第六話◆:追跡癖の少女
第六話
「あ、えっと……悪い、人違いだ」
間違えたのだから謝るのは当然である。間違って謝ることができない人間は多々いるが、すぐに謝らないと二人の間の溝は刻一刻と広がり、深くなる。深さはそれこそ千差万別。水溜りから深海へと……それほど種類があるのだ。
「あ、いえ、こちらこそ……」
申し訳なさそうに、アスファルトにお尻をつけてそういう。
「あの、すいませんが……腰が抜けてしまったのでちょっと立たせてくれませんか」
「わかった」
差し出された手を掴み、立たせる。
「……」
女の子の手って柔らかいんだなぁ。
「あの、もう立てましたよ」
「え、あ、ああ……悪い」
慌てて手を離す。
「あ、ところで……だな、あのな、何で俺を尾行していたんだよ」
「……えーと、それはですね」
しどろもどろといった感じで頬をかく。もしかして、この人ストーカーか何かだろうか……
「なんだか怪しい目であたしを見ていますね。残念ながらストーカーじゃありませんよ。通りすがりの美少女です」
「ストーカー、特定の個人に異常なほど関心をもってその人の意思に反してまで跡を追い続けてしまう人のことを……つまり、あんたは俺の意思に反してついてきているのだからストーカー、はい、警察に」
しっかりと手を掴み、連れて行こうとする。
「え、ちょ、ちょっとっ。わかりました、本当のこと言いますからねっ」
そういって慌てて手を離された。うん、何度掴んでも柔らかいものなんだな。
「で、あんたは一体全体俺に何の用があったんだよ」
「……実はですね、非常に……信じられないかもしれないかもしれませんが……追跡癖があるんですよ」
「追跡癖……」
「信じて……もらえないんでしょうね。いいんです、もう警察の方ともお知り合いになっていますから」
そういって悲しそうに微笑む。あ、今なんだか心臓がキュンってなった気がする。
「仲間ですっ」
「え……」
俺はしっかりと相手の手を掴んで上に下に振っていた。
「俺も、俺も追跡癖なんですっ。あの、何で、俺を追跡したんですかっ」
「何で敬語……ええとですね、だって、あんなにぼこぼこにされて倒れていたんですから興味をもったんです。何処の誰かなぁと……」
あははは……そう笑う少女の顔は……可愛かった。
「だから、追跡していたんですっ、すいませんでしたっ」
「いやいや、気にしないでください……いやぁ、これほど嬉しい日はないな。あははは……じゃ、今日はこれにてお開きということで」
いやぁ、今日の俺は気分がいいな。
―――――――
「ただいまかえりました」
「あ、お帰り……って大丈夫なの」
親戚のおばさんが俺の姿を見てびっくりしていた。
「せ、制服がぼろぼろ……」
「ああ、これですか。気にしないでくださいよ……ちょっといろいろとあっただけですから。それに、今日の俺はとっても気分が良いので……」
「あ、零一」
「よぉ、佳奈。いやぁ、いい一日だったな」
こうして、俺の転校初日は終わったのだった。ああ、そういえば佳奈とけんかしていたんだったっけな。
無視する。
→謝る。
きっと、将来は探偵になると思いますよ。迷い猫から事件まで。幅広く追跡して犯人や迷い猫を捕獲してくれるはずです。さて、第六話です。今後もこの調子でがんばっていきたいと思いますので出来ましたら応援よろしくお願いします。じつは、今回の小説、とある目標を立てています。その目標がやぶれてしまったときに皆様に報告しようかな、そう思っています。それでは、また次回お会いしましょう。二月一日月曜、十五時五十一分雨月。