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第二十八話◆:笹川の趣味

第二十八話

「ねぇ、今度の日曜日暇かしら雨乃」

「え、俺……あ、ああ……暇だけど」

「それなら、ちょっと付き合ってもらうわ」

 お昼休み、そんな事を言われた。変に頭の中で妄想してしまいそうだったがどうせ、現実は違うのだ。男ってそういう生き物である。付き合ってとか普通に勘違いする言葉だ。女子ってそれを知っていてたまに使っているんじゃないかな、そう思えて仕方がなかったりする。

「探しものあるのよ」

「探し物……それを探すのを手伝って欲しいってことか」

「ええ、“友達”なんだから構わないわよね」

「ああ、別にいいぜ」

 ほらな、やっぱりそうだ。さっきこれでエンディングだなとか思った奴はグラウンド二十周の刑である。そして、それが終わったらグラウンド二十周年記念、地獄の腕立て大会を開催してやろう。

「……」

「ん、何だか不機嫌そうだな」

「別に、なんでもないわ」

 一体全体、何故、不機嫌そうなのだろうか。



―――――――



 日曜日、快晴である。悲しいぐらいの快晴、水分が上昇中であることは変に湿気が高いということでむしむしした暑さを感じる。不快指数がたまりっぱなしだ。

「いやぁ、晴れてよかったなぁ」

「そうね、いい天気だわ」

 梅雨の快晴ほどすばらしいものは無いね。昨日の夜はまだ雨だったんだが……雨とは実に悲惨なものだ。スリップして車が事故を起こしてしまったり、川が氾濫して人が流されてしまったり、洗濯物を外に干すことが出来なかったりするのだ。

 昨日、俺も雨の被害者となった。

「ちょっと、零一っ何であんたが私のパンツを手に持ってるのよっ」

「はぁ、持たないと干せねぇだろ」

「触んないでよ、バカッ」

 ぱし~ん、はい、ワンアウトっ。一体全体何の意味だかさっぱりわからん。いつも迷惑かけているから洗濯物ぐらい干してやろと思ったらこのざまである。今更だが、雨関係ないな、この話。

「で、そういえば探し物の正体を聞いていなかったけど……どんなのを探せばいいんだよ」

「そうね、そういえば言っていなかったわね……それはね……」

 一つ、間があいた。

「……『アンノウン・エンジェル』第一巻の初版よっ」

「知らない題名だな」

「まぁね」

「それって面白いのかよ」

 そういうとかなり微妙な顔をする笹川。

「別に、面白くないけど……わたしは持っている本は出来るだけ初版でそろえたいのよ。この本の一巻だけが初版じゃないの。どこかの古本屋にうっていると思うから手分けして探すわ」

 さ、行くわよ。そういって古本屋めぐりは始まったのだった。



―――――――――



「やっぱり、マイナー小説ってなかなか見つからないわね」

「そうだな、その本自体が売ってなかったし」

 昼時、いったん休憩が挟まれた。オープンテラスのカフェで一息している最中だ。俺の前にはオレンジジュース、笹川の前にはコーヒーが置かれている。いずれ、パスタが運ばれてくることだろう。

「ま、まだ……えっと、五件だったか」

「ええ、そうね」

「五件しか回っていねぇんだ。まだ時間もあるし大丈夫だろ……ちょっとわからねぇが、これってどのぐらい回るのが普通なんだよ」

 そういうと笹川が笑っていた。

「そうね、三十件ぐらいかしら」

「三十件か…ここらそんなに本を売っているところあったか」

 また、不機嫌そうな表情。何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。

「……冗談よ」

「へぇ、お前冗談なんていうのかよ」

「……」

 すごく、不機嫌そうに更になってしまった。からかわれたと思ったのだろうか……

「お、おい、別にからかっているわけじゃないんだぞ……ただ、意外だなぁってそう思えてよ……」

「……いい、もうわたし帰るわ」

 そういって、荷物をもって出て行ってしまった。周りの視線がいたい。

「……あの、お客様……シーフードパスタ、カルボナーラをお持ちしましたが……どうしましょうか」

「え、ああ、ここです。おいておいてください」

 店員さんが申し訳なさそうな、そして、悪いときに持ってきちゃったな……そういった顔をしていた。

 ともかく、運ばれてきたものを残すわけにも行かなかったので全て食べてやった。ふふふ、俺の胃袋はコスモだぜ。この程度……うっぷ……朝飯前だ。笹川は相変わらず辺に律儀なところがあるのでお代はしっかりとテーブルの上におかれていたりする。

「さぁて……昼から自由時間になっちまったなぁ……」

 どうしたものかねぇ…。



――――――――



 日曜日の次の日は月曜日である。それは太陽が西から昇って東に落ちるという、そういったことが起こらない限り不変の事象だ。そして、隣の席が席替えでもなければ笹川栞ということには変わりは無い。

「おはよう、笹川。今日もまたえらい美人さ……げほっ」

 腹部に辞書が『おはよう』の一撃をくれる。とっても過激な挨拶だ。床に転がった辞書を拾い上げ、ついでにかばんから一冊の本も取り出した。

「ほれ、『アンノウン・エンジェル』第一巻初版だぜ。あ、お代は結構。」

「……」

 しばしの間その二冊を睨んでいたがやはり欲しかったのだろう。そっと大事そうにかばんに入れた。

「…………とう」

 何かを言って席を立つ。つんとしたその対応は一ヶ月経っても相変わらず変わらないんだなぁ。


笹川栞が所有している本は今のところ全て初版。さて、『アンノウン・エンジェル』は知っている人は知っている(知っていたらすごいですよ)知らない人はもちろん知らない雨月の第一作目ですね。そんなことはおいておきましょう。自分でやってて無意味に傷が増えますから。さて、長編だっていっていた癖して中途半端。でもまぁ、これでいいんですよ。ちょうへんですから、超変だってことで…。皆様に娯楽と愛を運ぶ雨月でした。二月五日金曜、二十時十四分雨月。

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