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Ex-3:雨乃零一、湯野花朱莉◆

Ex-3

 まだかなり新しい墓石。その墓石の前に一人の女子高生が腰をおろしていた。上から下まで真っ黒の服装、喪服である。

「………人は、いなくなってから大切な者を失ったって思うらしいんですけど、あたしは最初から貴方の事が大切だって気付いていたんです」

 眼鏡で長髪の女子高生。そして、彼女の前に静かにたたずんでいる墓石には『東家之墓』と書かれている。遠くのほうで蝉が鳴き続けている。

「好きとか、嫌いとかは置いといて、大切でした。告白されて、なんだか舞い上がっちゃってあの時、きちんと返事をしておくべきでした。あたしも貴方の事が好きだったんだと思います。でなきゃ、毎日夢に出てきませんし、道を歩いていても、勉強をしていても仕事をしていても貴方の事がちらちらと脳裏をよぎるなんてありえないんです」

 そっと彼女は持参した花を置いて静かに手を合わせた。近くには役目を終えた蝉がありに運ばれている。

「本当は、生きているうちに言いたかったんです。でも、まさか………いなくなるなんて思いもしなかった。延び延びにしてきたあたしに罰が当たったんでしょうね。許してくれとはいいません。だけど、いつかそっちにあたしも行くから、それまで待っていてくださいね。ごめんなさい、今も自分が何を言っているのかさっぱり、わかってないんです。いなくなって、いつもこんな………でも、見ててください。あたしはちゃんと歩けます」

 少女は立ち上がり、墓石に対して背を向ける。その様子を見ていた人物たちは静かに見届け、一人の女性が口を開くのだった。



「はい、カーット。みんなお疲れっ。今日はこれで終わりねっ」



―――――――――



「お疲れ、朱莉」

 俺はタオルを手渡す。夏の暑さ、朱莉でも汗をかくんだな。

 高校三年目の夏休み。受験生たちは一生懸命自宅や図書館、学校などで勉強をしていることだろう。佳奈や笹川、満に、竜斗などは大学へ向かうために一生懸命勉強していることだろう。ああ、それと、澤田も飛び級テストに受かっちまったから俺より先に受験生になっちまった。

 まぁ、そんなわけで受験とは関係ない、就職組である朱莉は演劇部からの要請を受けて自作映画に出演しているというわけだ。ついでに、俺も出ていたりする………ほんのちょっとだけ。

「しかしまぁ、物語冒頭で零一君の役目はあっさりと終わっちゃいましたねぇ」

「そうだな、まさか落ちてきたヤシの実にあたって死んじゃうなんて………本当、人生何が起こるかわからんな」

 南国のヤシの木の下で起こった事件ならば目を瞑ろう。しかーしっ、この事件が起こったのは都会のど真ん中、南国から持って帰ってきたヤシの実をうっかりマンション住人が落下させ、坂道を急激な速度で下っていた俺役の(名前は東零一)頭にぶつけると言う、ものすごく珍しい死に方をしたのである。

