を沈めているところを見たりしては駄目だよ」
「まぁ、いいけどよ……」
話をしているうちに件の絆公園へとつく。零一は公園の入り口付近で辺りを見渡すが、人っ子一人、その姿を確認することは出来ない。一見すると誰も寄り付かなさそうな雰囲気のある公園だ。
「本当に効果なんてあるのかねぇ~」
未だ信じることの出来ない零一は無駄な時間を過ごしているのではないだろうかと一人でぼーっと立っているのであった。偶然かどうかはわからないが、絆公園に変質者が出たという話を数十分後、警察が聞きつけてここにやってきたことを零一は知らない。
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一方、噴水付近へとやってきた満はツーショットの写真を手にしていた。
「まぁ、これで彼女が出来たらいいんだけどなぁ」
そんな事を一人で口走っていた。噴水淵に足を載せたところで一枚の写真が目に入った。基本的に、ここに裏返しにされている写真を表にしてはいけない。それは大体の人が知っていることでその行為をしてしまった場合は祟られるとのことなのだ。だが、間違えて写真が表になってしまうこともあるだろう。
その写真はまさに、表になってしまった写真だった。
満は噴水の中に手を突っ込み、写真を手に撮る。まだ残暑が残っているためか、噴水の水はちょうど気持ちよくて触っていて苦にならなかった。
「……」
写真の中でウェディングドレス姿の笹川栞とタキシード姿の雨乃零一が笑っていた。めったに見せない微笑だけに栞のその表情は見たものを魅了させる何かがあった。
「……」
写真を裏返しにして噴水の中に沈める。そして、自分の写真をびりびりに破いて彼は公園入り口で待っている友人のところへと帰っていった。
―――――――
「ねぇ、栞ちゃん」
「ん」
暑さでへばっている零一に話しかける事無く、満は零一の隣人である栞に話しかける。本を読んでいる栞はいつものように無表情である。
「あのさ、ちょっと話があるから廊下に来てくれないかな」
「おいおい、廊下で告白かよ」
零一がそう口を挟むが、満は無視をする。ぶつくさ文句を言っている零一をおいて二人で廊下へとやってくる。零一は興味が無いのか机から立ち上がろうともしなかった。
「あのさ、昨日絆公園にいったんだ」
「ああ、そう」
「それでね、零一と……栞ちゃんが写っている写真があったんだけど、あれを沈めたのは……」
栞は頷く。
「えっと、何で沈めたのか教えてもらえると嬉しいんだけど」
「……それは……」
どう説明したらいいだろうか。なにやら迷っている表情を少しだけ浮かべ、口をもごもごと動かした。
「……わたしの世界を壊した人だから」
「え……」
「知らなかった世界を教えてくれた人だから」
「……」
満の頭の中には鞭でびしびし零一を叩く栞の姿が形成される。そんな満を見てどうやら言葉がうまく伝わっていないと栞はため息をついた。
「……零一は友達だから。とてもとても、大切な友達。一人だったわたしの世界を壊してくれた人だから」
「……あ、ああ……なるほどね。なぁんだ、びっくりした」
「もう、いいかしら」
「うん、ごめん。あのさ、栞ちゃん……」
「何」
「……がんばって、僕、応援するからさ」
そういうと栞は顔を背けて教室に戻るのだった。
「……いやぁ、流石にあの表情を栞ちゃんにさせることなんて僕には出来ないだろうなぁ」
満はつぶやいて友人が待っているであろう教室へと戻る。
残暑の残る、まだ暑い日の出来事であった。
今日はバイトの給料日。世の中金だと言いたいけれど、そうはいかぬが世の中です。降る雨、吹く風なんのその。この日の為に頑張りました。っと、どうでしょう、リズムよく文章作ってみました。ま、そんなものはいらないかもしれませんね。さて、笹川編が一つ終わってしまいました。まだまだ序章みたいなものですから次回にも期待していて下さい。三月四日木曜、七時十五分雨月。