15:健やか◆
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たまには料理を作ってみようと台所に立とうとしたら風花にやんわりと拒絶された。
「零一様はどうぞ、ごゆっくりなさってください」
「たまには料理が作りたいと思ったんだが………」
「いえ、零一様は今日も学校でお疲れになっているでしょうから」
別に何かをしていたわけでもないし、部活に入っているわけでもないので疲れるわけがなかったりする。進路が決まっている奴に対してあの高校は結構自由にさせているからな。もちろん、夏休み前で就職先が決まっている高校生なんてほとんど……というより、俺以外いなかったりするわけだ。
話がそれてしまったが今日で五日目、風花はどうも俺を台所に立たせたくない理由があるようでそれが何なのか俺としては気になると言うわけである。
気になるだけで、余計な詮索はしないことにしているんだけどな。
いや、ね、俺も知りたいときは何があっても調べたりはするけどもこれで嫌われて『零一様なんて嫌いです』とか言われたらそれなりにショックを受けるからな。うん、まぁ、気になる………。
詮索しないとか言ってしまったのだが、俺は夏休みも近くなってきたある日、尋ねてみることにした。ちなみに、期末テストやらを俺は受けなくてよかったりする。これはわかる人にはわかるかもしれないがわからない人には永遠にわからないであろう事象である。
「なんで俺を台所に立たせてくれないんだ」
金曜日の夜、コーヒーを目の前に置いてくれた風花にそう尋ねてみた。
「零一様が台所に立った場合………」
「立った場合、どうなるんだ」
嫌いになっちゃいますよ………とか言われるんだろうな。
「わたくしがいる意味がなくなるので出てかなくてはいけなくなります」
よよよと泣き崩れる風花。うわぁ、そんな目で俺を見られても困るんだが。
「安心してください、零一様。零一様が私を追い出した後は私よりもしっかりとした方がお世話をしてくださりますから」
「ちなみに、どのぐらいきちんとしている人物が来る予定なんだ」
風花でもしっかりとしているはずなんだけどな。起こす時間は毎日同じぐらいだし、掃除は手を抜かないし………まぁ、風花達から見たらそれが仕事だから当たり前なんだろうがそれでも俺はしっかりしているなぁと思う。
「まず、日がのぼった時点で起こされた後、マラソンを強要されます。背後から木刀、もしくは竹刀のようなもので追いかけまわされるでしょう」
「…………」
「零一様が一日でも自室の掃除をいやがった場合、それ相応の覚悟をなさったほうがよさそうです」
「風花、俺はそう言った人物を約一名、知っているからこれ以上そういったしっかりしすぎた奴が増えるのは遠慮願いたいんだが」
「それなら簡単です。零一様が台所に立たないと誓ってくれるなら、そういった方が零一様のもとへやってくることはありません」
「誓う」
そういうと風花はほっと胸をなでおろすのだった。
「そのお言葉をいただけてわたくしは非常に嬉しいです」
「たまには風花に休んでもらおうと思っ………なぁ、なんでそんな表情をするんだ」
目に涙をいっぱいためていたりする。なんだかものすごーく、悪い事をしたような気がするんだ。
「これは嬉しいときに流すための涙です」
「じゃあ、悲しい顔の時はどんな涙を流すんだ」
「血の涙を流します」
「それは普通に怖いな……しっかし、血の涙ねぇ」
「…………零一様、零一様が血の涙を流したいと願うのならばわさび、またはからしを目に塗りこむ準備が出来ておりますが如何なさいましょうか」
「………遠慮しておく」
「そうですか」
俺はふと思ったことがあった。
「なぁ、風花」
「なんでしょうか」
「風花って一カ月いくらぐらいで俺の世話をしてくれているんだ」
誰だって気になるだろう。ずっと付きっきりと言っていい。まぁ、学校までは付いてこないのは当然だが、何かあると来たがるんだが家事で手いっぱいらしい。
「あいにく、それは零一様であっても答えることはできません」
「……なるほどな、まだ見ぬ俺の両親とやらが風花に金を払っているってことだからか」
「はい、あえて言わせてもらうのならば零一様の表情が報酬のひとつであると言っていいのかもしれません」
「…そりゃどうも」
「寝顔を見るたびに思うんです。ああ、健やかに育ってくれているんだな………と」
「………なんだかまるで赤ちゃんみたいに扱われてるんだな」
「それはどうでしょうか」
ほほ笑む風花に何を言おうか迷ったのだが、これ以上情報を聞き出そうとしても意味がないだろう。
「ま、ともかく風花が不便に思ってないならそれはそれでよかった」
「……」
あれ、なんだか今ものすごーく、何かを言いたそうな誰かの視線を感じたぜ。しかし、この部屋には俺と風花しかいないしなぁ。気のせいだろうか。
えーと、新作はそれなりに進んで八話目の途中ですね。電話がかかってきたところで区切りをつけてやってます。最近はやる気でない病にどうやら感染してしまったようで………やる気が出ません。じゃあ、無理やりやる気を出してみたらどうだろうかと一時間、本気を出して自転車をこぎこぎして自宅に帰ってきたところ、疲労困憊で目の前がかすみつつあります。疲れた、なんて言い訳ですから言いませんがまぁ、寒かったので体が火照ってちょうどよかったって感じですかね、うん。さてさて、終わらせよう終わらせようと頑張りつつも一向に終わらせることのできていない状況が続いていますが、それはそれ、これはこれということで今回はお手伝いさんの話でした。一人出すより全員出せや、こらっ。などといった方もいらっしゃるでしょうがそれがなかなかどうして出来ないのですよ。接点がそれぞれないですから、無理に出すとさらなる混乱に拍車をかけてしまいます。そして、それを修正するために50話ぐらいお暇をもらわないとだめみたいですね。ま~次回作に笹川栞関係をしのばせたいと思いつつ(彼女を超越する存在)も、300話近くまで書いても誰もよまねぇだろうと思うので短めに終わらせたいものです。春、夏、秋、冬を三回繰り返せばいいのですから………頭のいい読者様は気づいておられることでしょう。ええ、ご察しの通り、なんと、一回で終わらせられるんですよ。一回の投稿で完結という連載モノじゃない完全無欠の短編モノ。冗談はこのぐらいにしてとりあえず零一の話のほうを真面目に取り組まないといけないですからねぇ。彼も気がついてみれば高校三………いや、四年生ですから。