第三十二話◆:梅雨、暑さ、二回目のお仕事
第三十二話
「暑い……」
「……暑い」
一年G組だけ、空調システムが壊れてしまった。原因は不明、これは非常に重要なことである。文明に染まりきった俺たちはクーラーがなければこの暑さで融けてしまう。勿論、六月中旬からすぐにクーラーがつけられるというわけではない。七月に入らなければつけてはいけない決まりになっているし、中央で管理しているために部屋のスイッチを押しても起動はしない。
「……おい、予算の都合上今年は修理しないんだってよ」
「ええっ、マジかよ……」
そんな話を机につっぷしながら俺は聞いていた。やはり、昼下がりは日光が強いようで直射日光が降り注ぐ南側の席じゃなくて本当によかったと思えて仕方ない。まぁ、一応あちらにはカーテンがついているのだがそんなものも焼け石に水状態である。
べたつく汗が制服についたり、シャツを濡らしたりと気持ち悪い。
「……笹川ぁ、お前……全然、暑そうじゃないなぁ……」
俺は平然と読書している笹川のほうを見やる。厳しさを感じる(俺以外のクラスメートは優しそうだといっている)その顔には汗一つ浮かんではいなかった。
フライングして土から出てきたセミがうるさい。
「雨乃とは鍛え方が違うから」
「……そうだもんなぁ」
自分より体格のよい男子をひねり潰し、番長を顔色変えずに叩き潰す。笹川栞という人間はそういった人間だ。俺のようなごくありふれた平々凡々の高校一年生と一緒にしてはいけなかったのだ。
「何、その失礼な目線」
「……いや、やっぱり笹川は……あ~暑い」
プールが壊れなければこのイライラとした気持ちを晴らすことが出来ただろう。しかし、プール下の水道管破裂に伴って、プールが半壊。そちらの修理にお金をかけているために空調システムも修理できないという最悪な状況。誰かの陰謀だとしか考えられなかった。
「……笹川ぁ、その本、面白いのか」
「まぁ、そうね」
タイトルは『熱砂に続く無限の道路』。きっと、此処より大変な暑さで苦しんでいる冒険者達の話なのだろう。たまに、笹川は俺を苦しめるためにそういったものを読んだりしているんじゃないのだろうかと思うときがある。
―――――――
夕暮れ時になるとそれまで教室にいたゾンビたちは体力を取り戻して人間へと戻る。部活へ、帰宅へと大忙しだ。夏の大会が近いからであろう。
「なぁ、笹川」
「何」
「今日お前この後暇か」
「……ちょっと、用事があるわ」
「そっか、ならいいよ」
さて、俺も帰るかね~……お家へ。
―――――――
もう少しで家だというときに……俺の携帯電話が鳴り響いた。湯野花さんからである。
「もしもし」
『あ、零一君、今から駅前に来ることができますかね』
目の前が家だ。あと十歩程度で『ただいま』といえる。しかし、誘われているのを無碍にすることもどうかと思った。
「いけないことはないな」
『じゃあ、出来るだけ早く来てください。それでは失礼します』
「え、あ、ちょっと……」
ぷつっ、つー、つー……どうして、俺の周りにはあまり人の話を聞いてくれない人が揃っているのだろうか。
「もっと素直な子がよかったぁっ」
その叫びは夕暮れにただただ、消えるのであった。
―――――――
「今回の依頼主は隣町に住んでいます」
会うなり、そう告げられた。
「は……え、あれ、あの探偵業をやるってことか」
「ええ、そうです。何か勘違いしているのかもしれませんが、仕事ですよ。しっかりしていてくださいね」
よれよれとなっていたネクタイを直してもらい、肩を叩かれた。
「はい、じゃあ乗りますよっ」
別に手を引かなくてもいいだろうに。走ってきたためにべたべたとなっているのだからいちいち掴まなくてもいいのになぁ。
電車内は混雑していて俺の不快指数がかなり高くなっていった。
「……」
それは湯野花さんも一緒のよだ。しかもでぴったりと俺とくっついているような状態。でも、汗でべたべたしているのだからあまりひっつきたくはなかった……。
まるで地獄だった電車からなんとか抜け出し、ホームに降り立つ。
「あ~、気持ち悪かった」
電車内ではそういったことをなかなか言えないのでそうはき捨てる。
「え、それを零一君が言いますか」
「だって、気持ち悪かったもん。あ~タオルちゃんと持ってきておけばよかった」
せっかく直してもらったネクタイがまたゆがんでしまった。自分で直し、駅の改札を二人で抜ける。
とりあえず、湯野花さんは自分がやっていることが仕事であるときちんと考えているらしい。意外としっかりした子だな。
第三十二回目の投稿ですね。さて、今回の話はどうだったでしょうか……以前の高校とかにはあまり空調設備とかがなかったのですがいまの高校は大体ついていますよねぇ。羨ましい限りです。夏が嫌いか、冬が嫌いかは聞いた人によって結構変わりますよね。ともかく、冷え性にとって冬は天敵であると言っておきましょう。二月六日土曜日九時二十三分雨月。