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Ex-5:雨乃零一、澤田夏樹◆

最近ようやく涼しくなってきましたねぇ。昨日、窓を開けて寝ていたら、そうしたらですね

Ex-5

 人生、山あり谷あり、断崖絶壁、ブービートラップ、仲間からのバックアタック、裏切り、絶望、四面楚歌………とまぁ、ネガティブな言葉をあげ連ねれば一冊の書籍が完成するんじゃないかと俺は思う。

 テスト結果が発表されたのは日曜日だった。

「げ、元気出してくださいよ。零一先輩っ」

「………そうねぇ、そうねぇ、人生何事も前向きに考えていかないとやってけないものねぇ」

 俺の事を一生懸命励まし、慰めてくれるとっても優しい年下の後輩、澤田夏樹。見た目とは裏腹に非常に頭がよろしいらしく、このたび、飛び級試験を受けた二人の中で唯一、受かった生徒である。ちなみに、もう一人は俺であり、これにて飛び級失敗。つまり、今年一年間の内容は既に頭の中に入っているというのにもう一度それを受けねばならぬというこれまた嫌な状況である。

 教師から言われた言葉が胸に響く。



『残念だったな、雨乃。一問ずれていれば満点だったのに』



 俺はバカではない。しかし、愛すべきおっちょこちょいさんだということで誰かに愛してもらいたい………。

「きっと、連中知ったら俺を指差して笑うんだろうな」

 友人たちの心温まる言葉を予想してみた。



「え、落ちたってそりゃあご愁傷様。僕は大学に入って満君サクセスストーリーを始めるんだ」

「はぁ、落ちたって零一が受かるわけないじゃない。残念、小さいとか言ってる割には私より卒業するの、遅いんだ」

「雨乃、落ちたんだ………先輩はね、後輩をこき使ってもいいと思うの。図書館から貴方の名義でいろいろと借りてきて、今すぐに」

「やっぱり、ニアのほうが頭いいんだな。零一、精神修行がきっと足りないんだ。じーじに頼んで改造してもらおうっ」

「あれだけ勉強していたって言うのに落ちちゃったんですか。むぅ、それならあたしがちゃんと仕事に呼んであげればよかったですね。アストで働かせてあげますよ」

「あはっ、零一君落ちちゃったんだ~いやいや、これはこれは意外だねぇ。ふふっ、あ、あはははははっ」

「一先輩、これはもはや即座に缶づめで勉強をし直したほうが得策かと……安心してください、私がちゃんとしているか見張っておきますから」

「………零一様、失望しました」



「ふぅ、どこかに逃亡できる場所ってねぇかな………」

「え」

「澤田、短い付き合いだったな。俺、明日から行方をくらますわ」

「な、何言ってるんですかっ。零一先輩の友達はそんなに悪い人がいるわけないじゃないですかっ」

 まぁ、奥様、ここにものすごーく、珍しい人物がいますわ。純粋で心根の優しいいい子ですもの。



pllll



「メールだな………」

 相手はどうやら満からである。

『落ちたら町を素っ裸で走ってね』

「………な、こんな奴なんだよ」

 澤田にメールを見せる。

「ちょっと見たいかも」

「え」

「あ、いや、きっとこれは冗談だと思いますって」

 きっと、満に聞いたら『ええい、冗談ではないっ』とか言いそうだ。

「ふ、ふふふ………あいつめ、卒業式には屋上から狙撃してやる」

「そんなことしちゃいけませんよっ。零一先輩、マイナス方向に考えるからいけないんです。前向きに考えましょうよ」

「前向きねぇ」

「ほら、たとえばまだ剣先輩と同学年だってことです」

「…………」


「一先輩、背筋が曲がっています」

「一先輩、お箸の持ち方が変ですよ」

「一先輩、ちゃんと礼節をわきまえてください」

「一先輩、留年しているのだからもっと勉強してください」

「一先輩、もっとしっかりとした返事をしてください」


 澤田のほうを見るとどうやら同じことを考えていたようだ。

「……えと、もっと他にもいい事があると思いますっ」

「…………たとえばどんなのがあるんだよ」

「それは………」

 しばらくの間考えている澤田を見てため息をつくことにした。俺は年下になんて気苦労をさせているんだ。

「さ、ともかく澤田が受かったんだからめでたいんだ。昼飯奢ってやるぜ」

「いや、そんな………」

「気にするな、お金はあるんだよ」

 前向きに考える前にマイナス方向を一旦、零に戻さないとな。それからでなくてはプラスにはならないし。



――――――



 昼時、しかも日曜日だからおいしいと評判の店はどこも行列が出来ていた………というわけで、とりあえず他に客がとられているファミレスに二人で転がり込んだ。食事をし終えてあたりを見渡すと、さらに増加していたりする。

