第五十二話◆:地下室の鬼ごっこ
第五十二話
警報音はいまだに鳴り響き、規則正しく俺とニアの身体を紅く点灯させている。
「え、お、俺たちが見つかったのか」
「……違う、これは犯人がばれたんだ」
そういってニアは先ほど『犬』が曲がっていた角へと向かっていく。
俺も急いで曲がり角を曲がり、誰かが何かにつかまれているのに気がついた。誰かを掴んでいるそいつは信じられないことに腕が四本あった。目は赤く光って人間じゃない、なんだか記憶の底で消えていた記憶が復活しそうになったがそれより速くニアがその人間なのかなんなのかはわからないが腕を切り落とした。
「零一、こっちだ」
捕縛されていた人間を抱えてニアは俺を誘導する。其処には一つの部屋があって急いで俺も其処に滑り込んだ。
鉄製の扉を閉めたのはいいが、相手はこれを壊す気でいるようだ……体当たりで鉄板が凹むのをみるとリアルに恐怖を感じる。
「げほげほ……ぐは……」
「こいつが犯人だな」
「ああ、そのようだな」
あっさり捕まえたのはいいのだが、脱出手段が今のところ無い。俺たちが逃げ込んだ部屋は階段のある部屋だったのだ。しかも、地上へと向かうものではなく更に地下へと向かうものだから運がない。
「……ニア、この階段下に脱出用の何かってあるよな」
「そうだな、じーじの部屋にたどり着ければ、もしくはいずれ追いかけてくるだろうそいつをまいて再び階段を駆け上がってこれれば脱出は出来るな」
扉がいつまでももつということはまずないだろう。徐々にだが鉄製の扉は崩壊していっているのだ。
黒の覆面で顔を隠しているそいつが何なのかは俺にはわからなかったがとりあえず、更に地下へと向かうことにする。
―――――――
地下二階へとやってきて地下一階とは違う雰囲気事に気がついた。足元は木目で純和風の廊下のようだし、換気用のダクトなどもそれらに似合うよう見た目がかえられている。ふすまや障子があり、それらの一つを開けると畳の部屋となっていた。まだ奥があるようでふすまは続いている。部屋や廊下は変に明るい。まるで、日光を直接取り込んでいるような錯覚さえ覚えた。
同じ部屋が永遠と続いているように感じてならない。
「地図とかもらってないよなぁ。爺さんは迷わないのかよ」
「じーじはここの地図、全部頭に叩き込んでいるから必要ないっていってたぞ」
そりゃまた、不親切にもほどがあるな。とりあえず、障子やふすまを開けていった。だが、何処もはずれで上から凄い音が聞こえてきた。
「どうやら、突破されたようだな」
「零一、大人しくあいつの隙を窺って上に戻ったほうがよさそうだぞ」
「……よし、そうしよう」
急いで階段付近まで戻って隠れる。いずれ、またこの地下室へとやってくることがあるかもしれない。そのときにじっくり隅々まで確認することにしよう。
俺らに気がつくことなく、そいつは見当違いのほうへと歩いていった。そいつが何者だったのか俺はようやく気がついた。マネキンのような身体に、肩辺りからは腕が生えている機械のようなやつだった。右手はニアに切断されてしまったために二の腕のみがぶら下がっている。願わくば、そいつにもう一度会いたいとは思わなかった。
―――――――
やり過ごしてじめじめとした地下一階へと戻ってきた俺たち。看板を背負った謎の男を更に背負っているニアに疲労の色は見られなかった。男は大人だ、そして、結構ごつい体つきをしている。
「よし、脱出だな」
ニアの話によると警報がなっている間は地上へと繋がる階段がなくなってしまうらしい。階段が上がり、地上への脱出路が絶たれてしまうのである。
後一歩といったところでニアが足を止めた。
「……零一、この男を背負って先に家に行っていてくれ」
ニアにそういわれては仕方がない。俺はその男性を背負ったわけだが重かった。こんなものを背負ってずっと歩いていたとは…ニアって一体何者なのだろう。
「ん、ああ……ニアはどうするんだ」
ニアが後ろを振り返る。俺もついでに振り返ってぎょっとした。
いまや三本腕となったマネキンが立っていたのだ。真っ赤に目を光らせているが、警報は鳴り響かない。
「……こいつ、警報装置を破壊してきたんだ。放っておくと上まで出てくるぞ」
「……倒せるのかよ」
「ニアを誰だと思ってる。その男をあっちに送り届けるのが零一の仕事だ。ニアはニアの仕事をするだけだ」
全く、格好いい奴だな。
「じーじにさっさと渡して待ってろ。これを終わらせて一緒に遊ぶぞ」
「ああ、待ってるぜ」
二度と振り向くことなく、俺は地上への階段を駆け上がったのだった。
はい、どうも雨月ですよ。さて、これからどういった事になるのか…期待させておきながら何もないというのもいいですけど期待しておいて下さい。二月十九日金曜、七時十六分。




