Ex―01:雨乃零一、佳奈◆
Ex―01
雨乃零一となった俺は、そろそろ夏と言う季節に若干のだるさを感じていたりした。アパートの契約も解約し、俺の家である雨乃家にいるというわけだ。
「零一、この前の妹さんの話………結局どうなったの」
「ん、ああ~………そうねぇ~、まぁ、仲良くなれたんじゃあないの~」
「何よ、もうちょっと詳しく話してくれてもいいんじゃないの」
そして、当然佳奈とも家族と言うことになった。何だろうな、俺がこの家に戻ってきたとき、見た事のない笑顔を見せてくれた。しっかりと写真に残しているのを佳奈に知られてしまったら末代までの恥である。
「佳奈が聞いてどうするんだよ」
「だって、零一の事が心配なんだもん。またさ、突然別れて暮したら………私、嫌だから」
「………」
まぁ、ね、一緒に生活しているんだからどっちかが折れなきゃいけないってことはわかってるんだ。この場合、折れなきゃいけないのは俺のほう。俺が折れなきゃ、佳奈が………折れることはない。
『何よぅっ、心配してあげてるって言うのにその態度はっ。もう知らないんだから、つーんっ』
きっと、このような結果になって後々俺がさらに面倒なことに巻き込まれることは必須っ。つまり、さっさと折れちまったほうが賢い方法なのだ。
「何よ、その仕方がない、俺が折れてやるかって顔は」
「はぁ、何言ってるんだよ。ちゃんと説明したほうがいいだろうって考えている顔だよ」
「………本当、なのよね」
「俺が嘘ついたことあるか」
「…………ある」
あらら、これじゃ駄目だわな。まぁ、今は嘘がどうのこうのと言う話ではない。
「まっ、ちゃんと話は付けてきた。別に、お互いが損をするような取引なんてしてきちゃいないさ。俺は俺のやり方、麻妃は自分のやり方………お互いの利害が一致したって捉えてくれていていい」
「安心して、いいのかな………」
「ああ、多分な」
そう告げると非常に不服そうな顔をした。
「どっちなのよ」
「時は移ろい変わるもの、未来は誰にもわからない~ってね」
本当、それだけは事実なのだ。
「だからさ、佳奈もそんなに不安がるなって。毎度毎度、杞憂に終わってるだろ」
「う、確かにそれはそうだけど………」
「俺も佳奈の事がいろいろと心配だからな」
「え、う、嘘」
「こりゃ本当だ………っと、メールか」
ケータイを取り出して操作。どうも朱莉からのメールのようで今度の日曜日、新しく出来た遊園地を調査しに行きたいらしい。しかも、経費はA.S.Tから落とすらしいのだ。
「れ、零一っ。朱莉のメール、返信しておいて」
「は、まぁ、そりゃあ返信はするけどな」
「それ、私と零一で行くって送ってよっ」
送らないんなら私が送るんだからとやたらと積極的である。
「ははぁ、さては佳奈、お前………」
「な、何よ………」
「この遊園地に行きたいってか。ははぁ、まだまだお子様だな」
からかってみたのだが、佳奈はしばらく変な顔をした。変な………とは、何だろうな。ちゃんと言葉で言い表すのなら『………こいつは何もわかってないな』そんな感じのものだろうか。
「ともかく、今度の日曜日は私が予約だからね」
「何をだ」
「あんたをよっ」
人差し指を俺の鼻っ面に押し付けてそう宣言。俺はその人差し指に小指を巻き付けた。
「わかった、じゃあ、指切りだな」
「え、じゃ、じゃあ………」
人差し指を離そうとしたのだが、それを許さずそのまま強行。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたらハリセンボンのーますっ。指切った………そういうわけで、恥ずかしい格好で行くなよ」
「………」
ぽけーっと自分の人差し指を見つめている。まぁ、ね。確かに指切りなんてめったにというか、全くしないものだけどよ。そこまで驚く必要もないんじゃないだろうか。
「おーい、佳奈」
「え、何よ」
「当日は待ち合わせだな。門前で待ってるから。わかったな」
「う、うんっ」
人差し指を大切そうに握った佳奈を見て、俺はここの家族になれたことを心の底からよかったと思う日が近く来るかもしれない、そんな気がしてならなかった。
さて、皆様。もどってまいりました。少々、数日立てこんでいたのと色々とネタを考えていたので時間がかかったのもあります。まぁ、建前ですけどね。そんなわけで一発目。佳奈との話ですね。続くってわけじゃないです。そして、いったんこれで終わろうかなというのも頭の片隅に置いていたりします。次回、百件目の感想を記念しての予定です。