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最終回:表と裏と◆

さてさて、今回で最終回と相成ってしまいました。どうせまた続けるんでしょ、そんなことを思っている方も中にはいらっしゃる方もいるかもしれませんがまぁ、どうでしょうね。あるかもしれないし、ないかもしれない。自己満足の終わり方かもしれませんがこれはこれでよかったんですよ、うん。今回、あとがきはありませんので長い間、ご愛読いただいてくださった読者の方々、ありがとうございました。次回作を書いている途中だとは言いましたがだらけてきたのでどうなるかはさっぱりです……まぁ、他の作者様の小説を読めば解決できますんでそちらをどうぞ……ではまた、どこかでお会いしましょう。2010年12月30日23:24

最終回

 吉田剣の携帯電話にこの前設定したばかりの着信音が鳴り響いた。流行歌ではなく、黒電話のような着信音だ。

「もしもし」

 画面に表示された相手に嫌な顔をしたが当然その表情を電話の相手がわかるわけでもない。

『剣、お兄ちゃんだよっ』

「………どうかしたのですか。私は勉強中なのですが」

 続けようとした剣だが、相手はそれを許してくれなかった。

『話だけでも聞いてくれるとお兄ちゃん、嬉しいなぁ』

「………わかりました」

 机の上にシャーペンを置く。蒸し暑い日だったために汗がにじむ。

『最近零一に会ったかい』

「ええ、今日晩御飯を奢ってもらいましたよ」

 ちらりと机の端のほうを見る。そこには三年生に上がった時、件の先輩とのツーショットが飾られていた。

 それがどうかしたのですか、そんな質問をしたのだが相手は黙り込んでいる。

「邪魔をするのなら切りますよ」

『今すぐに零一のアパートに行ってほしい』

「何故」

『後は剣の自由だよ。じゃあね』

「あ」

 食い下がろうとしたのだがあっさりと切られる。悪態をつくこともなく今度は電源を切って勉強を続け始めたのだが………。

「………」

 静かに椅子から立ち上がって剣は部屋を後にした。

「もしもし」

『僕の妹は賢い、それ以外の何でもないね』

「詳しい事情を教えてください」



――――――――



「風花、いつもありがとな」

 零一はそう言うと蒼の湯飲みに入れた。風呂上がりの風花にそれを手渡す。

「すみません」

 二人してテーブルに座ってテレビを見始める。特に面白いと零一は思わなかったが風花が毎週欠かさず見ている番組だ。

「零一様、話があります」

「ん、何だ。ああ、ちょっとお茶をついでくる」

「あ、私が注ぎます」

「悪いな」

 席を立った後に手早く湯のみの残量を確認すると零一は満足そうに風花の後ろ姿を見た。

 零一の前にお茶を置いた風花はその後テレビを消して視線を向ける。

「たとえ零一様が退学になってもお仕えしますからお傍に置いていただけませんか」

「風花がそういうってなると旗色が悪いってことか…」

「………すみません」

 顔を伏せて水滴を流す。

「風花はよくやってくれてる、それは嬉しいけど理由がわからない。俺にそこまでする価値ってあるのか」

 尋ねられた風花はすぐさま頷いた。零一は薬がどの程度強いのかよく把握していないために効き始めがどう言ったものなのか想像できない。

「私にとって零一様は全てです」

「俺が風花にとっての全て、なんで全てなんだよ」

 風花の瞼が重くなってくる。零一は内心ほくそえみながらそれを見ていた。

「それは………実は零一様………私と、零一様は………」

「風花、なんだか眠そうだな」

 瞼をこすり、なんとか持ちこたえようとしていたがあらがうことが出来ないのかゆっくりと立ち上がった。

「あ、れ」

「おっと、危ないな」

 倒れかけた風花を支え、零一は彼女の部屋へと肩を貸して歩く。

「………きっと疲れが出たんだろうな。夏休みだから明日ゆっくりと話を聞くぜ」

「すみません、明日ちゃんとお話します」

 瞼を閉じるとすぐさま寝息が聞こえてきた。試しに顔の近くで『どうも~、新人芸人の雨乃零一ですー』と言ってみたのだが当然反応してくれるわけもない。

「こりゃ完全に寝たな」

