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Exー2:雨乃零一、笹川栞◆

Ex-2

 高校生三度目の夏がやってくる………なんだか、甲子園に使われそうなキャッチフレーズっぽいのだが、実際は留年してしまった人間の自嘲した言葉だったりする。

「雨乃、こっちよ」

「ああ」

 駅前、手を振る友人に手をあげて反応する。今日は日曜日、約束していた人物と共に俺は本を探す旅に出かけるのだ。

「笹川は元気だな」

「そうね、楽しみにしてたから」

 いたってハイテンションと言うわけでもないのだが、楽しみにしていたというのは違いないらしい。

「雨乃は元気ないね」

「そうだなぁ、今年で高校三年目の夏なんだなぁって思うとちょっと楽しい気分にはなれないだろうさ」

 二年生なのにな、三年目の夏って本当、悲しいものだ。

「今度のテストでいい点取れば大丈夫なんでしょ」

「そうだな、その通りだ」

 ちなみに、合計で十点減点された時点でアウトである。ん~実にハードルの高いものだが、進級テストなのだからそのぐらいの難しさがあって当然なのかもしれないな。

「じゃ、そろそろ行こうか」

「ああ」

 これがまぁ、彼女でもいたら憂鬱な高校生活もちょっとぐらいは楽しいものに変っていたのかもしれないな。って、考えが甘いかな。



――――――――



 日曜日と言うことも関係しているのか、電車内は混雑と言うよりも、すし詰め状態。必然的に隣接している人物たちとはひっつくことになる。幸か不幸か、俺の隣にはスタイルのいいねーちゃんがいたりするわけだ。

「………」

 ついつい、にやけてしまいつつ、外の景色を楽しもうと思ったところで恐ろしいものを目でとらえてしまった。

「さ、笹川、目が怖いぞ」

 見なければよかった、知らなければよかったって事はいろいろとあるのだがこれもその一つだったりする。そして、隣の駅について俺は吐きだされるようにして笹川と共にホームに降り立ったのだが………腹部に強烈な一撃をくらった気がした。通り魔……だろうか。

「いたたた……で、まずはどの本屋から回るんだ」

「そうね、そこの駅前の古書店から」

 指差す先には古本屋があった。いつつぶれてもいいような店だが、意外と客が多いところをみるとなかなかつぶれそうになかった。

 早速、二人で店の中に入るといやらしい表情を浮かべたまるで妖怪のようなばあさんが一人いた。

「いらっしゃい」

 地獄から響き渡るような声で、小さなお子さんが此処に一人でやってくる事は絶対に不可能であろう。

「おや、笹川のところのお譲ちゃんじゃないか」

「おばあさん、お久しぶりです」

「ん、あれ、知り合いか」

 口を出すと噛みつかれそうな雰囲気があったのだが、知りたいことは知っておいたほうがいいという性格のため、仕方がない。

「ええ、そうよ」

「お譲ちゃん、こっちの僕ちゃんは彼氏かい」

「僕ちゃんって俺のことかよ」

「か、彼氏じゃないわよ。親友………かな」

 何だろうか、ものすごく悩ましい表情をしながら俺を見てきている。

「ふぅむ、そうかい。まぁ、ゆっくりしていきなよ」

 それだけ言うと手元に置いてあったらしい本を読み始めた。タイトルは『駄目な彼氏』というものだった。

「さ、雨乃行くわよ」

「はいはい」

 俺の親友である笹川は、本の森へと突入を開始するのであった。もちろん、ついてきたからにはしっかりとお供しなければいけない。正直、俺が来なくてもいいような気がしたのだが一人で来るのと、二人で来るのはちょっとばかり違うらしい。

「雨乃、この本とかすごくないかしら」

「そうだな、古いなぁ」

「これとかも、厚いし」

「『誰でも出来る、魔術の書』って胡散臭いだろ」

「あ、あんなところに絶版がっ」

 まぁ、そんな感じで人の変わったような笹川に振り回されつつ、時間を過ごす。俺は笹川の荷物持ちになりつつも、何か読みたい本がないか探してみたりした。

「………潜入の手ほどきか………」

 誰が書いたのだろう。著者を確認すると『ダニエル・D・ロード』と書かれている。

「読むより本人に聞いたほうがよさそうだ」

 どうせ、中身も適当に違いない。『相手に気付かれなければ、潜入は簡単であるっ』とかそんな感じの内容なんじゃあないのかなぁ。

「雨乃、次のお店に行くわよ」

「おう」

 俺はその本を元の場所………ではなく、別の本の奥底にしまいこんでやった。これを間違って買ってしまった場合、被害者が発生するかもしれないからだ。



――――――



 本屋さんを数軒はしごするその行為。おかげで俺の両手には本がたくさん入った紙袋を抱えているという近年まれにみる状況である。ちなみに、笹川は背中のリュックサックにぎっしりと本を詰め込んでおり、その量は俺が持っている量より多かったりする。つまり、俺がこのくらいの量で根をあげた場合は『じゃあ、変わってあげる』という笹川のありがたーいご厚意で俺の背中にリュックが装着されるというわけだ。

「ちょっと休憩するわ」

「賛成するぜ」

 ちなみに、笹川が両手を開けているのは地図を核にするためであり、今もそうやってしっかりと見ていた。どうやら、近くに公園があるようでそこへと向かうようだ。まぁ、なんにせよ休憩させてくれるのは嬉しい事だがね。

