26:望みと占い◆
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とりあえず本屋さんに行きたいと言われたので喫茶店を後にした。ちなみに、喫茶店で頼んだものは俺がパフェで宵乃淵さんはケーキだったわけなのだが俺が全部支払うことになってしまった。宵乃淵さんいわく、『こういうのは男女関係ありませんが、先輩が後輩におごるものなのですよ』とのことである。
目的の本屋へと二人で歩いていると隣を歩いている宵乃淵さんが何やら悩んでいるようだった。
「どうかしたのか」
もしかして、さっきの喫茶店でトイレに行きたかったのだろうか、しかしそう言ったことを軽々と聞くもんじゃないと佳奈に言われたこともあったからなぁ。
「あの、零一さん、手を組んでもいいですか」
「え、こうか」
宵乃淵さんに言われた通り、胸の前で腕組みをしてみた。なんで腕組みなんてしてほしかったんだろうな。うーん、俺の男らしいポーズが腕組みで偉そうにすることだからだろうか。
「どうだ、静」
「違いますよ、零一さんがするんじゃないんです」
「じゃあ、さっきは誰に向かって言ったんだ。あ、もしかして藁人形に言っていたのか、すまん」
「違いますっ、こうですよっ」
腕組みを解いた瞬間に宵乃淵さんに腕を絡まれた。まるで抱きしめるような感じで俺にひっついてくる。
「これで行きましょう」
「ちょっと恥ずかしいぜ」
「最近の友達はよくこうやって腕を組んで歩いているようなものなんですよ」
「そうなのか」
「そうですよ」
そうか、それならちょっと恥ずかしいぐらい目をつぶったほうがいいだろう。なんだね、うん、俺も悪い気はしないし。
二人でしばらくの間歩いていると宵乃淵さんが足をとめた。
「此処ですよ」
「………ああ、此処か」
宵乃淵さんから名前を告げられた時は聞いたことないなぁと思っていたのだがそういえばこの本屋は以前笹川と一緒に来た場所だったな。
「知っている場所なんですか」
「ああ、以前友達と一緒に来た事があったんだよ。初版を探すためにここまでやってきたんだっけ」
「初版って………変わっている人なんですね」
「まぁ、本が好きだったからな。本が好きならそいつと静も話が合うかもしれない」
頭一つ分小さい宵乃淵さんに問いかけてみた。すると、彼女は実に恥ずかしそうに言うのであった。
「えっと、私は別に本が好きなんじゃなくて欲しい本があったから来ただけなんですよ」
「そうなのか、ま、同じ趣味をしている人間同士が仲良くなれるってわけでもないからなぁ」
意見が食い違って対立するのかもしれない。猫がいいとか、犬がいいとか、そんな対立はそこらじゅうで見かけるからな。
「で、どんな本を探しに来たんだ。なんなら、探すの手伝うぜ」
「ゆっくり探しましょう。零一さんはそれでいいですか」
「そうだな」
どう言った本が欲しいのかよくわからなかった。聞いても曖昧にしか答えてくれなかったので力になれるかどうかはわからない。
そんな彼女が足をとめ、羨望のまなざしで眺めている先を追いかけていくと………。
「………『世界中の黒い魔術』………」
「あ、あ、別にあれが欲しいわけじゃないんですよ」
腕を組んでいる為に片手を伸ばして取ってみたのだが、結構重い。見た目はB5サイズの印刷で200ページを少し超えるぐらいなのだが(中学校、高校の国語教科書ぐらい)、さっきも言った通り、重い。
「これを探していたのか」
「欲しいけど、違いますよ」
なるほど、目が血走っているところをみると本当に欲しいようだが違うと言うのも本当のようだ。かなり名残惜しそうにその本を元に戻すと思いをふっきるかのように俺を連れてその場を後にした。向かった先は占い本のコーナーだったりする。
「占いの本を探していたんです。家にある本はどれもブラックな内容の占い本、というより呪術的な何かなので」
呪術的な何かってなんだろうか。詳しく聞いたら夜眠れなくなりそうだな。
「ふーん、静って占い信じてるのか」
「そうですね、実際のところはあまり信じてないって言ったほうがいいかもしれないんですけど願い事が叶うなら嬉しいじゃないですか。零一さんはそう思ったりしないんですか」
「そりゃまぁ、嬉しいけどな」
いくつか手に取り、中身をぱらぱらと眺めている。
「んで、どんな占いを探してるんだ」
「………秘密です」
「此処まで来たんだから教えてくれたっていいだろうに」
「それは………」
一瞬口ごもってめくっていた本をパタンと閉じた。
「願い事が叶ったときに零一さんに教えます。絶対ですから今は聞かないで下さい」
悲しそうに笑って本を棚へと戻した。
「そっか、わかった」
きっと、望み薄の願い事なんだろうなぁ。俺が協力できることなら手伝ってやりたいものだ。
今年も残すところあと僅か。もうちょっとで連載一年を迎える………といっても、まだ結構ありますけどね。よくぞまぁ、此処まで続いたものです。読者様から頂いた話をもとに話を考えたり、絵を描いていただいている方から話を考えてもらって投稿したりと自分的には頑張った、そうほめてやりたいものです。ええ、たとえ文章が誉められないようなものだったとしても自分で自分をほめるのですから………何だか、痛い人に見えるかもしれませんがそこはご愛敬、年末ですから今年に出来ることはしておかないと年を越して後悔してしまいます。感想を書いたことがない人もこの機に書いてみてはいかがでしょうか。十二月ですからみなさん忙しいことでしょう、小説読んでいる暇ないよという人なんていないでしょうが(だって、この小説は移動時間のためにあるようなものですから)先が気になっている人なんて身内以外でいるのかと首をかしげる次第でございます、はい。話を書けば書くほど、やめるにやめられない、宵乃淵静の存在が実に問題となっております。素直に剣だけがお友達という状態で卒業まで零一がこぎつければどれほど楽だったことか………ちょろだし人物でも大丈夫だよという方も中にはいらっしゃるでしょうが、他のメンバーを忘れさせるような特異な存在になってほしかったのですがいまいち空振り状態が続いてしまってますね。ではまた、次回お会いできたらお会いしましょう。