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第四十一話◆:ペーター

ペーター:隠語

第四十一話

 海水浴場は大体がひどいものだが、日本にもまだこんな海が残っていたんだなぁ、そう思えた。テレビで見るような蒼い海。俺たちのほかにも海水浴をしている人たちがいるがかなり少なかったりする。

「いいねぇ、海。澤田、ありがとな」

「いえ、お礼を言うならママに言ってください」

「そっか、それなら後でもう一度お礼を言っておくよ」

 すでに湯野花さんと佳奈は着替えに行っており、澤田は浮き輪に空気を入れている俺を見ていた。

「澤田、お前は泳がないのか」

「その、水着を忘れてしまっていて」

「そっか、それなら仕方がないな。というか、俺と一緒だ」

 あれほどしっかり確認したはずなのだが俺の新品海水パンツがなかったのである。どうも、忘れてしまったらしい。海に泳ぎにきて海水パンツを忘れるとは本当に何をしているのだろうか俺は……

「おっ待たせ~」

「……はぁ」

 佳奈が、本当に子どもに見えて仕方がなかった。水着を買いに行く時間も何も無かったというか、急遽決まってしまった佳奈の同伴…スクール水着がここまで似合う奴もなかなかいないだろう。

「あ、何よ、そのやらし~目は」

「……そう言える、言い切れるお前が凄いと思うよ」

 変に似合っているスクール水着姿が悲しい。期待はしていなかったがやっぱり、やっぱりこういったあれね、構造というか、何と言うか……とりあえず、開けてびっくり玉手箱……ってね。

「零一君、夏樹ちゃんに佳奈さんお待たせしました」

 ああ、そういえば意外や意外に湯野花さんと佳奈は知り合いだった。というか、友達だった。逆に、佳奈から『ええっ、朱莉と友達だったのっ』と驚かれたぐらいなのだから結構仲がいいほうなのだろう。

「……」

「零一、目が見開かれているわよ」

「え、あ、ああ……気のせいだろ」

 いやぁ、これはこれは、驚いた。これこそ本当の開けてびっくり玉手箱ってやつだな。ナイスプロポーション、まさか、スクール水着がここまで膨れるとは誰一人として思いもしないだろうし、着やせするタイプだったのねぇ、湯野花さん。

「……あの、零一先輩」

 手を引かれて気がついたのだが、浮き輪が膨張しすぎだった。どうも、気がつかずにそのまま手を動かしていたらしい。

「え、ああ、悪い。はい、浮き輪」

 紫色と白のマーブル浮き輪を手渡す。ううむ、やっぱり凄いな。

「ありがとうございます」

「ほれ、佳奈」

 赤と白の某漫画家を思い起こさせる、もしくはウォー○ーを思い出させる浮き輪を投げ渡す。

「……何よ、その態度の違いは」

 ぶつぶついっている佳奈はおいておくとしよう。

「じゃあ、二人で遊んでこいよ」

「そうですね、行きましょう佳奈」

「わかったわよ」

 そういって二人の後姿もついでに拝見した。うん、やっぱり後姿だったら佳奈も負けてはいないな。裏と表と、前と後ろはそりゃ、違うもんだがね。前に回ってがっかりってオチがつくんだよ。

「ところで、夏樹ちゃんは……ああ、水着を忘れてきたって言っていましたね」

「え、あ、はい」

「今から買いに行ったんじゃあ帰ってくるまで時間がかかるからなぁ」

「そういえば、予備の水着があるのでそれをどうでしょうか」

「え、いいんですか」

 体型がぜんぜん違うということに誰一人として突っ込まないのはおかしいことだろうか。俺が突っ込んだら確実に変態扱いされてしまうだろう。

「はい、構いません。零一君、浮き輪の準備をお願いします」

「あいよ~」

 そういって二人が更衣室のほうへと戻っていった。さてと、三つ目の浮き輪を膨らますかね。

「零一」

「あ、佳奈……なんだ、お前もこれを使って膨らまそうとでも思ってるのか」

 そういって空気入れを指差してやった。ちょっとからかってやったというか、これならばれないだろうと思っていたわけである。

「……へぇ、いい度胸してるわね」

「あ、気がついちゃったか」

「気がつくわよっ」

 浮き輪が飛んでくるが、それをさっと避けて首をすくめる。

「大丈夫だ、人間は常に成長し続けているんだ。牛乳とかレバーを食べれば大きくなるってどっかの誰かが言っていた気がするから安心しろペーター」

「ぺ、ペーターですってっ……あんた、いっぺん海に沈めたほうがいいみたいねっ」

 おっと、流石に言い過ぎてしまったようだ。いやぁ、佳奈の怒っている顔ってすっごい可愛いんだな。

「佳奈、悪かった」

「……許してやるわけないでしょ」

 ちょっと怒らせすぎたようである。

「悪かった、どうしたら許してくれるんだよ」

 そういってみると、恐ろしいぐらい優しい声が返ってきた。

「……零一、私はね……私のことを侮辱した人間のことを一生忘れないわ」

「問題です」

「何よ、いきなり」

「四日前の晩御飯は何だったでしょうか」

「え、えーっと……」

 しばしの間、佳奈は首をひねって考えた。

「覚えているわけ無いでしょ」

「はい、アウト。四日前の晩御飯が何だったのかも覚えていない奴がそんな事を一生覚えていることなんて出来るはずがないだろ~。寝ているとき、ご飯を食べているとき、トイレに行って用を足しているときに好きな人に告白しているときと、場所や時間、状況を問わずして俺のことをお前は覚えていないといけないんだぞ」

「屁理屈を……」

「……ま、俺のことを一生覚えてくれているって言うのならいいことだ。ちゃんと覚えておいてくれよ」

 いずれ、俺はあの家を出ないといけないだろうからな。未だ行方不明の父ちゃん母ちゃんを自分の力で探し出してみたいし……さっさと鈴音さんが独り立ちしても大丈夫だって、心配かけないようにしないといけない。

「……零一」

「ん」



ぱこんっ



「痛っ」

 後頭部を浮き輪で叩かれた。

「それで許してあげるわ。けど、次言ったら承知しないからね」

 上目遣いでそんな事を言う。うん、佳奈はこういったところが可愛いなということで手を打とう。

「悪かったな、佳奈」

「気にしないでいいわよ。事実は変わらないんだし」

 更衣室のほうから声が聞こえてきた。澤田と湯野花さんが出てくるようである。


雨月地方では三日連続雨。というわけで、三連休。伊達に雨月は『雨男』ではありません。雨が続けばバイトの仕事が溜まると思われ、より大変になってしまうということであせっています。まぁ、それはおいておきましょう。晴れた時にがんばればいいということで。さて、どうだったでしょうか。この小説を読んでくれている方々の一人でも苦笑してくれれば雨月の小説は成功したも同然です。目標が低いというわけではありません、雨月にとってそれだけハードルが高いんですよ。次回はちょっと変わった話にしようかなと、尻切れトンボ状態で終わってしまいますけどね。よろしくお願いします。それではまた次回お会いしましょう。二月十一日木曜、七時五十九分雨月。

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