 子供たちが遊んでいる広場から少し離れた遊歩道。そこのベンチに腰掛けて息を思い切り吸う。

「ふぃー」

「重いなら変わってあげようか」

「いいやぁ、別に重いってわけじゃないぜ」

 全く、笹川が優しすぎて困っちまうぜ。まるで人間でも入っているかのようなリュックは人、一人分の面積を有しており、三人掛けのベンチは俺と笹川、リュックで占められている。

「しっかし、笹川は本当に本が好きだよなぁ」

「うん、本は私に対して優しいから」

 まるで遠い目をしたかのように笹川は続ける。

「友達がなかなか出来なかったときはよく本を読んでいたし、何より、嫌なことを忘れたりできるから…………あ、今は雨乃と一緒に遊んだりするの楽しいって思ってる」

「そっか、まぁ、本はあくまで本だからなぁ。あんまり本ばっかり読んでると毒だぜ」

「うん、だから本当にこうやって本を買いに来たのは久しぶりだから」

 つい、たくさん買いすぎちゃった、そう笹川は語った。

「高校に入っても友達なんて出来ないんだろうな、それなら出来なくていいって思っていたけどまさか、雨乃みたいな友達が出来るなんて思いもしなかった」

「それって褒めてるのか」

「一応………ね」

 なんだか微妙である。喜んでいいのか、喜んじゃいけないのか………。

「ちょっと冷たいもんでも買ってくる。笹川、何がいい」

「何でも、雨乃の好きな奴でいいよ」

 他の誰かにとられないように、本をしっかりとベンチの上に置いてから自販機へと向かう。

「戻ってきたら笹川がナンパにあっていたりしてなぁ」

 見た目は可愛い女の子だからな。中身は本の虫でありながらも人を襲うと言う超狂暴な闘う女子高生だ。

 オレンジジュースと謎の物体超絶X(この周辺にある中身不明の清涼飲料水)を手に持って笹川のいるところへ戻る。すると、数人の男に笹川が取り囲まれていた。

「あいつらは………」

 南波大、まぁ、読み方はなんぱまさるだがな。ともかく、俺と笹川の通っている高校にいた番長、笹川に負けた後にその部下となってしまった連中である。

「おお、雨乃かぁっ」

「あ、ああ………あんたらこんなところで何してるんだよ」

「偶然栞にあったんじゃい。そして、これから羽津市まで特訓じゃあっ」

「おおーっ」

「落としたりしたら許さないわよ」

「了解じゃーっ」

 リュックサックと手提げを持って、一昔前の不良たちは走り去ってしまった。

「笹川、南波にあったんだな」

「ええ、そうね」

「しっかし、笹川の友人は変な奴ばっかりだな」

「雨乃に言われたくないわね」

 そうだな、笹川が入っているからな。

「ま、ともかく買ってきたからほれ………ごめん、こっちだったわ」

 間違って笹川に渡してしまったオレンジジュース。それを取り返そうとしたのだが、俺の手をするりと避ける。

「く、なかなかやるじゃねぇか。俺も本気出しちゃうぜ」

 その後、一生懸命オレンジジュースを奪い返そうと努力したのだが、甘かった。笹川は何気ない動きで俺の手から逃げ延びたのである。

「雨乃はその謎の物体超絶X飲みたいんでしょ」

「いやいや、俺はお前に飲んでほしいね」

 両者、一歩も譲らないにらみ合いの後に笹川がため息をついた。

「それなら、半分にしようか」

「半分………まぁ、それで手を打つか」

 プシュッと音を立ててオレンジジュースを笹川は開けて飲み始めた。そして、微調整しつつ、それを俺に渡す。

「ほら、早く半分飲んでよ」

「わ、わかった」

 一体、今回はどんな味がするんだろう。ロシアンルーレット的なものだからな。一部では、無駄な資源だと言われているし………

「ええいっ、ままよっ」

 一気にプルタブを引いて飲んでみる。

「う………ぷはっ」

「どう、味のほうは」

「ウン、トッテモ素晴ラシイ味ダナ」

「そう、それはよかったわ」

 はい、これと、缶を渡されて俺は笹川に謎の物体超絶Xを渡す。急いでオレンジジュースに口を付け、飲み干した。

「笹川、味のほうはどうだ………って、捨ててやがるっ」

「捨ててないわよ、お花に水をやってるの」

 気のせいだろうか………名もなき花は元気なくしおれていっているような気がしてならない。

「で、オレンジジュースはどうだった」

「おいしかった」

「そう、それはよかった」

 ほほ笑む笹川にあ、間接キスだと思いつつ、言わないでおくことにした。言ったら殴られそうだったし。



――――――――



 帰りの電車は結構空きがあって、人が少ないおかげで十分座れた。

「すー、すー」

 疲れたのだろうか、笹川は俺の方に頭を載せて寝息をたてて眠っている。実に幸せそうな顔だが、周りのほほえましい視線が痛いのよ。

「………はぁ」

 まぁ、おっさんが肩に頭を置いているわけじゃないんだからよしとしよう。


延長戦第二回目、ですね。さて、一体次回はどこのだれが登場するのか………考えないといけないですね。そういえば、最近よくポロリを見かけます。プラモの部品がよくポロリでですね、間違って掃除機ですっちまったこともあります。もう、一つのパーツがなくなるだけで憂鬱ですよ。それでは、次回また会えたらお会いしましょう。

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