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第五十四話◆:写真の微笑み

第五十四話

 笹川から電話をもらったのは意外中の意外だった。空から魚が群れで降ってくるといわれるよりも驚いたのかもしれない。そうだなぁ、朝の十時ぐらいに連絡があって十分以内に商店街の一角の『笹川写真屋』に来いといわれたのだ。ちなみに、この写真屋は笹川の親戚のお姉さんがしているようで、その人は真さんと仲がかなりいいそうである。笹川妹のことを心底可愛がっているそうだ。

「いやぁ、君がしおりんの親友さんかぁ。うぬぬん、いい男だ。惚れ惚れするねぇ」

「え、あ、あはははは……それはどうも」

 これがまたが、えらく綺麗な人で見られるだけで照れる。いやぁ、凄い綺麗な人だなぁ……

「おっと、あんまり私に見とれているとしおりんに怒られちゃうぞぉ」

「……別に怒ったりしないわ」

「まぁたまたっ。そうやって拗ねたような表情がまた可愛いねぇ」

 そういって親戚さんは笹川を抱きしめすりすりとしている。笹川はもうどうにでもしてくれといった表情だった。

「さて、じゃあ……親友第一号の零一君と一緒に記念撮影をしようかっ」

「え、何ですかそれ……」

「うぬぬんっ……やれやれ、しおりんは零一君に言っていなかったんだね」

 ため息をついてはいたが、あまり呆れてはいないようだった。

「……言ってはないけど、わかると思っていたから」

「まぁ、いいか。零一君は写真恐怖症、またはシャッターアレルギーとかじゃないよね。ついでに言うなら写されて魂が抜ける~とか、悪霊みたいにダメージを受けるとかそういったこともないよねぇ」

 頷く。勿論、そんなことはない。

「じゃあ、早速撮影しようか。しおりんに心の友達とかいて『心友』と読む。いいねぇ、青春だ」

 俺としおりん……ではなく、笹川は手をひかれて店の中へと入ったのであった。



――――――――



 メイド服と執事服に始まり、チャイナ服とパンダ、看護師と医者の格好などなど……女王様の衣装が出てきたときは驚いたのだが、すでにその頃にはあの笹川にちょっとした笑みが出ていたのである。

「いいね、しおりん。そう、もっと笑って……そうそう、そのままそのまま」

 これもまぁ、笹川の親戚さんの力であろう。

 うまくのせられたためか、何の抵抗も無く笹川は女王様の格好をしたわけである。

「じゃあ、零一君はこれだ」

「……首輪っすか」

「そうだよ。さぁ、早く」

「……」

 いや、別にのせられたわけじゃないぞ。俺はしたくてしたわけじゃないからな。笹川がせっかく笑っているのだからこのまま続けようと思っただけだ。



―――――――――



 最後に凄いのを見せてやるといわれたために俺は待合室で待たされていた。

「……」

 この写真屋の壁には様々な写真が飾ってあるがどれも笑顔だった。むっつりした表情をした人は全くおらず、どれもこれも笑っているのである。

「お……」

 そんな中に一つだけ笹川を小さくしたような少女の写真を俺は見つけた。ここで撮られた物ではないようで、場所はわからないが制服を着ているところをみるとどうやら学校でとられたもののようだ。一生懸命笑いをこらえてクールを装っているような微妙な表情だった。

「それ、なかなかいいでしょ~」

「うわっ」

 そんな声をかけられる。写真に見入ってしまった為に気がつかなかった……

「しおりんがなかなか笑わないのは勿論なんだけどね、それはもう、小学生の頃から友達の前じゃ笑わなくなったの」

「……」

「いなかったからね、友達が。だけどまぁ、こうやって写真を撮って思うんだけどあの子には笑顔が一番」

 そういって一着の服を俺に渡していた。

「……えーと、次はこれを着れと……」

「うぬぬん、もしかして……嫌なのかい」

「いや、そうじゃないんですけど……」

 衣装を手渡されるときに笹川の親戚さんは首をかしげながらいうのだった。

「うーん、こういうことを私からいうのはどうかと思うんだけど……しおりんは変に一匹狼気取ってるところがあるけど、ちゃんと面倒見てあげてね。根はいい子だからさ」



――――――――



 扉を開けた向こうにはウェディングドレス姿の笹川栞が待っていた。その手にはブーケが握られている。

「遅いわよ……」

「あ、わ、わりぃ……」

 見とれていた、などと死んでも言うまい。直視など出来ないぐらいに可愛く、どうやら薄い化粧までしているようだった。純白のドレスは凛とした表情の笹川にぴったりで……

「何ぼーっとしているのよ。ほら、早くしなさいよ」

「あ……わかった」

 隣に立つと、腕を絡められる。

「あの人のお願いだから」

 照れなど一切感じさせない。そんな笹川のことを凄いと俺は思った。

「はいはい、じゃあ記念だからちゃんと笑ってねぇ。じゃ、写真、いっきま~す」




 隣を見ることが出来なかったが、後日渡された写真の中でしっかりと笹川は写真を見るものに対して微笑んでくれていた。


やった、とうとう雨月に休日がやってきたっ。さて、今後の小説方針についてですが、各家庭の事情とやらにスポットをあてていこうかな、そう考えています。まぁ、すでに笹川栞に言わせてもらえば今回から入っているわけなんですけどね。方針は決っているんですけどなかなか……進まないのが現状でもありますけど。ともかく、次回も乞うご期待していてください。二月二十一日日曜、八時五十一分雨月。

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