第五十七話◆:夢のゼロツー計画
第五十七話
「若造、お前は天使を見たことはあるかのう」
「え、うーん、絵でならみたことはあるぞ」
「何が生えていた」
「何って……あれだろ。大体白い翼が生えてるだろ」
「そうじゃな、正解じゃ」
ニアから電話があったと思って出てみると実は爺さんだった。ちょっとショックが大きかったが緊急招集を受け、こうやってニアの家にいるということである。正確に言うならば、道場のほうで黒板を前にしているというわけだが。
ニアは修行に出ているためにいないらしい。生まれ変わったニアが戻ってくるから期待しておけと爺さんから言われたときはケン○ロウっぽいニアかジ○ジョっぽいニアだったらどうしようと俺は悩んでいたりする。
「鳥は何故、空を飛んでいると思う」
「え、それは……空を飛んでみたいっておもったからじゃねぇのかよ」
適当にそういってみる。
「そんな馬鹿な話があるわけないじゃろ。天敵から逃れるため、空を飛ぶようになった虫などを捕らえるためでもあるじゃろうて。空を飛んでみたいなどという妄想は衣食住が足りた後に、そういった思考ができるんじゃよ。鳥に手が生えていないのは手が翼に変わっているからじゃ。それがどうじゃ……天使の背中には白い翼が生えておるが、きちんと両腕が備わっておる。翼は基本的に手が進化をしていったもののはずじゃ。つまり、四本腕の人間がいたとするならば……翼が生えることも可能じゃろう」
四本腕といわれて一つのシルエットが浮かび上がる。
「え、じゃあ……爺さんはあのマネキンに翼をつけたいとでも思っているのか」
「その通りじゃ」
頷くがそれはあくまで持論であってそうでもないだろうよ。まぁ、俺も頭がいいというわけではないのでどうのこうのといえる立場でもなんでもない。
「ん……でも、あれって確か介護用とかって理由で作ってるんだったよな」
「そうじゃな、翼があれば色々と便利な場面もあるじゃろうからそう考えているだけじゃよ」
あくまで机上の空論じゃな。そういっているがにやけているところをみるとしっかり考えているようである。
「で、今日俺を呼んだのはそれを一生懸命説明するためなのか」
「違うぞ、今日はお前さんとゼロツーをかけっこさせるためじゃよ」
「ゼロ……ツー……」
そういえばゼロワンはニアに破壊されたとかどうとか……もはや、SFの世界である。でも、ビームサーベルもビームライフルとかじゃないよなぁ。最近思うんだけどニアって忍者か何かじゃないのだろうか。
「って、あの怖いマネキンとかけっこさせるのかよ」
「その不安はすでに解消されておる。この世に天使は存在せん。じゃがな、人が天使を作り上げることは可能なはずじゃ……ゼロツー、入ってきなさい」
「はい、ダニエル様」
そういってふすまを開けて入ってきたのは目の赤い一人の少女であった。髪もきちんと生えており、天使という割には忍者っぽい服を着ていたりする。
「翼のほうはまだ完成しておらんから仮の腕がついておる」
少女の背中から生えるそれは確かに翼ではなく、二本の腕であった。手をグー、パーと交互にしているために記憶の奥底に眠っている恐怖が呼び起こされている気がしてならなかった。
「こちらが今回のテスト相手となってくれる若造じゃ」
「ゼロワン様ですね。ダニエル様から話は聞いております」
「え、いや……零一なんだが……」
「零とはすなわちゼロでしょう。そして一とはワン、つまり、は一というものですよね。ゼロワンで間違ってはいないと思います。私は先ほども紹介されましたがゼロツーといいます。ゼロワン様、今後はお見知りおきを」
そういって深々と頭を下げた。
「まぁ、ゼロワンでいいけどよ……」
どうせ機械に何を言っても仕方が無いだろう。もはや、諦めた。
「若造、ゼロツーにはすでに実践装備がいくつか詰まれておるからな。ただの人造人間だからといって侮るでないぞ」
「……実践装備って何だよ」
「はい、それでは説明させていただきますね」
そういって黒板になにやら図を書き始める。どうやら、自分の絵を描いているようだ。
「まず、背中の二本の腕は射出可能です。最大出力ならば半径一メートルほどの岩石にも穴を穿つことが可能です」
「もはや介護レベルじゃないな」
「介護にはパワーが必要なのじゃよ」
「まぁ、これはあくまで翼がつけられるまでの緊急措置です。翼が生えたならば身長差のある人を補助することが出来ますからね」
それはまぁ、いいことなのだろう。
「そのほかにも両腕からは敵意を持った相手を気絶させるためのスタンガンが装備されていますし、申請許可が下りている場合は各種、SWが使用可能です」
「……ちなみに、そのSWとやらは何があるんだよ」
「超電磁Δ木馬や拘束用電磁縄、電磁鞭……」
「もういい、爺さん……あんたは何を考えているんだよ」
「安心せい、今回お前さんが捕まれば実際にそれらのSWが使用されるからな」
「いやだーっ」
――――――――
そんな夢を見た。それを遊びにいったニアの家でしたのだが爺さんは食いついてきた。
「ほほう、それは実に面白そうな話じゃな。特に最後のSW」
「じーじ、夢の話だぞ」
ニアは笑ってそういうが、あの爺さんの微笑み、実際にやりそうでかなり怖い。
昨日は朝から最後までずっと箱を洗うという作業でした。四つ重なったら消えてくれたらいいのになぁ。そんな事を考えるのはよくないですね。今回は夢の話でしたが、どうだったでしょう。いつか、本当に登場するのか…ゼロツー。二月二十四日水曜、七時十八分