 忙しく動く演劇部の連中を見ながら俺はため息をつく。

「どうせ、東家の息子に頼めばお金が降りるとでも考えたんだろうな」

「そうでしょうね、実際にすごいお金が降りてますからね」

 実際に、俺役が死んだ後の墓は新たに作られたものである。しかも、撮影機材に、セットなども全て東家のものだ。

「金持ちってすごいですね」

「そうだな、俺もびっくりだ」

 これらは全て、俺の妹と兄貴が準備してきたものである。無駄に協力姿勢だからそれはそれで困るものだな。

「あ、ちょっとお二人さんいいかな~」

 演劇部OGの元部長さんが俺らのもとへとやってくる。どうやら、笹川の兄である真先輩のお知り合いのようで直々に真先輩が俺のところまでやってきてお願いしていった。

「なんですか」

「さっきのシーン、なかなか良かったって褒めに来た事と、雨乃君がラスト、回想シーンで告白するところは今日中にとっちゃうから」

「え、それは雨の日に撮るって言っていませんでしたか」

「そうだけどねぇ、ま、いまの君たち見てたら早く撮っておいたほうがいいかなって思ってね。すぐ撮るから、移動しようか」

 終りだと言っていたくせして、監督自らカメラを握るとはな………OGなのに、張り切りすぎである。



――――――――



「はい、じゃあいってみようっ」

 台本通り、と言うか………相当、覚えるのに苦労した。

「俺は東家の息子だ。許嫁とか、居候先の娘とか、血のつながらない妹、暴力的な本の虫、謎のクノイチ、見た目男の女の子に飛び級の後輩、正義少女、マッハ2で空を飛ぶ機械の少女とか………いろいろなやつが俺の事を好きになってくれた。だけどな、俺はお前の事が一番気になった。会ったときから、ずっと」

 まじめにやらねば、俺の恥ずかしい写真が大量に散布されるらしい。聞いた話によるとネットでも流すとか、流さないとか。どの程度の恥ずかしい写真なのかは分からないのだが、まじめにやることでそれらが回避されるのならばそちらを選ぶだろう。

「だから、朱莉。お前がよければ………俺の彼女になってほしいんだ」

「は、はい………」

 顔を真っ赤に染めつつ、俺の両手を握ってくれた。その手は温もりにあふれており、顔が急激に火照っているのを感じる。

「はい、カーット。湯野花さんセリフ間違えてるわよ~」

 カメラを止めて、メガホンから声が出てくる。すごく、近い距離で撮っているのだから必要ないと言いたかったが、刃向かったらどうなるか………想像するだけで恐ろしい。

「え、あ、すいませんっ」

 あわてて俺の両手を離す。ちょっとだけ、惜しいかと思いつつも相棒に話しかける。

「どうした、さっきの演技で疲れてるのか。疲れてるのならやっぱり……」

「大丈夫……なんですけどね。ちょっとまぁ、いろいろとあるんですよ」

 ちょっと休憩してきます、それだけ残して朱莉はすぐに教室を後にした。残っているのは俺と演劇部の元部長さんだけだ。

「ん~もういっそのこと変えちゃうか」

「え」

「私は変化が好きな人間なのよ。それに、うまくいきそうにないし………」

 何かを理解したのか、俺の顔をまじまじと眺めてぽんと手を叩いた。

「よし、じゃあ告白したのちに湯野花さんに抱きついてもらうわ」

「は、えっと………それはさすがにどうかと」

「貴方達は役者よ」

 断固として違うと言っておこう。不審者と言われることのほうが多いに違いない。しかし、文句を言えるような雰囲気ではなかった。

「じゃあ朱莉に言っておきます」

「言う必要はないわ。言った後、いきなり抱きついていい」

 犯罪宣言である。実行したら捕まるとかあり得そうで怖い。

「本気で言ってるんですか」

「私はいつでも本気よ」

「すいません、戻ってきました」

「はい、じゃあ次、行ってみようか」

「…………」

 悩める少年なんてどこにでも転がっており、今日この時間、俺もまたその人物の一人となってしまった。再び、かなり異質と言える男のハーレムセリフを口にした最後、朱莉の返事を待たずに抱きついた。



