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第二百五十一話◆:家族

第二百五十一話

 久しぶりと言うわけでもない、佳奈の家。俺が一時期住んでいた、一戸建ての家だ。別段、豪華と言うわけでもなく、かといって目印になるほどのぼろい建物でもない。平平凡凡、十人中九人はそういうかもしれない。そのうちの一人である俺は愛着があるというだろう。

 家の中にいるはずの佳奈の顔が頭に浮かぶ。



『零一が決めることだから』



 一週間後に改めて決めなきゃいけなくなったと佳奈に告げた時、そう言われた。てっきり、怒られるものばかりと思っていたし、以前の佳奈だったら怒っていたに違いない。

「………成長してるんだな」

 感情を抑えることを学んだのだろう。唇を一生懸命かみしめてそう言ってくれた佳奈のあの表情を俺は忘れることができなかったりする。似合わないことをしてストレスをため込んでいないかものすごく不安な自分に気がついて、佳奈の家族なんだなぁとため息をついた。

 緊張する必要なんてないのに、さっき電話で用件を伝えたのに、チャイムを押そうとしている指は震えていた。

「………」

 要らないことを考えないようにして、俺は左手で右手を押した。右手は、チャイムをしっかりと捉える。

 静かに扉が開いて、そこには佳奈がいた。



「れ、零一………」



 顔がくしゃくしゃになった、涙を流した、泣きながら………俺に抱きついてきた佳奈。



「行方不明って、どういうことよーっ」

「いや、それは知らない」



 そんな佳奈をしっかりと抱きしめて、さっさと家の中に入ることにした。何事かと、おばちゃんが寄ってきたからである。



――――――――



「泣きやんだか」

「泣いてないわよ」

 つっけんどんにそう言われることを嬉しく思っている事に驚きつつ、自分で淹れたコーヒーを口にする。苦い。

「写真、あったか」

「………これ、一番お気に入りの写真あげるわ」

「あげなくていいって、借りるだけだ」

「いいの、ネガはあるはずだから」

 大丈夫かよ………さて、どんな写真なんだろうか。

「ん、最近のじゃないんだな」

「ええ、でもいいでしょ」

 写真に写っているのは佳奈だ。小さい、佳奈だ。あ、いや、今も小さいけど、もっと前。それこそ小学生のころか、その前ぐらいだろうか。笑顔の佳奈、隣には頭の悪そうなガキが写っていた。

「誰だ、これ」

「は」

 信じられないという表情を浮かべる佳奈に俺は首をかしげる。

「あったま悪そうだな~」

「え」

 これまた、こいつは何を言っているのだろうかという表情をされた。

「零一、これが誰だかもしかして………わかってない………みたいね」

「もしかして、朱莉か」

「………」

 どうやら、当たったらしい。うん、もしかして朱莉は以前、男の子だったのだろうか。

「朱莉なわけないでしょ」

「じゃあ誰だ」

「それは…………」

 一生懸命俺を見てくる。目で伝えようとしているのだろうか………しかし、あいにくテレパシーなんぞは持っていない。

「あ、竜斗か」

 なるほどなぁ、こんなころから男っぽい服装だったのか。

「零一、真面目に言ってるのかしら」

「俺はいつだって大真面目だぜ」

「はぁ、それはねぇ………」

「それは………誰だよ」

「それは………」

 何度か、佳奈は俺を見た後に口をつぐんだ。

「…………忘れちゃったわ」

「そっか、そりゃ仕方ないな」

「ええ、すごく前の事だもん。忘れて、当然かな」

「なんだか、会いたそうにしてるな」

 佳奈は少しだけおかしな顔をした。

「会いたいかぁ………ううん、その男の子にはもう会わなくていいんだ」

「なんでだよ」

「初めての友達だったんだ、その子」

「へ~」

 残りのコーヒーを一気に飲み干す。うん、苦い。

「あ、誤解するといけないけど遊ぶ友達は他にもいたわよ。その子は一緒にいるだけで楽しかった。何をするでもなく、近くにいるだけで楽しかった相手。親友って言うのかな」

「いいやつだったんだな」

「………まぁ、三日だけ、親友だった。それ以降はずっと会いに行かなかったから」

 しょんぼりとしてそう語る佳奈。元気づけようかと考えたところでぱっと顔をあげられた。

「でもね、今は会わなくたっていいんだよ」

「なんでだ」

「零一って家族が出来たから」

 真正面からそう言われて、俺はどのような顔をしているんだろうな。鏡をついつい探してしまうが、佳奈の目に映るのが精一杯の努力だろうか。

「お、お前よぉ、恥ずかしくないのかよ」

「恥ずかしがって言ったら零一に失礼だもん………さてと」

「どうした」

「零一を見送るのよ。だって、そろそろ行かないとまずいんじゃないの」

「………そうだな」

 もうちょっとだけ、ほんのちょっとだけいたかったのだが、仕方がない。

 佳奈からもらった写真を大切にポケットにしまい、俺は玄関先まで佳奈と歩いた。

「いってらっしゃい、零一」

「おう、行ってきます」

「待ってるからっ」

 佳奈の声を背に、俺は東家へと向かうことにしたのだった。


夏もそろそろ終わりですね………え、すでに終わった………あ、そうですか。さて、佳奈の話です。笑えるところがなかったのが個人的につらいかなと………え、この小説自体が笑えないって………そりゃ言っちゃ駄目ですよぉ。雨月の小説は一人でも笑えば(連載中、一か所でも)成功したほうなのです。ハードルが低いぜっ、そういう方もいるかもしれません。ハードルは高ければ高いほど、叩かれるのは痛ければ痛いほどいいとかいう人ではありませんからね。クライマックスってやつですよ。え、暗いMAXって、いやいや、違いますよ。ネガティブ小説じゃあ、ありませんよ。最後に、気づかれた方もいるかもしれません。そうです、あとがきのネタがないんです。だから今回は無理な引っ張りを………って、ええっ、いつもネタがだめって………そりゃ、しょうがないってことで。最後に、きれいに閉めます…………やっぱり、半開きで。次回、『宇宙人、零一の体に埋め込んだチップを回収しに地球へやってくる』と『地球滅亡五秒前、零一、宇宙へと旅立つ』の二本立てです。なお、内容は変更の可能性がございます。ご了承ください。九月五日日曜、二十三時九分雨月。

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