第四十九話◆:掃除をしよう
第四十九話
期末テストは基本的に夏休み前の越えなくてはいけない壁である。これで赤点をいくつかとるとその生徒は夏休み返上補習という地獄が待っている。この補習を受けて人生が変わったと以前の不良が校内新聞で語っているのをみると青春の十ページ分ぐらいあるのだろうな。
まぁ、それは赤点をとったやつのみで、俺には関係の無いことだ。
今日の終業式を終えれば夏休み。朝食を珍しく二人でとっていると佳奈がテレビのチャンネルを変えながら聞いてきた。
「期末テスト赤点とかとってないわよね」
「勿論だ」
「そう、それならよかったわ。知っていると思うけど八月の頭に水族館に行くんだからね。予定とか入れないでよ」
「わかってるよ」
まったく、佳奈は心配性だな……第一、俺のスケジュールは向こう一ヶ月白紙だ。
「七月中には宿題を終わらせないといけないわよ」
「わかってるって、そんなこというならお前も部屋の掃除ぐらいしたらどうなんだよ」
「う、そ……そんなのわかっているわよっ。明日の夕方、部活から帰ってきたらしてやるわ」
「してやるわって……お前の部屋だろ」
「あんたはいいわよね~。部活に入っていないんだから時間をもてあましているから」
やれやれ、これだから帰宅部は卑怯よね。そういわれた。
「何だ、それじゃあお前が掃除しなかったら俺が掃除するぜ」
冗談のつもりだった。だって、佳奈は俺が部屋に入るとすごく怒る。
「え、いいのっ。じゃあよろしく頼んだわよ」
「……」
言ってみるもんだなぁ。まぁ、この場合は言わないほうが良かったのかもしれないが。
―――――――
何事も、というか……面倒ごとはさっさと終わらせるタイプである。そういう理由で、俺は学校から帰ってきてすぐに行動を開始することにした。
「うっわ、こりゃひどいな」
学校の教科書、衣服類は場所をとわず散乱している。机の上にスカートや下着が乗っているってどんな状態だよ。タンスは上から半開き状態を保ちつつ、一番下の段は全開状態。中から衣服がはみ出していたりする。ベッドの上も本が散乱していたり、やはり、服も乗っている。ゴミ箱も部屋に置くような小さなサイズではなく、町指定のゴミ袋をセットできるような大きなものだったがそれもいっぱいとなってあふれ出たりしているのだ。これで虫がわいていないところをみると逆に気持ち悪い。近くには町指定のゴミ袋にまとめられているものが三個ほど転がっていた。
「……泥棒でも押し入ったんだな」
湯野花さんが佳奈の家には遊びに行ったが部屋に入れてもらったことはないと言っていたのを思い出す。なるほど、確かにこれでは友人を部屋に招きいれることなど不可能に近い。ともかく、お菓子の袋などが散乱していないからまだましなほうだな。強者は更にすごいことになっているのを俺は知っている。
先に溜まっているゴミ袋を出して、机の上から処理していくことにした。部屋の隅々にまで散らばっている教科書(どういったことをしたらお宝みたいに散らばるのだろう)をまとめて収納する。机の上に乗っていた衣服類も元あった場所へと戻した。せっせせっせと働き者のアリさんもびっくりするであろう作業はそれから夜まで、佳奈が帰ってくるまで続けられたのだった。
「うっわぁ、すっごい」
「下着はタンスの一番上、冬物は使わないから下のほうに入れているからな。教科書もそろえたし、ゴミ袋も出した。掃除機もかけたし、布団も少しだけ干しておいたぞ。枕のカバーも洗って、乾いてるだろ。窓も拭いたし、生えていた謎のきのこも撤去した」
まさか、ベッド下にきのこが生えているとは思わなかった。
「あ、気がついちゃった」
「気がついたぜ」
「あれさぁ、なかなか触る勇気が無くてね」
てへへと笑っているが俺も勇気がなかったりする。緑の斑点に紫色のきのこなんて見たことも、聞いたことも無い種類だった。
「零一、ありがとう。何かお礼するね」
「……いや、お礼はいいよ」
「ええ、何でよ」
不機嫌そうにそういわれる。
「ん~、まぁ、なんというかだな。以前お前に認められたって言うか…ほら、俺が鈴音さんと買い物をして帰ってきたときお前が俺に言ってくれたことが嬉しかったからな」
「そんなの、当然でしょ。私達は家族なんだから」
「……家族か」
「ほら、ぼさっと立ってないで夕飯出来てるわよ」
部屋から出て行く佳奈の姿が嬉しそうだったこと、それと、家族といってもらえたことがなんだか、まぁ、言葉には出来ないが掃除をしてよかったなとそう思わせてくれた。
「ああっ、私のお肉とらないでよっ。そこまで焼いて育てたのよっ」
「安心しろ、その肉は俺がさっきから目をつけていたものだからな」
勿論、相手が家族ならば手加減しないのが俺の流儀である。
只今バイトの昼休み。犬二匹に見られながら投稿!二月十六日火曜、十二時四十二分雨月。