20:空しさ◆
20
朝の登校時間、文字通り、それは学校へと向かう時間のことだが今の俺には関係のないことだ。
足早、というよりも走って向かっているのは当然東家。俺の右手にはケータイが握られており、相手は出てくれない。
「ちっ」
ついつい、舌打ちが出てしまうことにもいらだちつつ、もう一人の友人に電話を入れる。
『もしもし、どうかしたんですか零一さん』
「宵乃淵さん、俺今日は学校行かないから。そう伝えておいてくれ」
『え、な………』
一方的に伝えるならメールでもよかったのだがメールを打ちながら走っていたら見事にこけてしまった。全く、恥ずかしいぜ。
学校へと向かっている生徒をたまに見かけるが、今の俺には関係のないことだ。
「もう少しで夏休みだね」
「うん、そうだね~」
のんきに話している生徒たちの話。羨ましい、今思えば俺にはこんな普通な学校生活を送れる日ってのはあまりなかったからなぁ。
視界の奥のほうに見えてきた東家。あんなに大きいのに、今はすごいな、という感情が湧いてこない。
Plllll…
突如としてケータイが鳴り響いたのだがうるさかったので直接電源を消してやった。麻妃が電話をかけてくるわけがないし、今他の誰かと話していたら変なことを言ってしまいそうだったからである。
――――――――
「零一様、こちらでございます」
麻妃の部屋まで案内された俺はさっさと扉を開ける。麻妃は俺が来ることを知っていたかのようにテーブルにカップを二つ用意して待っていた。いや、用意させてと言ったほうがいいかもしれないな。
「麻妃、俺が学校をやめなければいけないかもしれないってどういうことだよっ。もう高校三年生の夏だぞ」
正確に言うならば四年目の夏、なんだけどな。それはもう些細なことだ。
「それは………私が決定したことではないので詳しいことはわからないんです。とりあえず、座ったらどうでしょう」
「…………」
突っ立って話すのもどうか思われたのでおとなしく座る。コーヒーと思っていたらそれは紅茶だった。
「で、誰が決定したことだよ」
「………私たちの親、です」
親と言われて頭に浮かぶのは達郎さんと鈴音さんだった。
「親って、なんだよ」
「だから、私たちの親です」
「………」
麻妃にとって血のつながりがない親で、俺にとっては存在そのものがあり得ないと言っていい親と言うことだろうか。会ったことはない、ただ、もしかしたらテレビで見たことがあるかもしれない親って何なんだろうな。
「今更、親が出てきてどうこう言われる筋合いはないだろう」
「お兄様、親は、親です。親の言うことなんて聞けるはずがないと言うのなら誰が学費を払ってくれるのでしょうか」
「それは………」
「お兄様が居候なさっていた雨乃家の方に出してもらうとでも言うのですか」
「………言えるわけないだろ」
親は学校をやめてもらうっぽいことを言っているのだが、それに反発すれば学費の問題が出てくると言うわけだ。
「親に会わせろよ」
「それは出来ません」
「なんでだよ」
「会わせる顔がない、とのことです」
「つくづく嫌な親だな。俺には死んでいるって嘘を掴ませた挙句に人の人生を好きなようにしやがって。今度は会わないってか」
「それでも私たちの親です。お兄様だって会わせろと言うタイミングが遅すぎるのではないでしょうか」
「それは………」
そうだな、俺の両親がどこにいるのかわかったのは結構前のことだし、会おうとしなかった俺に問題があるのかもしれない。
「落ち着いてください。私のほうからもお兄様を辞めさせないように言いますし、学費を払わないと言われた場合でも私のほうから出しますから」
「はっ、お前からそこまでしてもらうわけにはいかないだろ。どこの時代に妹から学費を出してもらうバカがいるんだよ」
後ろ指で俺が笑われるのは別にいいのだが、麻妃が『バカなお兄さんを持って大変ですねぇ』と言われるのは嫌だよなぁ。
「ともかく、後日連絡しますから」
「わかった、それで風花はどうしたんだよ」
「風花さんにはテストの集計をしてもらっていました。今頃、アパートのほうに帰っているかと思います」
「…そうか」
「ええ、今からでも学校に行ったほうがいいですよ。まだ一時間目の途中ですから」
「そうだな………ちょっと、此処をうろついて帰る」
「案内、必要ですか」
「いや、大丈夫だ。適当にうろついたら帰るから」
俺が何をしても、しなかったとしても事態が好転するわけでもなさそうだった。
久しぶりに安定して更新ができているかなぁと。他にやるべきことがあるのですが気が乗らないとかそういったがきっぽい理由ですがのらないものはのらないのです。こうなったら、午前中いっぱい自転車に乗ってどこかに行っちまいたいぐらいあります。まぁ、寒いのも最初ぐらいでしょうけど。全国かどうかはわかりませんが紅葉の季節ですね。紅葉を見るまで零一は………まぁ、そこはおいておくとしましょうか。次回もお会いできるといいですねぇ。




