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Ex-6:雨乃零一、野々村竜斗◆

この前のあとがきをどれほどの人が信じてくれたでしょうか………あまり、信じすぎるとだまされます。

Ex-6

 いつも飄々としており、めったなことでは顔に表情を見せない人の事を多分、ポーカーフェイスと言うのだろう。ふっ、俺もそのポーカーフェイスなのだが、友人にも一人いる。



 その名を、野々村竜斗という。



 男なのか、女なのか、俺の中ではもはや微妙な立ち位置となりつつあったりするし、校内では俺との中をBLだ、BLだとつぶやくアホも結構いる。夏休み挟んでこっち、それらの話題ばっかりでうんざりだ。友人たちからは変な目で見られるしよ。

「ぼくは一向に構わないんだけどね」

「俺が鎌うんだよ、俺が」

 そんな竜斗のあわてふためく様子を見て笑ってしまったのがいけなかったことなのだろう。



 竜斗はその日を境に学校に来なくなってしまったらしいのだ。



「今日も竜斗、お休みしてたよ~」

「そうなのか」

 満がそういう。そして、俺にケータイ画面を見せてくれた。

「………『ぼくは零一君から屈辱を受けた。このメールを学校関係者に回してほしい』………」

「一体、何したんだい」

 りゅ、竜斗の野郎………何を考えてるんだっ。

「きっと、暗がりで竜斗を………」

「そんなわけないだろっ」

「へぇ、でも結構仲のほうはいいんじゃないの」

「そりゃな。結構いいほうだぜ。けどまぁ、この前ちょっとあったんだよ」

 そういうと満は何を勘違いしたのか知らないが、にへらという擬音がぴったりの面になりやがった。

「………浮気したんだね」

「いや、してねぇよ………って、浮気でもないだろ」

「うんうん、男だったら浮気なんてするもんだよ」

「彼女のいないお前が言っても説得力無いだろ」

 お前にいるのは最近ストーカーに変わりつつあるどっかの大学の女学生さんだ。あの先輩、卒業してもなお、満の事を追いかけているとはな………この男のどこがいいんだか。

「ともかく、こんなメールが広まっちゃったら零一も大手を振ってお外、あるけないんじゃないの」

「そりゃそうだ。今日、竜斗の部屋に行ってみる」

「ああ、正直に謝ったほうがいいよ。お前が一番だっていってやったほうがいい」

「………」

 それじゃあねと手を振って去っていく満に言いたいこともいろいろとあったのだが、面倒だったのでやめることにした。



――――――――



「おーい、竜斗。俺だよ俺、零一だよ」

 チャイムを鳴らしても返事がないので扉を叩いてみたのだが無反応。いないのかと思ってドアノブをまわすと回ってしまった。

「おろ、いるのかよ。りゅーとー………いないのか、にしても不用心だな」

 泥棒とか入ったらどうするんだよ、とか思いつつも今の今まで、携帯電話で連絡すればいいということを忘れていた。まったく、俺もバカだな。

 少しの間、コール音が鳴り響いていたのだがそれらも続くだけでとられる様子はまったくない。

「うーん、どうしたものか」

 このまま部屋に戻ったとしても気になるだろう。いつも俺の部屋に勝手に入ってきているし、たまには俺が部屋の中にいても問題はないだろう………いやいや、待て待て。やっぱり中にいるのはまずいだろ、あれでも女の子なんだし。

