第五十話◆:ニア家の頼み
第五十話
「へぇ、すでに迷い猫の依頼は終わっていたんですね。教える手間が省けましたよ」
「さっさと俺に教えてくれればよかったじゃねぇか」
湯野花さんに呼び出しを喰らった俺は喫茶店へとやってきていた。ちなみに、それまで俺が何をしていたかというと佳奈による『夏休みの宿題を終わらせる会』をやっていた。これがもう、卑怯というか、頭脳戦というか……学校から出された宿題を二つに分けて担当をきめてやっているのである。国語、歴史が得意な俺はそちらを、理科、数学が得意な佳奈がそっちの宿題を終えてお互いに補完するという一切隙の無い作戦である。佳奈は笑って言うのだった。
「ばれなければ犯罪じゃないわ」
いや、別に犯罪でもなんでもないことなんだけどな。ともかく、俺は国語の宿題を軒並み潰していっている途中だったのだ。
白い椅子に座ってアイスコーヒーを飲んでいる湯野花さんを見つけて俺は合流したのである。彼女は薄いピンクのワンピースにジャケットという格好。俺はジーパンにTシャツといった格好。
「そうもいきませんよ。スケジュール調整だってありますし、第一にあたし達はあくまで高校生。勉学そっちのけでお仕事をしてどうするんですか。これが教師陣にばれてしまった場合はあまりよくないことが起こりますよ」
「まぁ、そうだけどよぉ」
ストローでオレンジジュースを混ぜながらどう言い返したものかと考える。まぁ、考え付かないわけだけどな。
「ま、きちんとお金はもらっているから構いませんけどね」
「結局湯野花さんが管理しているんだな」
「面倒ごとを背負い込みたいのならば代わって上げますけど」
「いや、遠慮しておくよ……で、俺を今日呼び出したのは一体全体何なんだよ」
アイスコーヒーを一口飲んで湯野花さんは一つ、ため息をついた。
「勿論、お仕事の話ですよ。それ以外に何があるんですか」
「ん~まぁ、想像つかないな」
そうでしょうね。そういって立ち上がる。
「じゃあ、行きましょうか」
「ん、ここで話すんじゃないのかよ」
「たまには依頼主の口から直接聞いて、考えてもらいたいって思ったんです。零一君、行きますよ」
「あいよ」
――――――――
やってきたのはよく見たことのある道場だった。
「ここです。ダニエル・D・ロードさんとその息子夫婦が暮らしている家ですね。お孫さんもいるようです」
「え、ああ……」
「どうかしたんですか。もしかしてこういった道場が珍しいんですかね」
「そういうわけじゃないんだが……あのさ、湯野花さん……俺、ちょっと用事が……」
「ないでしょう、ほら、冗談言っていないで行きますよ。先方を待たせている可能性がありますからね」
手をひかれて道場内へと入る。中からは怒号が聞こえている。
「ばか者っ、そんな狙い方、速度では相手に打ち落とされてしまうわっ」
若者を叱り飛ばす爺さん。よくよく見れば人を模した人形であるマネキンには忍者が着る様な服が着せられており、その後ろに針金のような金属が刺さっていた。
「すみません」
「お、これはこれは……ん、若造、お前も来ておったのか」
「零一君、知り合いなんですか」
二人に顔を見られ、俺は困惑した。まぁ、別に隠すようなことではなかったために説明した結果……俺は地獄を見ることになるのだ。しかし、今の俺にはそれを予想する特別な力なんてあるわけないため、きっとこの先のことがわかっていたならば一生懸命回避しようとがんばっていたに違いない。
未来を変えられるというならば、それは未来を知っている上での行動だということを念頭においておかなくてはいけないのである。知らない上で未来を変えたとしてもそれはそうなる運命だったと考えなければならない。
ともかく、そんな御託を並べたところで話は変わるわけが無い。俺がしなければいけない事……
「……知り合いだったならばいいですね。あたしは関与しませんから」
湯野花さんはこの件を俺に押し付けたといってもいい。何やら怒っている様だったが一体全体どうしたのだろうか。
「じゃあ、ニアと一緒によろしく頼むぞ、若造」
「……はいよ」
俺がしなくてはいけないこと、それはこの道場の看板を盗んだ輩を追跡して、見つけることだったりする。そういったものは警察に連絡をしろよっ。
バイト前緊急投稿!二月十七日月曜、七時二十七分雨月。