 タオルケットを腹の上にのせたときにふと、いたずらしてみたいと思ったがその煩悩を打ち消して部屋を後にする。

「じゃあな、風花」

 そういって扉を閉めると今度は自分の部屋の扉を開けた。きれいに整頓された部屋に明かりが灯り、一つの大きなバッグが確認できた。

「……達郎さんと鈴音さんたちに言うべきだったんだろうかなぁ」

 誰が答えるわけでもないのに零一はそうつぶやく。首を振ってその考えを消して荷物を持った。

 靴を履いて玄関を開ける前に立ち止まった。

「いってきます」

 それだけ残して扉を開ける。



「………一体、どこにいくつもりなのですか」



「……剣……」

 扉の前には肩で息をしている吉田剣の姿があった。

「いやまぁ、ちょっと旅行に行こうかと思ってだな……」

 剣が入ってこないように視線を移す。変えた視線の先には電柱と塀が見える。

「私の目をしっかりと見てから言ってください」

 電柱と塀、そして吉田剣が零一の視界の中に入ってくる。彼女の眼は鋭く光っているようにみえた。

「………」

 言い訳を考えている零一の足元に竹刀が転がってくる。無意識のうちにそれを拾い上げると視界の中央には同じ竹刀を構えた一人の少女の姿があった。

「どういうことだよ」

 理解できず零一は剣に尋ねるのだった。

「私は今から一先輩に告白します」

「は」

 零一は何と言われたのか理解できず呆けてバッグを床に落とした。それすら気付かず彼女の事を見続ける。

「私は…私の事を負かした人の彼女にしかなりませんっ。だから一先輩っ」

「な、なんだよ…」

「私に勝ってくださいっ」

 無茶を言う娘だとは思っていたが、まさかここまで無茶を要求してくるとは……零一は投げられた竹刀を握り、ため息をついた。

「はぁ……剣、実は前々からお前に言おうと思っていたことがあるんだ」

「何ですか。もしかして一先輩も私の事が好きだった、とかでしょうか」

「剣の事は好きだが……」

「ほ、本当ですかっ。何故それを早く言ってくれなかったのでしょうか」

 頬を染める剣を眺めながら再びため息をついた零一は竹刀を少女へと向ける。

「俺はお前の事を一時期調査っていうか尾行したりして情報を集めていた。詳しい理由はもう思い出せないし、忘れていた時期もあったよ」

「それは……本当なのですか」

 愕然としている剣を見て零一は友達を失う瞬間ってこれほど嫌なことなのか…と思った。

「つまり、一先輩も私に告白できずストーカー行為を行っていたということですね」

 頭の中で剣に言われたことを租借する。何とか理解したのちに首をひねった。

「いや、そういうわけじゃ…」

「では、私の愛を受け取ってくださいっ」

 零一には剣の一歩がそれ以上の距離を飛んできているように見えて仕方がなかった。面具も何もない状態で竹刀の一撃を頭から受けたらどうなるか……剣道を知らない零一でも容易にどうなるか想像できる。

「危ないって」

 相手は聞く耳を持たず、気がつけば竹刀は自分の頭に降り落ちてきていた。

「……」

 よけきれたのは偶然か、はたまた零一の内なる能力が解放されたのかは分からない。ともかく頭を穿つ一撃は零一に当たることなく空を切った。

「甘いですよ、一先輩っつ」

 どこか喜んでいるかのような声音に零一は戦慄を覚える。避けたはずの竹刀は気がつけば再び彼の脳天を狙っていたのだ。

「つ……」

 奇跡は二度も続かない…剣の竹刀は無慈悲に彼の頭に振り落とされたのだ。零一の目は光を失い、その場に崩れ落ちた。



―――――――――



「満、お前は本当に何がしたかったんだ」

 そろそろ夏休みも終盤にさしかかるところだろうか。右手、左足を骨折していた俺は入院中である。

「いやー、まさか剣があんなに僕の言うことを聞いてくれるとは思いもしなくてね。あ、誤解しないでほしいけど剣は本当に君の事が好きなんだよ。表には出してないけどね」

 全く悪びれてない満に何か言ってやりたかったのだが実際に俺を入院させている人物は剣なのだ。

 いきなり竹刀を投げられて応戦させられたというわけなのだが特に何をするでもなく俺は撃沈。その後は悦に入った剣が気絶している事も気づかず竹刀を振り落としまくったそうである………恐ろしい奴だ。