「しっかし、やっぱり昼時だから人が多いな」

「そうですね、どこもカップルばかりのようです」

 何かに気がついたのか、澤田は頬を染めたのだが何の事かさっぱりだった。

「けどまぁ、確かに俺たち二人だけ浮いてるよな」

「え」

「学校の制服だしさ」

 ああ、なるほどとうなずく澤田。他に何があると言うのだろうか。

「そうですよねぇ」

「まぁ、澤田の制服姿は様になってるが野郎の制服姿を見て喜ぶ奴もいないだろ」

「え、でも私は嬉しいですよ」

「ありがとよ、そんなことを言ってくれるのは澤田だけだぜ」

 それがたとえ、お世辞だったとしても嬉しいものである。

「しっかし、飛び級した澤田とは今年……いや、本年度でお別れってわけだ」

「そう、ですね。さびしいです」

 コーヒーのカップをいじって何やら考え込んでいるらしい。

「まぁ、まだ卒業するまでには時間があるだろ………しっかし、こんな中途半端なところから進級して大丈夫なんだろうか」

 夏から受験生ってほぼ不可能じゃないだろうか。

「はい、それは大丈夫だと思います。飛び級するだけの頭がありますし、学校側もいろいろと手伝ってくれるといっていますし」

「そっか………」

 そのいろいろが黒い話じゃないと俺は信じたいぜ。

「じゃ、澤田はどうするのか考えているのか」

「………はぁ」

 なんだかかなり元気のないため息だ。

「………外国の大学に行くんです」

「そりゃすげぇな」

 テレビで聞いたりするぐらいだ。後は新聞でしか見たことがない。

「零一先輩と会えなくなるのは寂しいです」

「そう言ってもらえると嬉しいもんだがな………澤田の夢はどんなのだ」

「夢、ですか」

「ああ、何になりたいとか、何をしたいとか、そういったものだ」

「私は………夢、というにはどうかわかりませんが願望があります」

「へぇ、どんな」

「それは…………」

 躊躇し、顔を真っ赤に染めて目を瞬かせる。

「大丈夫か」

「は、はいっ。大丈夫です………ちょっとだけ時間をくれますか」

「特に急いで何かしないといけないわけじゃないし、澤田が言ってくれるまで待ってるぜ」

「ありがとうございます」



―――――――――



 んで、あれから四時間が経過していたりする。澤田の目はぐるぐる回っていると言っても過言じゃないほどであり、これは完全に混乱している。医者を呼ぶべきかどうか悩んだりしたのだがまぁ、ぶつぶつ言っているところをみるとまだ大丈夫そうだ。泡を吹き始めたら急いで連絡しよう。

