第三十五話◆:金色に輝くあれが原因
第三十五話
指名手配になったのは澤田が通っている中学生の生徒だった。勿論、俺らの出る幕なんて一切無く……澤田が襲われた次の日の午後九時には警察に補導されたとのことである。
「……蓋を開けてみてびっくりだったな~……けど、これで佳奈が俺に謝ってくれるだろう」
そう思って家に着く。
「ただいま~」
「あんた、どの面下げて帰ってきてるのよ……信じられないっ」
玄関を開けたその先には仁王立ちしていた佳奈がいて、いまだにご立腹だった。ああ、事件解決の吉報を知らないんだな。
「聞いてくれよ、佳奈、それは俺じゃないんだ」
「……じゃあ、誰なのよ」
「同じ中学だった奴だったんだよ」
「……意味のわからないことを言っているんじゃないわよっ」
「は、はぁ……だから、俺じゃないって……」
「これに見覚えないって言うのっ」
佳奈が右手に持って突き出しているものは『ゴールデンプリン』という限定スイーツだった。
「あんた、これを食べたんでしょっ」
「え、あ、あ……ああ、食べたな」
「ほら、何が同じ中学だった奴よっ。そんな意味のわからない言い訳で許してもらえるなんて思わないでよね」
今日の朝、学校に行く前に食べたのである。佳奈は昨夜遅くまで寝ていたのかいつもの時間帯に起きてくることは無く、眠っていたからこのプリンが佳奈のものだということを知らなかった。
「悪かった、知らなかったんだよ」
「……知らなかったなんていいわけ、通用しないわ。プリンがない、ただそれだけが事実、真実……全ての理よっ」
「じゃ、じゃあ、そのプリンを買ってくれば許してくれるんだな」
「……そうね、考えてあげてもいいわよ。ああ、勿論ゴールデンプリンだけで許してもらえるなんて甘い考えはしないでね」
「……プリンだけに…か」
「……ゴールデンプリン、シルバープリン、ブロンズプリンも買ってもらうから。あれ、お店にコネがないと駄目なんだからねっお金持ちじゃないと本当は買えないんだから」
ふんぞり返って佳奈がそういう。まったく、ちっちゃいくせに無駄に迫力があるな……けど、ゴールデンプリンなんてどうやったら手に入るんだろう。
――――――――
澤田が襲われたことは間違いない。そういうわけで、俺は澤田のお見舞いに行くことにしたのだった。場所はちゃんと覚えている。以前は湯野花さんと一緒に来たのだが今の俺は一人だ。花束だけを渡してさっさと帰ろう、また犬に襲われることは間違いないはずだ。だが、一つ聞いておかねばならないことを思い出した。だから、とりあえずそれは聞いておかないといけないのだ。
チャイムを押し、しばらくの間待ってみた。
『どちら様でしょう』
「えっと……雨乃零一です。澤田……夏樹ちゃんのお見舞いに来ました」
『それは……ご丁寧にどうも。悪いけど夏樹はちょっとお友達の家に遊びに行っていますからどうぞ、中におあがりください』
扉が開いて、おばさんが出てきた。いいというのに家の中に無理やり連れ込まれてしまう。
ソファーに面と向かって座り、おばさんが紅茶を出してくれた。
「あの、別にお構いなく……」
「いえ、雨乃さんには色々とお世話になりましたからね。夫もいつものように挨拶してくれていますし、夏樹は中学校が楽しくて仕方がないといっていました」
おほほ、そう笑う。相変わらず似合う人だな~。
花束を渡した後に紅茶に口をつける。なんというものかは知らないがいい香りがしておいしかった。
忘れないうちにもう一つ、此処に来た理由を尋ねることにした。
「あの、ゴールデンプリンって知っていますか」
「え、ああ、知っていますよ…というか、今冷蔵庫の中ににあります。召し上がりますか」
「あ、いえ、そうじゃないんです。実は、えっと…家族のものを勝手に食べてしまってそれで、買ってこいって言われて……」
「なるほど、手に入らないということですね」
「はい。お代はきちんとお支払いしますから……あの、譲ってもらえないでしょうか」
「どうぞどうぞ、お代もいいですからもって帰ってください。あ、ついでといっては何ですが付いていた物も差し上げます」
そういって冷蔵庫からゴールデンプリン、シルバープリン、ブロンズプリンが取り出される。
「ええと、本当にいいんですかね」
「ええ、構いませんよ」
まぁ、それならばご好意に甘えることとしよう。俺はその後すぐに帰ることにした。夕暮れ時できっと夕飯の支度もあることだろうと配慮したからである。
ともかく、これで佳奈に許してもらえるはずだ。
―――――――
「…しょうがないわね、許してあげるわ」
「なんじゃそりゃあ」
そういってプリンを没収された。食べておいてなんだが、あまりおいしいというわけでもなかった気がする。目の前でさっさと蓋をはがしてスプーンで口に運んでいる佳奈の姿を確認すると、佳奈は首をかしげるのだった。
「これ、あまりおいしいってわけでもないわね」
「だろ、俺も食べてあまりに普通だったからよぉ……」
「ま、シルバー、ブロンズとあるからちょっとしたおやつにはいいわね」
そういって残りを冷蔵庫の中にしまうのだった。
続けるといった割にはあっさりと次の話で完結しちゃいましたねぇ…たまにありますよ。完全な勘違いによって生み出されるわだかまり。そう、たとえそれが食べ物であっても。食べ物の恨みは恐ろしいということで……。次回、登場予定者はどなたでしょうね。ともかく、今後も更新を続けていこうと思っております。二月六日土曜、二十一時二十七分雨月。