第四話◆:迷子……じゃない
第四話
「佳奈、俺が逃げたらどうする」
「気安く佳奈って呼ばないで」
って、そっちかよっ。ついでに言うのならまるで虫を見るような視線を俺にくれる。おいおい、俺が何をしたというんだよ……夕陽が沈んでいくように、俺の心もあっという間にマイナス地点へ。しかし、こんなことでくじけていてはいけないのである。諦めた者に待っているものはいつもいい結末ではない。
「じゃ、佳奈ちゃん」
「却下」
普通に呼んだだけなのになぁ……じゃ、とっておきだ。
「佳奈たん♪」
「……気持ち悪いっ」
いや、流石に気持ち悪いって酷くないか……言ってて俺も気持ち悪くなったけどさ。吐き気がするよ。
諦めなかった者たち、例えばストーカーに待っているものは……事件性ぷんぷんする何かである。せっかく、人が友好的な態度をとってあげているというのに(居候先の人だもん、親切にしないと)何だろうか、その態度は。
「いいもん、知らないもん、お前なんて一人で帰って空でも飛んでろってのバーカッ」
「あ、ちょっと零一っ」
夕焼けの街中を俺は佳奈を残して走り去ったのだった。あんな奴、迷子になっちまえばいいんだ。
――――――――
「まぁ、あれだな。この歳で迷子になるとは思わなかった」
映画でモンスター物をやっていた場合、大抵がパニックを起こしたものから襲われるのである。もし、俺がそれに出ていたら間違いなく今頃はモンスターの胃袋に入っていたこと間違い無しである。
右を見ても見知らぬ道路、左を見ても見知らぬ店。八方塞ではないが、少し面倒なことになったのは確かである。
困ったものだな、そう思っていると視界の端に少女が映った。
「お……」
ぼろぼろの学生服、俺が通うことになった高校のものを着ている。銀髪の少女で蒼い瞳をしていた。細身、そして凛とした雰囲気がある。ちょっと友好的な態度を期待できないそんな感じだ。
「……」
ちょっとついていってみるか。興味がわいたし、どうせ、自分の居場所がわからないんだからこれ以上迷子になることはないだろう。
電柱の端に隠れながら相手の顔を窺ってみる。鋭い瞳がなんともまぁ……猛禽類ではなく、笹川栞を思い出させた。まさか転校初日から腕をきめられるとは思わなかった。出来ればああいった類の人間とは係わり合いを持ちたくなかったんだが………しかし、目が鋭い人なんてたくさんいるからな。目つきが悪いことがコンプレックスという人もいるだろう。
腰辺りまで伸ばされた銀髪は手入れがされていないのかぼさぼさだった。とても綺麗な顔立ちで、ついついぼーっと見てしまう。
「……っ」
ぼけっと見ていたら危うくばれそうになる。慌てて陰に隠れて様子を窺うことにした。夕陽はまだまだ生き残っているために目標を見失うことはないだろう。気がつけば路地裏辺りまでやってきていて他に人はいない。
ぴりりとした緊張感がその場を包む。
「其処のお前、出てこいっ」
「……」
何、俺の尾行は完璧だった……見とれていたのは認めるが………のに、ばれるとは思わなかったな。
「さっさと、出てこいっ」
流暢な日本語ということは勉強熱心、または日本にいる時間がすごく長いということなのだろう。銀髪の少女はフラストレーションがたまっているのか、いや、たまり続けているのか手近なゴミ箱を蹴り飛ばした。それは、ぐしゃっという音をたてて俺の近くで無残にもぼろぼろに早変わり。うわぁ、あの人すごい特技持っているじゃん。
こういうときに選べる選択肢はかなり限られてくる。しかも、これって結構、いや、かなり重要な選択肢だ。カレー味の“あれ”を食べるか、“あれ味”のカレーを食べるか……人は悩む。“あれ”って何だってわからない場合はその、なんだ。自らが生み出す混沌たる生命体だと考えてくれ。
→猫の鳴き声で誤魔化す。
逃走する。
さて、第四話目です。今日中にどこまでいけるのか……試したいものですね。二月一日月曜、十二時五十五分雨月。