第三十三話◆:夜風を浴びて
第三十三話
高級住宅街ではなく、普通の住宅街。隣町なんて来た事が無かったのでもし、湯野花さんからはぐれてしまったら……ちと、面倒なことになる。
「今日の依頼主の家はここですね」
地図を片手にやってきた目の前の家。何処にでもあるような平凡な家だ。こじんまりとした感じだが、結構建築年数が経過しているのではないだろうか。
チャイムを押して少し待つ。もし、また犬がいたらどうしよう。
扉が開けられて、中から人が出てきた。
「はい、どうぞ」
女性で、四十台ぐらいだろうか……
「お邪魔します」
「お邪魔しますっ」
リビングへと案内される。犬がいるような感じは受けないのだが、犬のおもちゃが転がっていた。
「実は、あなた達に探してもらいたいのが……うちのネロちゃんなんです」
「犬……ですか」
「はい、警察に言っても駄目でして……」
本当に泣いている。愛犬家ってこういった人のことをいうのだろうか……まぁ、それはいい。警察に言うとか俺らの常識から考えてちょっと違うかな。
「で、そのネロちゃんの写真とかありますか」
「ええ、勿論よ」
湯野花さんが話している間、基本的に俺は借りてきた猫状態である。出されたお茶をすする。うん、やっぱり冷えた麦茶はうまいなぁ……
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ミニチュアダックスフンド……という犬種らしい。あの胴長で短い足の犬のことなのだろう。写真に写っているのはこげ茶色の無駄に派手な犬だった。犬って毛が生えているのにその上から服を着せようという人間の考えがわからねぇよ。
「……湯野花さんよぉ、これってもう追跡癖と関係ない仕事じゃないのかよ」
「……いえ、失踪した犬を追跡するんです」
今回は一緒に探しましょうといわれた。そりゃそうだ。こんなところで二手に別れちゃ……俺が迷子になっちまうぜ。
「計画として、今日は九時まで探しましょう」
「……えっと、後三時間ぐらいあるな」
「まずは地道に聞き込みから開始です」
通行人にこういった犬を見なかったかと尋ね、歩いた。それだけで今日の時間は終了。つまり、三時間ぶっ続けで聞いたというわけである。まぁ、そのおかげで頭の中にこの町の地図が一部分でき始めたのは間違いない。
帰り道の電車。席に座るほど人が減っていた。
「……ちょっと、疲れましたね」
「そうだな、ちょっと疲れたな……」
「ともかく、得た情報から推測すると……どうやら、河川敷付近にいるようですね」
明日また、駅前に集合ですよ。そういって駅前でわかれた。隣町ぐらいなんだから電車じゃなくても別にいいような…
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駅前に湯野花さんより集合できた。それには理由がある。
「湯野花さん、今日はこれで行こうぜ」
「……ママチャリですか…」
「ああ、借りてきた。ほら、乗って乗って」
しっかり荷台がつけられている。河川敷方面からいけば誰にも見つかることは無いだろう。そういうわけで、今日の移動手段はママチャリとなった。
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「ほら~、零一君っ、何寝そべっているんですか」
「……意外と……湯野花さんって……重、あいたっ」
「失礼なことを言わないでください」
俺を叩いて、彼女は再び河川敷のほうへと向かっていった。
湿気が高く、日中の温度よりも低いと思っていたのだが、下手に運動すると体温が無駄に上昇するんだな。三十分ほどチャリをこいでいたら見事に熱くなってしまった。
「っと、そろそろ俺も加わるか」
「ワンッ」
脇のほうから犬の声が聞こえてくる。
「お~お前も手伝ってくれるか」
どうせ、理解は出来ないだろうがサボるために犬の写真を見せた。
「こういう犬だ。よければ見つけてくれよ」
「ワンッ、ワンッ」
目の前の犬はその写真の犬にそっくりだった。
「お前……名前はネロか」
「ワンワンッ」
寝ている俺の周りを駆け回る。
「お~そうか、お前がネロかぁ……お前、家出っ子だってなぁ……勇気あるな、お前」
「ワンッ」
誇らしそうに一つ鳴いた。ともかく、これで終わりだな。
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帰り道の河川敷、夜風となったことで少しは温度が下がっていたがやはり、暑いことに変わりはなかった。
「お金とかもらっていたがあれってどうするんだよ」
「あれですか、勿論……今後のために全額貯金ですよ」
「え、俺の給料とかは出ないのか」
しっかりと前を見ながら後ろに問いかける。湯野花さんは俺の肩に両手を置いて、立ち上がっているようだ。
「……まだ、零一君は見習いです。そうですね、あと三回程度仕事をしてよかったら払います」
「けち」
「……いま、何か言いましたか」
「うんにゃ、何も」
どうせそんなのわかっていたことだ。ま、こうやって二人乗りしているってのも青春なのかもしれないな。
はい、三十三回目の更新です。今後どういった展開にしていこうか微妙に悩んでいますが一つだけいえることがあります。とりあえず、コメディー路線で。っと、それじゃあ続きを書くのでここらでドロン。二月六日土曜、十三時二十八分雨月。