「僕は君がいなくなる悲しさを剣に味あわせたくなかっただけさ。君にとって剣は単なる友達かもしれないけど剣にとって零一は友達ってだけの枠に収まらない」

「………」

「だからせめて彼女が高校を卒業するその日まで様子を見てやってくれないかな」

「様子って……剣はガキじゃないだろうに」

「はは、そうだけどね」

 満はそう言うと鞄を持って立ちあがった。どうやら帰るらしい。

「帰る前に質問させろ」

「なんだい」

「剣が俺に竹刀を投げ渡してきたんだが……あの茶番はお前が全部仕込んだ事でいいのか」

「僕は剣に思いを伝えて零一を引きとめたほうがいいよっていっただけだね」

「………」

 背中を押しただけであって後は知らない、こいつはそう言っているのだろうな。

「ま~帰るわけじゃないよ。彼氏彼女の時間を邪魔しちゃ悪いって思ったから退席するのさ」

 扉を開けるとそこにはバツの悪そうな剣が立っていた。

「剣か。毎日ご苦労なことだな」

「いえ、私が怪我をさせてしまったので毎日来なくては一先輩に悪いと思いまして」

「じゃ、僕は失礼させてもらうよ。剣、後はうまくやるんだよ」

 満にそう言われた剣は兄を睨んでから扉を閉めた。既に満は病室にいない。

「すみません」

「気にするなよ」

「事情は全部兄さんから聞きました」

 こほんと咳をした後に剣は悲しそうに言うのだった。

「何故、私に相談してくれなかったのでしょうか」

「おいおい、後輩に迷惑はかけられないだろう」

「所詮私と一先輩はそういった関係なんでしょうか………すみません、目をつぶってもらえますか」

 唐突にそう言われて何をされるかわからなかったが素直に目をつぶる。

「これでいいのか」

「はい」

 しばらくしてから自由な左手を誰かが握ってきた。剣にしては少しだけ大きい気がしたのだが剣も成長したのだろうか。

「今後は絶対、私に隠し事をしないと誓ってくれますか」

 何だろうか…顔に鼻息が当たっているような気がしてならない。

「あ、ああ……わかったよ。約束してやるよ」

 ついつい、約束をしてしまった。そういった後、さらに鼻息が顔に当たってきた。この後、俺は何をされるのかつい、妄想してしまって顔が赤くなるのを感じる。

 我慢できず、目を開けるとそこには……



 すっごく近くに…



 見たくもない満の顔が……




 あった………

「この野郎がっ」

 俺は脊髄反射で少し太くなった右手をうならせる。奴の誤算は素早く俺の手を放さなかったことだな。

「痛っ、ギブスでたたくのは反則だよっ」

「出てけっこの野郎っ」

 一生懸命右手を振りたくってお邪魔虫を病室からたたきだした。此処が個室でよかったぜ……六人部屋とかだったら奇異の目で見られていたことだろう。

 近くでは剣が笑っていて騙されたことに気づく。

「一先輩、顔が赤いですよ」

「まさか剣がこんなことをしてくるとは思いもしなかったぜ…」

「すみません、でもこれで一先輩が私の事を調べていた事を許せます」

 実に面白そうに剣はそう言うのだった。

「一先輩、二学期楽しみにしてますよ。今度は逃げないでちゃんと来てください」

「………ああ、わかってる」

 変な話だが麻妃から『学校をやめる必要性がなくなった』との報告を受けた。麻妃自身も不思議そうだったし、風花もどうやら知らなかったようで誰が口利きをしてくれたのかは分からないがともかく、高校生活を最後まで過ごせるようでほっとしている。

「一先輩、退院したら海に行きましょう」

「勉強はどうするんだ」

「息抜きに行くんです。そしてそこで一先輩と一緒に浜辺で……」

 追いかけっこか……悪くないな。

「足腰を鍛えるんですよっ」

「………そうだよな。剣と一緒だからそうなるわな」

 剣の水着姿が見れるかもしれないと思った俺は考えが甘い男なのだろう。

「期待していてください」

「……ああ、楽しみに待ってる」

「では、私は失礼します」

 立ちあがって病室にしようとした剣が立ち止まった。

「…忘れるところでした」

「え、何か忘れ物………」

 でもあるのか、その言葉を俺は言えなかったりする。



 夏休みはまだ残っている。剣の水着姿ひとつ、お願いしたら見せてくれるかもしれない。




~終~


只今建設中、後日変化しています。

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