第二十七話◆:退院と友人と。
第二十七話
無機質な個室に一輪の花……ピンクのコスモス……と、こんな風に描写したところで実際そう感じる人はどれほどいるのだろう。
「あ、零一先輩」
「先輩……俺がか」
「はい、私より年上ですから先輩ですよね」
薄いピンクのパジャマに白いシーツ。肌も白いので病弱ってイメージがどうしてもぬぐえない。
「まぁ、確かにそうだな……ところで、一つ聞いてもいいか」
緑のパイプ椅子を取り出して腰掛ける。花瓶には昨日俺が持ってきた花束が水を吸っているようだった。
「何をですか」
「……えっと、澤田さんは」
「年下だから呼び捨てでいいですよ」
「澤田は友達がいなかったんだってな」
「………はい」
悲しそうにそういった。
「で、でも……今は大丈夫です。先輩が友達ですから」
「……ま、そうだな。悪い、へんな事を聞いちまってさ」
「いえ……あ、これ忘れていた携帯電話です」
小さな手から携帯をもらう。
「先輩も……あまり友達いないんですね」
「お、電話帳見ちゃったのか」
「見ちゃいました、すみません」
頭を下げられる。
「気にするな。相当少なかったろ」
「えっと、あったのは家族の方と満って言うお友達、それと湯野花朱莉って人だけでした」
「家族……ああ、それはちょっと違うな」
「え」
不思議そうな顔がこちらへと向けられる。
「俺よ、今居候しているんだわ」
「いそうろう……なんでですか」
「ああ、ちょっと両親が小さいころに行方不明になってそのまま。死亡届もまだ出してないぜ。それからじいちゃんに育てられていたんだが高校に入ってすぐ、また行方不明。親戚会議の末に今の雨乃家で居候させてもらっているんだわ」
「……あ、あの……すいません」
「いや、気にしないでくれ」
聞いて失敗しちゃったな……そんな顔をしていた。
「俺だってへんなこと聞いたからな。これでおあいこだ」
「でも……」
「ま、とりあえず明日で退院なんだよな」
「え、あ……そうですけど……」
すごく暗くなった。
「どうした……ああ、中学の友達がいないってことか」
「は、はい…」
「気にするな、澤田ほどかわいい子だったらきっと男子から引く手数多だぜ……っと、それじゃ女子から総スカンだな。もてる女ってつらいんだなぁ……」
「……か、可愛いだなんてそんな……」
照れる仕草がかわいいもんだな。
「ともかく、心配するな。何かあったら……俺のケータイに電話してこいよ。えっと、電話番号は……」
「あ、そ、それは……わかってますから大丈夫です。悪いとは思いましたけど携帯電話に登録しちゃいました」
淡いピンクのケータイ、電話帳には『雨乃零一』と載っていた。
「そっか、それなら大丈夫だな」
その後、色々な話をしてこの子に友達が出来ればいいなぁ、そう心の底から思った。
――――――――
それから、数日後、授業中のことだ。
PLLLLLLL……
「誰だ、携帯電話が鳴ってるぞ」
「あ、す、すみませんっ、俺ですっ」
「お、そうか……じゃ、外に出て出ろよ」
俺は特別優遇されている。授業中にケータイが鳴り響いていても行方不明のじいちゃんが見つかったかもしれないということで没収は免除されているのである。
「……」
じいちゃんのことを思い出すことなく、廊下に出てコール音を押した。
「はい」
『……あの、零一先輩ですか』
「あ、ああ、そうだ。って、澤田か」
『はいっ』
声が非常に嬉しそうだった。
「元気そうでよかったよ」
『友達、友達沢山出来たんですっ』
「そっか……そりゃあ……よかったじゃないか」
『先輩のおかげですよっ。あ、友達が呼んでいるので失礼します』
一方的に切れた。まぁ、友達が沢山出来たのならよかったかもしれない。
「……どうだった、雨乃」
「……あ~、間違い電話でした」
苦しい言い訳だったが……なんとか誤魔化すことが出来た。
さて、以前もお伝えしたとおりですが絵を描いていただいています。すでに、笹川栞、雨乃零一、そしてニア・D・ロードの絵が『みてみん』のほうで投稿されていますよ。いやぁ、いいですね、人物画。雨月はガンダ○とかならかけるのですが(ついでに、アンパンマ○も)なかなか人となると難しい。髪とか体つきとか……漫画家ってすごいやぁ。と、まぁ、あれですね。それはおいておくとしましょう。次回は笹川編長編大作(嘘っぽい)の開始です。二月五日金曜、十九時二十三分雨月。