「零一君、こんなところで何してるのさ」

「ん、いや、竜斗がいないんだが鍵がかかって………」

 ここにきて話しかけてきているのが竜斗であることに気がついた。

「驚かせるんじゃないよ、全く」

「勝手に驚いたのは零一君だと思うけどねぇ」

「ところで、お前この前俺に笑われたのがよほどいらついたのか」

 そういうと微妙な表情をした。片頬をぴくっと動かせたのである。

「………そうだね、少しばかりいらいらしてしまったよ」

「そっか、まぁ、笑ったことは謝るよ。悪かったな」

「謝らなくてもいいけど、もう憂さ晴らししちゃったから」

「満に送ったあのメールか」

「満君だけじゃなくて、もっと送られてるよ」

「…………」

 なんて後ろ向きな憂さ晴らしなんだよっ。

「しっかし、お前が緑色の虫が駄目だとは思いもしなかったぜ」

「誰しも、苦手なものがあるんだよ」

 うんざりだと言わんばかりの表情で俺を見てくる。

「佳奈ちゃんはピーマンが嫌いだって言っていたし」

「そりゃ食べ物関係だろ」

「笹川さんは犬が駄目だって」

「あいつの犬が駄目って言うのは苦手じゃなくて、犬の存在が駄目だっていってる猫信者だからな」

「湯野花さんは警察が苦手だって言っているからね」

「………そりゃあ、まぁ、トラウマなんだろうな」

 最後のはリアルに反応しちゃんうんだろうな。俺も身体がびくぅってなっちゃうし。

「竜斗がカマキリにひっつかれたときはびっくりしたぜ。なんせ、声も変わっていたからな、『きゃあああっ、零一君っ、とって、とってぇええ』とか………ふ、ふふふっ」

「………」

 竜斗はおもむろにケータイを取り出すとまるで荒野のガンマン早撃ち競争ばりにボタンを押し始めた。

「おい、何してんだ……って、メールか」

『零一、竜斗と結婚するなんてすごいねぇ』

「…………」

 にこっと笑う竜斗のケータイをとって確認してみる。

『この度、雨乃零一さんと一緒に市役所に婚姻届を届けに行きました。ぼくたち二人の未来を明るく応援していただきたいと思います。なお、挙式は十一月を予定しており………』

「お前、意外とメールを打つスピードが速いんだな」

「いや、零一君にいじめられた時のために既に準備していたものさ」

 やたら女子高生が使うような手段を(巷じゃ妊娠させられたとか打つ非人間的な事をする方もいるそうだ)使うとはな。そら恐ろしい野郎だ。

「俺が竜斗をいじめるわけないだろ」

「嘘だよ、さっきもぼくのことをいじめたじゃないか」

 ぶすっとふくれっつらになっているところをみると、どうも情緒不安定になっているらしい。

「いじめたんじゃなくて、ちょっとからかっただけだろ」

「それをいじめたっていうんだよ」

「そりゃまぁ、集団でからかったらいじめだって思うかもしれないけど二人っきりだったし」

「………」

 ふくれっつらで俺の事をいまだ睨んでいる。全く、ちょっとした困ったさんだな。

「わかった、さっきからかったことは素直に謝る」

「本当に、そう思ってるのかな」

 値踏みをするかのように俺をみている。

「ああ、嘘はつかない主義だ」

「嘘ばっかり………」

「嘘じゃないって」

「遊園地」

「へ」

「遊園地につれていってよっ」

 この場一体に響き渡るようなそんな大声だったりする。夕方、夕飯の支度に追われている主婦、主夫たちは大変だろうな。そんなときに大声が聞こえてくるんだから………まるで、子供のような要求だし。

