03◆:友達になろうと頑張った結果
03
見た目は普通じゃないのだが中身が普通ならばそれでいい事として、俺は宵乃淵さんと友達になったわけだ。放課後、学校内を案内すると言う約束をしたので廊下で待っていると剣が出てくる。
「あれ、一先輩はまだ帰ってなかったのですか」
「ああ、これから宵乃淵さんに学校案内をするんだよ」
「学校案内、ですか。もう知っていると思いますが………」
「それなら移動教室の場所とか知らないわけがないだろ」
「それもそうですね」
そういうと足を止めて俺の隣に立つ。背中には何かが入っている細長い袋を背負っていたりする。
「剣、別に俺一人でも案内ぐらい出来るから大丈夫だぞ」
「いえ、一先輩の脳を心配しているわけじゃありません、私が心配しているのは宵乃淵さんのほうですよ」
「え」
そういうと鞄の中から本を取り出した。剣には珍しいことに、この本が辞書やら参考書と言ったものではなくて漫画だったということだろうか。
「ここ、読んでください」
「はぁ、まぁ、いいけどよ」
手渡された本を読んでみると………
「………これ、お前が買ったのか」
「ええ、漫画などはあまり読まないというか、読みませんのでどれを買えばいいのか分からず目に映ったものを買いました」
「………そっか」
「男と女が学校案内などをすると暗がりに連れ込んで襲うなどという言葉が書いていたものですから、一先輩がそうならないように見張っておきたいと思います」
ああ、なんて純粋な子なんだろう。他の子たちと触れ合いたいがためにまずはマンガを買ってみようとして………。
「剣、今後このマンガを買っちゃいけないぞ」
「何故ですか。まだ続きを読んでいません。最重要ポイントのみしかみていませんから」
いや、これから先が最重要ポイントなんだけどな。
「なんにせよ、ちょっとこの本を借りていいか」
「読んでいませんがどうぞ」
「俺がもし、なくしたらちゃんとお金を返すからそれでもっとためになる本を買ったほうがいい。うん、剣はしっかりとした本を読むべきだ」
「そうですか」
「ああ、絶対そうだ」
そんなくだらない会話をしていると扉が開いて不幸の象徴みたいな少女が現れた。
「すいません、遅れてしまって………」
「気にするな」
「はじめまして、宵乃淵さん。私は吉田剣と言います。一先輩……こちらの雨乃零一先輩が暗がりに貴女を連れ込んで………」
「あ、えっとだな。こっちはお前と友達になりたかったらしい吉田剣って言うんだ。ついでに友達になってやってくれないか」
「え、あ、はぁ、わかりました」
「ついで、という言葉には引っかかりますがよろしくお願いします」
「あ、これはどうも、ご丁寧に………」
今、こんな事をしている高校生なんていないだろうな。
「剣は少しばかり他とずれているところがあるけど、基本的にいいやつだ」
「いろいろと引っかかる言い方ですね」
「嘘は死んでも許さない、悪を見かけたらまずはお掃除と言う、好きな色は真っ白、白黒はっきりさせたいと言う子だからな」
「は、はぁ」
少々困惑しているようだがこれはこれでいいはずである。そういえば、いたなぁ。剣に告白してきて泣かされていた男子生徒が。
「まぁ、あとはおいおいっていうか………一緒に勉強やらいろいろとしてみれば剣の深さがわかるだろうな」
「そうですか………」
「ずるい気がするので一先輩の事を少しばかり紹介しておきます。一先輩も基本的にはいい人ですので仲良くしてあげてください。お気づきかと思いますが、この人、留年しているんです」
「………やめろよ、同級生として仲良くしようとしていた俺の作戦がとん挫したじゃねぇか」
「大丈夫です、同級生ですから」
ぐわ、何気に心に刺さるような言葉を………。
「じゃ、じゃあわたしの紹介をさせてもらいますね」
よし、ここで俺のすごいところをちょっとだけ二人に見せてやるとするか。
「まぁ、待ってくれ」
「え、なんですか」
宵乃淵さんがこっちに注目してくれたところで俺は口を開く。
「名前は宵乃淵静。年齢は今年で十八歳、羽津高校に転校してくる前は私立南里東ケ丘高校にいて、両親の名前は父親が一樹、母親が敏江。他にはペットのよくしゃべるインコがいて名前は次郎、以前は二匹だったのだがもう一匹の太郎は一昨年になくなっており、次郎は長生きをしている状態である。髪の毛を伸ばし始めたのは小学校高学年から、好きな食べ物は甘いもので苦手な食べ物は苦いもの全般。身長はいいとして、体重とかはまぁ、個人情報なので控えさせていただきます………と、あとは得意教科ってところか。どうも成績を見ると頭を使うところは突出していいのは歴史関係。一番悪いのは体育で日に当たるのが苦手なのが原因らしいねぇ。悩みとしては交友関係が少ないってことか。今回の転校は父親の転勤もある、いじめとかではなく、以前は『黒魔術研究部』の副部長として元気溌剌だったと………どうした、二人とも固まってるぞ」
なんだろうか、俺のことをまるで変態でも見るかのような目つきで見ていやがる。
「一先輩」
「なんだ、あれ、情報のどこかが間違ってたりしたのか」
「いえ、そういうことではありません。あと、一生のお願いがあります」
「剣の一生の頼みか……よし、それなら聞いてやろう」
「これから、私と宵乃淵さんの二人で学校案内に行ってきます。絶対についてきたりしないで下さいねっ。いきましょう、宵乃淵さん」
「は、はい」
廊下に取り残されたのは俺一人だけだった。え、えーと、あれ、もしかしてなんだかやらかしてしまったのか。
いつこんなことを調べていたのか、これは次回、明かされたりします。さて、最近やっと涼しさが増してきましたねぇ。暑いのも苦手なのですが、寒いのはもっと苦手な雨月に残された道は………こたつをさっさと出すことでしょう。あっという間に師走になって、また年を……って気が早いですかね。ともかく、時間は待ってくれたりしないんですよ。この小説もいつかは消える日がやってくるのです。まぁ、当分消えてくれそうもないんですけど………それでは次回、またお会いしましょう。