第四十八話◆:長話の後に
第四十八話
地獄のような長話を終えて、俺と笹川は教室へと戻った。
「ふぅ、なんだかどっと疲れた気分だ」
「……」
「何、どうかしたか」
隣から笹川の視線を感じ、そっちを向くとかなり不思議そうで、何かを問いたいような表情をしていることに気がついた。
「ああ、なんで俺が笹川兄と知り合いか、というか友達か知りたいんだろ」
「別に、そんなこと気にしないわ。わたしが不思議なのはよくもまぁ、あの長話を聞き手になって最後まで、兄貴から終わりを切り出すまで聞いていられるなってことよ」
あれは地獄だわと最後に付け加える。
「なるほど、確かにそうだな。というか、あれは校長先生の話より長いぜ。まぁ、長いことには変わりはないんだが話としては面白いからな。凄いぜ、あんたのお兄さん」
「別に、凄くないわよ」
そういいながらも悪い気はしていないらしい。謎の兄貴にクールな妹。結構いい取り合わせかもしれない。
「ねぇねぇねぇ、何の話をしているのさ」
「おっと、このタイミングで来るのかよ……」
満がやってきた。面倒だなぁ。
「そんな言い方は流石に無いよ。で、何の話をしていたのさ」
「ん、笹川が凄いって話だな。格好いいし、かわいいし……おい、何でそんな目をしているんだ。アンビリーバボーって顔になってるぜ」
よくよく見たら隣のクールビューティーも似たような顔をしていた。
「って、何で笹川までそんな表情をしているんだよ。俺、何かおかしいことでもいったか」
「え、だって……零一の口からかわいいなんて言葉が出るなんて似合わないよ」
「お前は相変わらず失礼な奴だな……」
「君に似合わないものは女、校舎裏、下駄箱のラブレターだよ」
「そういうならお前もそうだろうよ。お前に似合うのはクローゼットの中、ベッドの下、夜道の曲がり角だろう」
「人をストーカーか何かと勘違いしていないかい。確かに僕はストーカーだけれども、僕は恋のストーカーさ。一人の女性に縛られない、恋を追跡しているすばらしいストーカーなんだよ」
嬉しそうにそういうが、故意のストーカーだったら確信犯である。
「笹川もこいつに何か言ってやれよ」
最近、笹川は満と話せるようになっていた。勿論、俺のときのような身体的スキンシップは皆無であるが(拳、蹴り、この前は当身を食らった)それでも人見知りは少しだけ解消されてきているようだ。そう思って振ったのだがぼーっとしているようだ。
「……」
「笹川……どうかしたのか」
「え、ううん、別に何もしてないわ」
「きっと、零一にやらしいことされたんだ、言われたんだぁ」
「んなわけあるかよっ」
笹川にそんな事をした場合は誰も見ていないところで天誅されてしまう。笹川殺法、雨乃零一つるべ落としとか。
「やらしいことはされていないわ」
「ほれ見ろ」
「零一に黙っておいて欲しいとか言われたんだね~。いやぁ、零一ってそんな、もうその歳で笹川さんにあんなプレイや色々と……」
クラスメート達が俺のことを見ている気がする。全く、有名になりすぎた転校生っていうのも大変なものだぜ。
「満」
「何さ」
「くたばってしまえっ」
久しぶりに拳をふるってみたのだが、結構な手ごたえを感じた気がする。
―――――――
帰り道、偶然猫を見つけた。尻尾がかなり短い猫で、真っ黒だ。俺の足元にやってきて止まった。猫パンチを食らわせることなく、じっと俺を見ていた。
「……」
「……」
猫とにらみ合いを続けているとその猫は飽きたのか、実力行使に出たのか俺の胸に飛び上がった。慌てて、腕を動かした次の瞬間には俺の腕が猫をしっかり抱いたような状態になっていたのだ。
「にゃ」
「……で、何さ」
連れて行けといわんばかりの態度。きっと、笹川が猫だったらこんな感じなんだろうなぁ。
猫は再びおりて俺を何処かに誘導し始める。テスト前だというのにおバカな俺は夕焼けを眺めながら猫を追いかけて……『笹川』と書かれている表札を見るのだった。
「おや、雨乃君じゃないか」
「……既視感、だな」
「にゃ」
黒い猫の名前が『常闇』というのを聞いたのはその十分後だった。
只今、バイト中ですが、人目を盗んで投稿!二月十五日月曜、十時二十分。