「わかった、それならいつ行こうか」

「今からに決まってるじゃないかっ」

 嫌だと言ったら口じゃ言えないようなメールを送るからねと、目で訴えてきている。

「ああ、うん、わかった。それじゃあ行こうか」

「着替えてくるから、待ってて」

「うん、うん」

 さっきから頷きっぱなしなのは普段の竜斗とはまるでかけ離れたような感じだからだ。まるで、子供そのもの。そういや、英語にはkidとchildの二通りあったな………。



―――――――



 それから三十分間、夏だからいいものをこれが冬だったならば確実にあたりは暗がりに包まれていたことだろう。

「おまたせ」

「お、おう」

 出てきた竜斗は男っぽくなかった。女の子だった。ドレスと言えばいいのだろうが、来た事がないので詳しく種類を知らなかったりする。

「どう、似合ってるかな」

「あああ……」

「ちょっと驚きすぎじゃない」

「いや、これが正当な反応だと思うぜ」

 青空も真っ青な蒼、膝が見えるか見えないかの感じで、実に涼しげだった。

「じゃあ、俺も着替えてくる」

「いいよ、もう。零一君はそのままでさ」

「でもよ、なんだかつり合いとれな………」

「どんな格好してもぼくと釣り合うわけないじゃん」

「そうかもな」

 ともかく、竜斗に手を引っ張られてしまったのでそのまま向かうことにした。

「この時間から遊園地についたときはもうやってないだろ」

「どうだろうね、やってるかもしれないよ」

 サンタクロースを信じる無垢な子供のような瞳を俺に向ける。あいにく、俺はサンタを信じるほど純粋無垢じゃない。ただ、ここでごねても後味が悪くなるだけだ。

「そっか、なら急いで行ったほうがいいな」

「うんっ」



―――――――――



 しまっているはずの遊園地、フル稼働………。

「どれもこれも、人が乗ってねぇし、無人じゃねぇか」

「今日はぼくと零一君だけの貸し切りなんだ」

「………」

 野々村さんちは何をお考えなのかしらねぇ、東家だったらこんなことをすることはないんだろうな。

「しっかし、よく野々村家はこんなこと出来るな」

「ううん、ここは東家の所有している遊園地だよ」

「…………」

「東洋一郎って人が零一君とのデートのために特別稼働してくれたんだよ」

「あははは、その人にお礼をいっておかなきゃな」

「お礼は零一君の楽しむ姿と、僕と零一君がその………」

「その、なんだ」

「き、キスしているところを写している写真だって」

「…………」

 言葉が右から左へ、左から右へと右往左往で四面楚歌。

「俺、結構聴力には自信あるほうなんだけど今の言葉だけ聞き逃した」

「だ、だからぼくとキスしているところを写真に収めてほしいってっ」

「あのなぁ………」

「ぼくじゃ、駄目かな」

 ううん、ばっちりオーケーだ………違う違う。俺が言いたいのはそんなことじゃない。

「他人に見せるのはなんだ、よくないだろ」

 後でげらげら笑われそうである。どうしたものかと考えていると右手をしっかりと握りしめる。それはそれは、非常に力のこもった握り方だった。



「あのさ、ずっと前から言ってきたけど、ぼくは零一君のことが好き、ううん、大好きなんだ。助けてくれたからじゃない、そのあと一緒にいてそれで気がついた………」



 それだけ言うと俺を抱きしめてくる。

「零一君、ぼくの気持を抱きしめてっ」

「………竜斗」

 俺はゆっくりと竜斗の肩を掴んで引き離す。そこにはがっかりした竜斗の姿が。

「………そっか、そうだよね。ぼく、男みたいだし……今だって無理してるかもしれない」

「まずはあそこでカメラを構えている二人組を捕まえてからだ。話を聞くのは二人だけの時がいい」

「え」

「おい、そこの二人っ。俺が気がつかないとでも思ったかっ」

 視線を飛ばすと人影が二つ。

「ありゃーばれちゃったか」

「洋ちゃん、せっかく園内には監視カメラがあるんだからそれでみればいいのに」

「いやいや、こういったものはその場で見ないと味気ない」

 バカをやっている知り合いにため息をつきつつも、これからどうしたものかとさらにためいきをついてみた。

「竜斗、観覧車に乗ろう」

「え」

「さっきの話、そこで詳しく聞くからな」

「わお、観覧車だって」

「あ、でも当然中には監視カメラなんてないわ」

「じゃ、急いで業者さんに連絡しないとっ」

 いまだバカをやっている二人組に嫌気がさしたので急いで観覧車のほうへと走ることにした。もちろん、竜斗の手を掴んで。

「れ、零一君ちょっと早いってっ……うわわっ」

「おっと」

 こけそうになった竜斗をしっかりと抱きしめる。

「意外と器用だろ、後ろを振り向いて抱きとめたんだからな」

「…………本当はわざと狙ってたとか」

「そこまでは器用じゃない……じゃ、ゆっくりいくか」

「うん」

 抱き起した竜と共に歩む道、まっくらでよくわからなかったけどしっかりとわかる手のぬくもりが………まだ夏なんだなぁと教えてくれた。


ええ、本当は『男装している竜斗が女装大会に出席して、男に負けるという話』にしようと思っていたんです。さまざまな猛者の中には満、零一の姿があり、彼らは予選で負けてしまい、決勝戦で竜斗は謎の男に負け、自信をなくして女の子になると………すごく、ややこしいし、ばかみたいな話だったのでやめました。それらの後に今回の話になったわけですがとっちらかっているのが礼一だなぁと………そう思っていただければ幸いです。さて、これで全員分おわったはず……誰かを忘れていた場合はぜひ、報告願いたいと思います。剣、風花はスルーの方向でお願いしたいですがね。ふぅ、これまでこの小説を読んでいただいた関係各者、読者様。雨月が今回最後に言いたいことはお礼の言葉のみです。ええ、けして感想がほしいとか、評価がほしいとか、そんな高望はしていませんので安心してください。それでは、次回お会いしましょう。

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