Ex-4:雨乃零一、ニア・D・ロード◆
Ex-4
夏休み、暇な一日をつぶすという何ともやる気のない理由で俺はニアの家にやってきていた。理由は簡単だ、爺さんが実は新たな地下室を作っていたというニアの報告を受けたからである。
「どんな感じになってるんだろうな」
わくわくとドキドキが一気に押し寄せてきて危険な毒がありつつもフグに手を出す人の気持ちがわからなくもなかった。つまり、地下室にも何らかのトラップがあると薄々感じつつ引っかかってしまうのだ。きっと、俺は住宅愛に目覚めてしまったに違いない。
「いずれはいい家ですねぇ、とか言っちまいそうだ」
そんなことを言いつつ、チャイムを押す。
「ん」
しかし、何故だろうか。押した瞬間にしまったとか思ってしまった。タイムマシンがあるのならば、数十分前に戻って自分に延髄蹴りをくらわせたい、そんな気持ちになる。
「よく来たな、零一」
「ああ、呼ばれたからな………」
気のせいだろうと思うことにして問題の地下室の事を早速聞くことにした。
「んで、どこにその入口があるんだ」
中に案内されて、お茶まで出された。というか、お茶菓子まで既に準備されている。いつもだったら台所の水道水を手渡されて、喰いかけのお菓子をニアから渡されると言うそんな感じだったりするわけでとうとうこの子もおもてなしを学んだのだろうと結論付けた。
「しーっ、じーじには秘密にしているんだ。どうも、ニアにも秘密にしているところを見るとよほど危険ってことだ」
「…………」
爺さんがよほど危険って、一般人の俺から見たら重症レベル………なんて、優しいもんだろうな。小さいころ、骨を折ったことがあったのだがあれで重症だったんだがな。
「落し物に気を付けたほうがいいぞ、零一」
「ああ」
「命とか、拾えないから、拾えるのは骨ぐらいだ」
何だろう、冗談だろうと言いきれない自分が最近、裏側の人間になりつつあるんじゃないだろうかって不安になってきた。
―――――――――
ニアの家に地下通路、地下室が存在する理由………それは爺さんの趣味と孫のためを思って完成された訓練施設と考えていいだろう。初期段階では図書館、体育館などを自宅でも作るはずだったそうだ。場所をとるという理由と、既に道場があったので図書館は地下室へ、体育館は道場を使用すると言う事でこれらの案は消えて、後は爺さんの手によって姿を変えながらも様々な施設が建造されていき、地下研究所、ゲームに出てくるような地下迷宮へとその姿を変えていったのである。もちろん、素人が此処に潜るときは地図は必須であったり、間違って踏むと股間を殴打する罠や、顔面にパイをぶつけられるという屈辱的な仕掛け、そして一度三階まで降りた後に別の階段を使用して一階まで登った後に再び三階に下りて階段を探さなくてはいけないなどと言う面倒な使用になっていたりもするわけだ。これら、地下室は今ではつぶれてしまったために存在していない………らしい。実際、今までは言っていた場所の扉からは侵入不可能の状態である。
「今回は此処から下に向かうからな」
爺さんの部屋、タンスの一番下を開けてニアがそんなことを言う。まさか、此処が地下につながる新たな扉とはな………。
「…………ああ」
さまざまな装備を身体中に装着している俺とニア。お互いの体を一本のロープが結んでいる。
「運命の赤い糸だ。暗闇でこれを手繰り寄せて互いがいなかったら………」
ニアは恐ろしい顔で俺を見る。うん、俺、ニアがいなくなったら本当に危ないかもしれないな。
「やめるなら今のうちだぞ。ちなみに、零一には嫌でもついてきてもらうから」
「じゃ、選択肢ないだろっ」
「いや、ちゃんとあるぞ」
→ついて行く。
ついて行く。
「両方一緒なのな」
二つある選択肢と言いながらもどちらを選んでも結果は同じ、と言うか、両方一緒である。
「ちなみに、上のほうの選択肢を選ぶと零一が前、ニアが後ろっていうパーティーが完成する」
「じゃ、下の選択肢選ぶぜ」
これならニアが先って事だろう。俺よりニアのほうが反射神経とか、探知能力すぐれてそうだし危険が前から迫ってきても大丈夫だろう。
意外と大きなタンスの中に身体を入れ込み、地下通路へと降り立った。辺りは真っ暗で何がいるか分かったものではないし、夏だと言うのにそこは涼しかった。そして、何やらちょっとした匂いがする。
「ニア、なんだか変なにおいが………」
――――――――
「ん……」
目を覚ました場所はニアの部屋、布団の上だった。古臭い感じはいつものことで、隣では同じようにニアが眠っている。
「あいたた………」
何が起こったのか詳しく思い出せないし、何をしていたのかも全然頭に浮かんでくることはない。
「若造、起きたのか」
「爺さん………俺とニアは一体なんで一緒に寝てるんだ」
「若気の至りじゃろ」
「は」
「庭で倒れているのをわしが見つけて此処まで運んできたんじゃよ」
本当だろうか、いや、怪しいな。疑り深い性格をしているわけではなくて、爺さんと言う人間が怪しいものである。
「う、ん………大体なんでニアの家にやってきたんだっけ………」
「そりゃニアに聞けばわかるじゃろ」
隣で眠っているニアを見てもさっぱりわからないので起こすことにした。
「ちょっとニア、起きてく……れ」
気がつけば、俺の鼻っ面にニアの拳が飛んできているところだった。それを爺さんが押さえている。
「わしがおらんかったら若造、今頃鼻が陥没していただろうな」
「…」
何だろうか、これは起こすよりも起きるのを待っていたほうがいいに違いない。人、一人を起こすのに鼻の陥没と言うリスクを背負うのは非常に馬鹿らしいと俺は思うのだ。もちろん、陥没したって起こして見せると言うひねくれものもこの世の中のどこかにはいることだろう。
「爺さん、とりあえず今日は帰るわ」
「お、そうか。ニアが起きるのを待たんでもいいのか」
「起きそうにないから仕方ないし………また今度遊びに来るって起きたら伝えてほしい」
「そうじゃな」
爺さんは笑ってそういう。相変わらず、どこにでもいそうな感じだがその実、それだけじゃないんだから怖いもんだな。隙を見せたらつるされそうだ。
「最後に若造に言っておかなくてはならないことがあった」
「なんだよ」
「好奇心ほど危ないものはないじゃろうな。知りたがりは危険じゃぞ~」
「………」
頭に何かがちらついたのだがそれが形を形成することはなく、霞となって消えてしまった。
「ともかく、また来るといい」
「そうするぜ」
忘れても別にどうでもいい事だから、思い出せないのだろうか。もしかして、知られてはいけないことだったから記憶を消されたとか………
「なんてな」
そんなこと、あるわけないか。
夕焼けに染まる夕日を眺めつつ、俺はぼーっとする頭でアパートまで帰った。
九月ですね。もう、気が付いたら二十日近くですよ。ええ、何が言いたいかってお月見が近いって奴です………。次回作を考えつつも、この小説をだらだらと続ける現象が続いているのは………だらだらってことよりもきれいにまとめようとして逆に汚くなってしまっている今日この頃。前作に比べてヒロイン数が減ってはいますが扱いづらいのでニア編もグダグダに………。いつもと変わらぬ日常でフィニッシュという笑うしかない終わり方ですよ。というわけで、そろそろ本気を出して(ろうそくは消える前がよく燃えるそうです)書いていこうかな、そう思ってます。