第五十六話◆:おかしいかな
第五十六話
佳奈がおかしい。
「……」
あれから一週間が経ったがなにやら常に考え事をしているようである。食事中もぼーっとしていることが多くて、俺をたまに盗み見ているような気がしてならない。鈴音さんと達郎さんも気がついているようだが、何も言わなかった。
佳奈がお風呂に入っている間、俺は鈴音さんが食器を洗っている隣でコンロを綺麗にしていた。
「最近佳奈の様子がおかしいっすね」
「そうね……」
鈴音さんはどうやら事情を知っているようなそぶりだ。
「あの、何か悪いことでも起こったんですか。それに、最近佳奈がやけに俺を見ているような気がしているんです……もしかして、佳奈は俺に恋でもしたんですかねぇ」
「ふふふ、それならいいんだけどねぇ」
やっぱり、笑われてしまった。それに、これは全く見当違いの答えだったようで達郎さんも後ろのほうで笑っている。
「おいおい、そりゃないぜ……まぁ、お前さんの事に関係しているのは間違いないな」
「え、俺のことなんですかっ」
「ああ、そうだぜ」
「教えてくださいよ」
そういってみるが返事はない。
「悪いな、ちょっとこればっかりはいえないからよ。約束は守らないと人としてどうかと思われちまう。そういえば水族館、楽しんできたのかよ」
話を変えられてしまったがどうせ、答えてくれないのならば仕方のないことなのだろう。
「まぁ、俺は楽しかったんですけど佳奈が返事もしてくれなかったんでさびしかったといえばさびしかったですね」
「……そうか……そうだったな。ちょうどあの日だったからな……」
そういって達郎さんは立ち上がった。
「じゃ、俺はもう寝るわ」
「え、まだ十時にもなっていませんけど……」
「明日は早いんだ」
そういって姿を消してしまった。
「零一君、東グループって知っているわよね」
鈴音さんが食器を洗い終えたようでテーブルにつく。俺もそれをならって鈴音さんの前へと腰を下ろした。
「ええ、確か……去年、野々村グループと業務提携を破棄したところですよね。かなり有名なところですよ」
確か最初の頃は製薬会社だったそうだが、今では様々なものを事業として扱っている層である。大体の人が知っている会社だ。
「それがどうかしたんですか」
「……いいえ、別に何もしてないけど……ごめんなさいね、私ももう寝るわね」
そういって鈴音さんも部屋から出て行ってしまった。何故、東グループの話なんて出てきたのだろうか。
さっぱりわからない俺……
「零一」
「あ、佳奈か……どうかしたのかよ」
いつもの元気は何処へやら……何やら悩んだ表情の佳奈がパジャマを着て部屋の出入り口付近に立っていた。ちょうどお風呂上りのようで湯気がまだ上がっている。
「ううん、別にどうもしてない。おやすみ」
「え、もう寝るのかよ」
「……」
そのまま部屋の扉を開けて消えてしまった。
全く、みんなどうかしたのだろうか。なんだかやけに避けられている気がしてならない。
「……俺、なんだか匂うのかな」
わきの下を匂ってみたが、まぁ、多少、汗臭かったが避けられるほど臭くは無いはずである。う~ん、だけど、あれだな。ここって意外と清潔好きだから汗臭いのがちょっとでも出ていたら駄目なんだろうなぁ……達郎さんが臭い時っていつも鈴音さんと佳奈からファブリー○を直接かけられているからなぁ……
「……って、違うんだろうなぁ」
しみじみ、考えてみた……が、答えは出てこない。わからないことを、まだ、色々と材料が足りない状態で考えてみても答えは出てこないに違いない。考えることを放棄するのはいけないことだが、たまには保留にしておいてもいいだろう。
どうせ、まだ夏休みは長いのである。それに、いつかはわからないが佳奈の口から話を聞くことだって出来るはずだ。
最近、長靴が似合ってきてしまった作者、雨月です。一つ、言わせてもらいますが二番煎じなんてかっこわるい!それだけ言わせてもらえば結構です。おいておくとして、以前書いた小説で出した天使の名前を最近、みかけました。そこでも天使で偶然ってあるんだなぁ、そう思いました。今日も元気にフル稼働、頑張りましょう。二月二十三日火曜、七時二十二分雨月。