第五十九話◆:頼りになるなら頼りたい
第五十九話
佳奈の様子がおかしいのは相変わらずだった。ものすごく気になって気になって仕方がなく、夏休みということで佳奈は部活へと向かうのだが俺もそれについていったりする。いや、勿論ばれないようについていくわけである。
それでわかったことなのだが佳奈は弓道部とは別に演劇部に所属しているということがわかった。
ともかく、一緒に生活している俺がわからないのでこれはもう、知り合いというか、友達に聞くしかないな。そういった結論に至ったので俺は佳奈の友人に電話してみることにした。
相手はこの前の喫茶店で俺を待ってくれている。
「ん~なるほど、佳奈さんがおかしいということですね」
「ああ、おかしいんだ。ぼーっとしているし、たまにこっちをちらちらみるし」
「それって零一君に恋をしているというわけでは……」
「俺もそう思ったんだが違うって佳奈の両親に言われちまった……ん、何肩を落としているんだよ」
「零一君と同じ考えだったということがリアルに凹みますね」
「それはそれでひでぇよ」
「じゃあ、他の男子に恋をしたとか」
「俺もそう思って何日か追跡したり、気になる男子はいないのかと聞いたんだけど駄目だった……また、肩を落としているじゃねぇか」
「……女版雨乃零一なんて名前がついたとき、あたしはどうしたらいいんでしょうか」
作戦会議は十分ほど続き、俺と湯野花さんの行きつく先が同じだった。
「じゃ、あたしが聞いておきますね」
ケータイを片手にそういう。これから此処に呼び出すのである。
「ああ、よろしく頼むぜ。それとなくな」
「任せておいてください」
胸を叩いて見せたのだが、俺は不安だったりする。なんとなくだが、湯野花さんが胸を叩いたときはあまりいいことが無かったりするのである。
―――――――
変装すること無く、俺はばれないような位置に陣取って新聞を広げている。それには一つ、穴が開けられており、そこから覗き込むというひとつ前のコントに使われそうな仕様である。ウェイトレスさんからの視線をたまに感じるがそれは俺がダンディーな男であるための仕方がないことであろう。まったく、モテル男って結構大変だぜ。
此処からでも充分聞こえる範囲のために特別な装置などは使用していない。
「佳奈さん、最近零一君が佳奈がちらちらこっちを見てるって言ってますよ」
「……零一が……」
そういって頼んでいたアイスコーヒーをごくごくと飲んでいる。どうやら湯野花さんは急いできて欲しいとメールを送ったようである。律儀だからなぁ、佳奈は。一生懸命はしってここまでやって来たに違いない。
「それで、佳奈さんが零一君にお熱なんじゃないかと思いましてねぇ」
「げほっ、げほげほ……わ、私が零一にお熱って……ありえないわよ」
笑っているところをみるとそうなのだろう。まぁ、そんなことはどうでもいいが流石湯野花さん、それとなく冗談から入ってきている。
「朱莉、ところでなんでそんな事を聞くのよ」
「参考までに聞こうと思ってまして」
「ははぁ~ん、なるほど。そういえば朱莉は零一の後をつけていたわよね。だからかぁ……心配しなくていいわよ」
「そ、そんなことはどうでもいいですから」
佳奈のだからかぁと、そんなことはどうでもいいが気になったのだが、今知りたいことはそっちではなかったりする。
「別に零一にお熱で盗み見ているわけじゃないの」
「では、どういった理由で」
「……ちょっとね。聞いちゃいけないことを聞いちゃって……こればっかりは朱莉にもいえない零一に関係する大切な話だからさ」
「教えてくださいよ」
「……駄目」
佳奈の表情が変わる。あの表情は意固地になった状態だろう。絶対に話さないときめた表情で、俺は諦めることが多い。
「……そうですか、わかりました」
どうやら友人である湯野花さんはそのことを知っているようであっさりと両手をあげた。
「すみませ~ん、この子に特注パフェ一つお願いしまーす」
「え、いいのっ」
「ええ、構いませんよ。でも、勿論交換条件ですけどね。ああ、安心してください。あたし、口は硬いほうですから胸の奥にしっかりとしまいこんでおきます」
そういってにこりと笑う。あの表情は詐欺師の表情だな。というか……俺に関係する秘密って佳奈にとって特注パフェより軽いものなんだな。ちょっとショック。
「零一のおじいさんが行方不明ってことはすでに知っているわよね」
「ええ、それはすでに調べ上げてますから。だから、佳奈さんの家に来ているんですよね」
「そうだけどね……この前実は……」
佳奈は辺りをきょろきょろと見渡した後に、耳打ちをしたようだ。湯野花さんの表情は変わった。目を見開いて、隠れている俺のほうを見ているのだった。
―――――――
「で、どうだった」
「……その、これは……すみません、あたしは帰ります」
佳奈が帰り、湯野花さんも帰ってしまった。何故、そうなったのかはわからなかったが俺は特注パフェの金を払わなくはいけなくなり、財布が軽くなった気がする。
「……割にあわねぇ」
そんな呟きを誰も聞いてはくれなかった。
先に言っておきます。この小説は前作の間山二年生の時がちょうど今の話ということになります。更に言うならば…(時間がないため略)………といった事が起こります。楽しみに待っていて下さい。もしかしたら前作が復活するかもしれませんね。二月二十六日金曜、八時三十二分雨月。