第六十一話◆:うぶなんです
第六十一話
佳奈の元気がないのは当たり前なのだがちょっとばかり、イライラしてきた。夕食のときに一生懸命料理を作ってやっておいしいかと訊ねても返事も適当にされてしまうし、挨拶はスルー。流石にそれはひどいのではないのだろうか。
「佳奈、新作のショートコントを披露するから見てくれよ」
「……うん」
上の空。まぁ、いい。このショートコントを
「……今、ちょっと落し物をしているの。私の胸が……ないのっ……って、元からじゃんっ……どうだった」
「……」
じーっと俺の目を見て、佳奈はため息をついた。
「……知らないのっていいことよね」
「意味がわからんぞっ」
「……別に」
そういって風呂場へと消えてしまった。
「……改良の余地があるな。披露したのに佳奈が疲労しただけじゃないかっ」
俺、たまに自分の才能が怖くなるよ。
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雨乃零一がくだらないショートコントを親戚である雨乃佳奈にみせて数十分後、脱衣所で零一は血を流していた。
「か、佳奈……お前……」
そのまま倒れ、動かなくなった。まぶたは閉じられており、まだ触れば温かいだろう。
「……い、いやぁぁぁぁぁっ」
佳奈は手についた零一の血を見る事無く、下着姿で自分の肩を抱いて叫ぶ。しかし、その叫びを聞くものは誰一人としておらず……いたとしても零一は倒れてしまっている。
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「……やらしい」
「別に、やらしいってわけじゃないだろ。てっきりもうあがっちまったもんだと思ってあけたらお前がいたんだからよっ。だ、誰が好き好んでお前の裸を見ようとするんだっ」
鼻の穴にティッシュを詰め込んだ俺は不注意且つ、責任転嫁をしている佳奈へと責任をお返しする。
そんな俺をどう思っているのかは知らないが、佳奈はジト目で見ているのである。そして、なんだか嬉しそうに言うのだった。
「……いつもは私のことをペーターとかまな板とかペタン娘とか言うくせに私の下着姿見て鼻血を出した挙句、倒れるなんて信じられないわね~」
「……」
ま、まぁ、確かにそうだ。佳奈の下着姿なんてみて俺が鼻血を噴出すなどと……いかん、想像したらまた、出てきてしまう。
「……あれはな、ピーナッツの食いすぎにチョコレートの食いすぎの状態だったからだ。ほら、昨日の夜はレバー食べたろ。あれも原因のひとつだ」
一生懸命言い訳したが、佳奈は信じてくれていないようだ。
「……本当にぃ、それならまた、見せてあげようか」
「………」
一瞬、再び脳内に下着姿の佳奈が現れる。頬を朱に染めるというか、真っ赤に染めている表情が可愛かった。
「う・そ」
「………いや、別に見たくないから」
元気そうに笑う佳奈はいつもの佳奈のようで此処最近の元気のない、思いつめていたような表情の佳奈ではなかった。
「……なぁ、佳奈……」
「何よ。えっちな零一君」
「……誰がえっちだ……お前よ、あんまり思いつめんなよ」
「何のことよ」
そう佳奈はとぼけたように言うが、俺から言わせてもらえば嘘がへたくそだ。
「困ったことがあるなら俺にも話せよ。一人で思いつめてもいい結果なんて出せないだろ……えっと、なんだ……その、居候の俺が言うのもなんだけどよ、家族だって思っているから。大切な……その、佳奈にだっていつも世話になっているし、恩返しの一つや二つ、俺にだって出来るはずだから」
「……」
一瞬、佳奈は驚いたような表情を見せる。しかし、それも本当に一瞬だけで次の表情は悲しそうな横顔だった。
「……そういってくれるのは嬉しいけど……ごめん、やっぱりこの問題は自分で解決したいことだから」
それだけ言って佳奈は自分の部屋に戻ってしまう。
「……」
俺に関係のある話なんだろうか……まぁ、佳奈が自分で決めるというのなら好きなようにさせたほうがいいのかもしれない。
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悲しい表情を最後に見せた佳奈の事を少しは心配していたが、佳奈は何かを決心したのか悩む姿を見せなくなった。いいことなのだろう。
日曜日ぐらいしかしっかりとした後書きが書けなくなったのもバイトのためです。すみません、いいわけです。さて、零一が以前自分の出自について知っているとは後書きでネタ晴らしをした気がしないでもありませんが、知っていたとしてもそれを信じているか、信じていないかによってこの情報は若干変わってきたりするといっておきます。たまに、ほんのたまに思うことなんですけどもう一人自分がいたらいいなぁと思うときがあります。そうしたら代わりに別の小説を書いてもらいたいと思っていますから。ああ、今度はドッペルゲンガーの話を書くのもいいかもしれません。一時期は二つの小説を同時進行でやったりしていましたがやるものじゃありませんね。あれは疲弊します。国語の勉強をしながら数学の勉強をするような感じです。そういえば、零一には兄貴がいます。わかる人もいるかもしれませんがあいつです。屋敷に住んでいるあいつです。ではまた、次回冴えない後書きでお会いしましょう。