「ふぅ」

 何度目か分からないお冷のお代りへと向かう。既にファミレス内にはあまり客がいない状態。そろそろ店員の視線がいたかったりする。追加で何かを選ぼうにもなぁ………。

「………あのっ、零一先輩っ」

「うわっと」

 ぼーっと考え事をしていたおかげで驚き、お冷をこぼしてしまった。全く、これを朱莉に知られたら笑い物である。

「どうした、そんな大きな声出して」

「私の夢、聞いてほしいんですっ」

 顔を真っ赤にしているのには変わりはない………が、その瞳には何か大きな決心をした者の色が浮かんでいる。これはきっと、何かを賭けた『漢』の言葉だ。

「じゃ、もう一度聞くけど澤田の夢って何なんだ」

「さっき、決まったんです」

 一瞬、こけそうになったのだが踏みとどまった。ずっとそれを考えていたのかよ、願望から夢に昇華したって事でいいのだろうか。

「零一先輩は、私の事が好きですかっ」

 まるで噛みつかんばかりの迫力である。実際、俺と澤田の距離はほぼ零に近く、鼻と鼻がこすれそうである。

「あ、ああ」

「友達として、じゃあないですよっ」

「わかってる、人として好きかってことだろ」

「違いますっ」

 澤田の口内、のどちんこ………口蓋垂が一瞬だけ見えたりする。そのあとは怒っている瞳だった。まさに、野獣のごとき変貌よっ。

「女の子として私の事、好きですかっ」

 そんなことを言われて俺は弾丸が頭にめり込んだような気がしてならなかった。

「え、えーっと、まぁ、可愛いしいいじゃないの」

「じゃあ、彼女にしてくださいっ。駄目なら奥さんにしてくださいっ」

「…………いや、じゃあってなんだよ」

 そして、駄目なら奥さんって何なんだ………奥さんが駄目なら彼女、彼女が駄目ならお友達からじゃないのか………。

「駄目なんですか、いいんですか、はっきりしてくださいっ」

「え、ええっとだなぁ………」

 今度は俺が悩む番だった。いや、悩む必要なんてなかったはずなんだけどな。



――――――――



「ぱぱーっ、起きて起きてっ」

「ぐ、ぐはっ………いたたた……こら、寝ている人の腹でくまさん相手に月面水爆ムーンサルトプレスをするんじゃないっ」

 きゃーっ、パパが怒ったーとか叫びながら逃げて行った。くまさんだけ置いて逃げたところをみるとどうも、薄情なところがあるらしいな。

「はぁ、お前も大変だな~」

 先日直してやった右腕の調子を見つつ、くまのぬいぐるみを持ち上げる。

「そういや、今日は日曜日か………」

 久しぶりに仕事も入っていないし、家族サービスでもしてあげようと思ったりする。ま、そんなわけでダイニングへと向かう。

「あなた、おはよう」

「おう、おはよう夏樹………」

 俺は準備されていたコーヒーを飲み、一言。

「うん、苦い」



―――――――――



「そんな日々をすごいしたいんです」

「って、今のは澤田の脳内かよっ」

 そういうとぷくっと膨れたりする。ああ、可愛い。

「澤田じゃなくて、夏樹って読んでください」

「なっちゃん」

「そ、それはそれで嬉しいですけど、ジュースみたいで嫌ですっ」

「すっきりなっちゃん」

 ちなみに、福岡県の地方では『~なっちゃんね(~だけどね)』といったものを使ったりする。

「れ、零一先輩がなっちゃんって呼ぶのなら私にも考えがあります」

「お、言ってみろよ」

 しばしの間あたりをきょろきょろと見渡して深呼吸。

「あ、あなた………」

「それは飛躍過ぎるだろっ」

「え、そうですかねぇ」

「ああ、そうだろ」

 そして気がついた、周りの視線に。

「………夏樹、そろそろ此処を出ようか」

「え、なんでですか」

「まぁ、その、これからデートでもしようかと」

「は、はいっ」

 いろいろな視線が痛いとは言えなかった。まぁ、俺もまだまだ一般人ってところだろう。

「これからが楽しみです」

「そうだな」

 不安がないとは言えないけれど、ただ、まぁ、一つだけ言えることは隣の彼女が幸せそうならそれでいいって事だろう。


どうも、雨月です。さて、楽しめていただけたでしょうか。いや、まぁ、楽しめるか楽しめないかは置いておくとしてケータイに送られてくる出会い系からの見知らぬメールが怖い怖い。いまだに女性がメールをしてくるのではなく全部男性からのメール。お前ら、何を期待してメールしてるんだよっ。そう叫びたくて仕方がない。雨月にそっちの気はありません。しっかりくっきり女性に興味のあるお年頃ですよ………姉には幻滅しちゃってますが。姉に幻滅しちゃっている雨月ですが、一時期は完全なるシスコン野郎でした。どこに行くでも姉といっしょで、姉に彼氏ができたらいらだちましたし、膝枕だってしてもらっていたりします。まぁ、それもこれも事情があったんですけどね。今ではそんなこともなくてあんなだらしのない女性が彼女だったら夜逃げしちゃってるぜといった感じです。さ、ぐだぐだ書きましたがこれからあとがきを始めたいと思います。もう今回でエンディングを書くのはやめようやめようと思っていたのですが澤田夏樹がいたなぁと、書いていてさらに野々村竜斗もいたなぁと、おもっているわけです。そしてそして、02に風花もいるわけで………こりゃ先が続きそうでうれしいな、あははは………そんな感じですねぇ。02はもういいでしょう。つまり、残りは竜斗と風花。風花もちょっとおいておくとして、残りは竜斗だけってことで。え、誰か忘れているって………ああ、満のエンディングですね。満と零一のエンディング………考えておきましょう。

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