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29:変化無き日常◆

29

「ほぉ、睡眠薬が欲しいのか」

「ああ」

「何故わしに聞くんじゃ」

「いや、爺さんならもってそうだから」

 俺が尋ねたのはニアの爺さんだ。今日は庭に出て何かの装置をいじっていた。四角、側面に三つのボタンがあって弱、中、強と書かれている。

「ちょっと待っておれ」

「持ってるのかよ」

「わしが持っていないものはわしにとって価値のないもの、興味のないものだけじゃよ。欲しいものは手に入れる、それがわしの信念じゃからな」

 そういって家の中に消えた後、数十秒後には姿を現した。おかげで目の前の装置をまじまじと眺めることもできなかった。

「じいさん、こりゃなんだ」

「知ってどうする」

「いや、何もしないけどよ……」

 じーっと俺の事を見ていた。そして、頷く。

「ちょっとこれに入ってみるといい」

「え、どこから入るんだよ」

 聞くと四角の上の板を外して俺を促した。のぞいてみると何かがあると言うわけでもなく単なる板にしか見えなかった。

「何なんだよ、これ」

「いいから、ほれ」

 放り投げられて中に入れられた。そしてすぐにふたが閉められて、『ぽちっ』と言う音が聞こえてくる。

「おい、じーさんっ」

 真っ暗だった箱の中、真っ赤に光ったり、黄色に光ったり、蒼になったりと目がちかちかしてきた。それもすぐに終わって蓋が開けられる。

「どうじゃ」

「どうじゃって聞かれても別に何ともないぜ。目がちょっとちかちかしたぐらいだ」

「ふーむ、まだ完成しておらんのか」

「あのなぁ、人の体で勝手に実験なんてするなよ」

「薬の分働いてもらっただけじゃ。ほれ、さっさと帰れ」

 しっしと手で追い払われる。まぁ、薬は手に入ったし、良しとするか。

「若造、怪我するなよ」

 帰ろうとしたところで爺さんの声が聞こえてくる。

「危ないことはしねぇよ」

「そうか、それならいい。若造のやれるところまでやってみるといいじゃろう。若いころは危険が付きものじゃからな」

 年取ったらあんなに勘が鋭くなるものかね。見透かされているようで気持ちいいものじゃあないな。

 さて、俺がするべきことは他にもあるからさっさと帰ることにしよう。



――――――――



 ファミレスで人待ちをしていると約束していた二人がやってきた。

「零一さん、今日は本当にごちそうになっていいんですか」

「失礼ですが、一先輩が私たちを奢る余裕はなさそうなのですが」

 なんともまぁ、失礼な二人組みだろうか。金欠ってイメージでもあるのかね。

「気にするな。今日はたくさん食べていいぜ。先輩だからたまには奢ってやらないとな」

 その後、二人が食べ終わったところで俺は話を切り出すことにした。もちろん、他愛もない話だ。

「二人が俺の友達でよかったぜ」

「どうかしたのですか」

「いやいや、別に何でもない。ほら、今年で俺たち卒業だから会えなくなるかもしれないだろ」

「それは……私、ここから一番近い大学を志望しているんですよ。だから、剣さんや零一さんにも会えるはずです」

 宵乃淵さんがそう言ってくれた。

「だから来年の夏休み三人で海に行きましょう。今年は受験とかで忙しいですけど」

「そうですね」

「……………………ああ」

 来年の夏休み、三人で約束…か。

「最近一先輩は元気がないままでしたね。いい加減教えてくれませんか。気になって夜も眠れないんですよ」

「あ、私も…私も気になって夜も眠れないんです」

「なぁに、二人が気にするほどの事じゃねぇよ」

「ありがとうございます」

「ごちそうさまでした」

 二人が俺に礼を言ってくれたことがそれなりに嬉しかった。

「じゃ、俺これから用事があるから」

「あ、零一さんに渡すものを忘れるところでした」

 宵乃淵さんがポケットから取り出したものを見て少々びっくりした。

「心をこめて作った藁人形のぬいぐるみです」

 これ、細部まで作りこまれているんですよと彼女は自信満々にそう告げるのであった。なんだかえらく久しぶりに藁人形を見たような気がした。

「ちなみに話しかけていた藁人形はどこにいったんだ」

「あれですか。もう必要ないと思ったから捨てました」

 にこっとほほ笑んでいるのだが藁人形側から見たら用無しってことでさよならを告げられたってことなんだろうな。

 剣はじーっと宵乃淵さんが渡してくれたぬいぐるみを眺めていた。

「なんだ、どうかしたのか」

「いえ」

「あ、吉田さんも欲しいですか」

「えーと」

 剣の目がしばらくの間泳いでいたようだが途中で動きを止めた。

「私に一先輩がもっているぬいぐるみの作り方を教えてくれませんか」

 まさか剣………陰で藁人形を打ちつけたいとか思っているんじゃないんだろうか。

「いいですよ、じゃあこれから教えましょうか」

「ありがとうございます」

「じゃあな、二人とも」

 気を付けて帰れよと手を振ったら同じように振り返してくれた。

「………」

 藁人形のぬいぐるみはそれなりに可愛かった…………と思いたい。


次回、最終回予定です。予定はあくまで予定です。変わる恐れもあることをお忘れないようにお願いいたします。そういえば大賞をとったあの小説がとうとう発売されたようで大賞を取ったにふさわしい内容なんだろうなと本屋を探し回ってもありません。作家デビューでどれほど素晴らしい作品を書いたのか気になりますねぇ。アマですがまぁ、どんな内容でどれほど素晴らしいものか、肩すかしだけは食らいたくないですけど、アマチュアがプロに物を言うなんて百年早いですか。では、次回最終回予定ということでいつになるかはわかりませんがまた今度お会いしましょう。

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