 もう、本当、初めての牢屋体験を覚悟していた。



「好きなんだ、朱莉」

「…………零一君」

 そっと、俺の背中にも手が伸ばされる。

「ちょっと、強く抱きしめすぎですよ」

「え、ああ悪い………」

「いいんです。ありがとうございます………これからも、ずっとずっとこんな関係が続いてくれればいいんですけどね」

 これから先、セリフなど俺には存在しない。なぜなら、これはあくまで回想シーンと言う扱いだからだ。完全なアドリブ、どうなっちまうか想像もできない。

「………そうだな」

「零一君と出会った時と、今のあたしは違うかもしれません」

「そうかな、俺はそうは思えないけどな」

「……零一君」

 俺を見上げるような感じの朱莉は目を瞑っていた。それが、どういうことか一瞬で理解できた俺はもしかして満よりの人間になりつつあるのだろうか。

「………」

 どうするべきか悩む。なぜなら、カメラが回っているし、他の人間がいる………いやいや、大体俺と朱莉はそう言った関係ではないし………

「……」

 朱莉に迷いはないらしい。迷っているのは俺だけ………俺は、一体どうすれば………。



―――――――



「演劇部の映画、すごかったな」

「ああ、かなり自然だったし」

「でもあれって上映していいのかな、マジでキスしてただろ。俺らの高校って意外と堅いから駄目かと思ってたんだけど」

「よくねぇからあんなにひっそりと上映してたんだろうなぁ………客がいっぱいで俺らは立ち見だったけどな」

 そんな声が屋上、倉庫上にいる俺の耳に聞こえてくる。聞きたくないなら耳を防げばいいんだが、そうもいかない。

「零一君、映画見に行きませんか」

「内容知ってるのに見に行ってどうするんだよ」

「………もう一度確認するとか、どうですか」

 にへらと笑う朱莉に付き合ってられんと言うため息をついたつもりなのだが通じていないらしい。

「お二人さん、いちゃいちゃしてないで降りてきてくれないかな」

「いちゃいちゃなんてしてませんよ、で、なんですか」

 下の演劇部元部長さんを見ると裏返しの写真を差し出していた。

「はい、これが手伝ってくれたお礼ね」

「ははは、そりゃどうも」

 一枚の写真を表にしようとしたところで待ったをかけられる。

「とりあえず、私がいなくなってから見てね」

「はぁ、わかりました」

 じゃあねと言って姿を消した元部長さん。

「見てみますか」

「ああ」

 表にした写真を見て俺は固まった。

「な………」

「映画のワンシーン、最高に盛り上がった場面ですね」

「………」

 ちょっとだけ頬を染めている朱莉を見つつも、この危険物をどうするべきかと急いで脳内がフル回転。

「最高の報酬ですよね」

「……………違うと言えない自分が悲しいな」

「それでいいんですよ。あの時はいきなり抱きついてきて……」

「ええい、俺が自発的にやったんじゃないんだっ」

 そう騒いでいるところに屋上の扉が勢いよく開け放たれた。そこにいたのは満だったりする。真っ白に燃え尽きているところをみるといろいろと気苦労を重ねたらしい。

「君たち二人が………付き合っていただなんてっ……それは置いておくとして、校長先生が二人を呼んでるけど」

「………」

「そうですね、報告してませんでした。二人仲良く、手をつないでいきましょう」

 俺は思う。これから先、どんな困難も二人で乗り越えられると自信を持って言える人たちはすごい。

「なぁ、助けてって言ったら俺を助けてくれるか」

「任せてください、助けますっ」

 俺は思う。俺の相棒はガンバリ屋さんなのだがおっちょこちょいの所があると………校長先生からどんなことを言われるか、恐怖しつつも相棒が助けてくれると信じて向かうことにした。



 もちろん、手をつないで。


手ごたえというものを感じることがないのは仕方がないんです。たまに、間違えて修正前のものを投稿してしまったりします。今回、間違えていないかもすごーく、不安です。まぁ、それは置いておきましょう。今回でええと、三回目ってところですかね。いたって普通の終わり方でたまにはいいんじゃないかと思ったわけです。さて、それなら次回は誰を引っ張ってこようか、そう考えてます。キリノスケか、猛か、どっちか………くだらない冗談はこのぐらいにして、あとがきを始めたいと思います。間があいたのは考えていたからってのもありますがゲームが忙しかったんです。最高のいいわけですね、会社や学校で使えば怒鳴られること間違いなしのNGワードです。まぁ、ゲーム関係の仕事はそれらが仕事だったりするわけですが………。次回はニア………いや、もう、終わりでもいいかなと思いつつも、感想百回の企画を考えていたり、いなかったりと忙しいのか、忙しくないのかよくわからない状態です。それでは、また次回があったらお会いしましょう。

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