第二百五十話◆:オマモリ3
第二百五十話
澤田の表情について少しだけ知りたいとは思ったのだが、俺の事情のほうを優先させておくことにした。
「………次は剣だなぁ」
おとなしく家にいるほうが珍しいかもしれないなと思いつつ、念のために携帯電話に連絡をいれてみる。
『はい、なんですか』
「よかった、出てくれたか………なぁ、今、剣は家にいるか」
出来るだけ早く終わらせたかったので出てすぐに写真をもらい、次の竜斗に会いに行きたかったのだが………
『すいません、今ちょっと隣の県にまで行ってます』
「そっか、それなら仕方ないな」
いないのならば、仕方がない。剣がこっちに帰ってくるまで待つわけにもいかないし、そこまで重要な用事というわけでもないし。
『何か、とても大切なようだったのでしょうか』
「いや、そういうわけでもないから、気にするな。じゃあな」
受話器から声が聞こえていたのだが、次に電話するために潔く切った。さっきのままだと、ずっと剣と話していそうで怖いからな。
「さて、じゃあやっぱり次は竜斗だな………ん」
電柱脇に、誰かがいる。
「誰だ」
「あらら、やっぱり零一君にはかなわないか」
姿を現したのは待ち人、野々村竜斗だったりする。
「ところでさぁ、なんでぼくのところにいの一番に来ないのさ。お隣じゃないか」
若干拗ねたような口調でそう言われるが、思いついたのが途中だったので仕方がないじゃないか、そう言いたい。
「でも、ちゃんと覚えてくれていたところを見ると、嬉しいけどね」
「安心しろ、お前の事を忘れようとはなかなか出来ないと思うぜ」
「それ、褒めてるのかな」
「さぁな。竜斗、お守り代わりにお前の写真が欲しいんだが」
そういうと人差し指を立ててうんうんと頷く竜斗。
「他の人とはちょっと違う、スペシャルな写真を用意しているよ」
「………男装写真か」
「それじゃあ芸がないからね。はい、大切にしてくれよ」
大切にって割には放り投げた…それは、懐中時計のようなものだった。
「ふたの裏にはぼくがいるから、さみしくなった時はじっと見るといいよ」
「はは~すごいな、これ」
竜斗の言うとおり、懐中時計の中身は写真と、羅針盤。ほほ笑む竜斗がちょっとだけ、可愛かったりする。
「いつもこんな表情だったらもてるんだろうけどな」
「ふっ、残念ながらもてる必要なんてないよ。ぼくは一人にだけ愛されたいからね」
「はは~いい心がけだな。俺もそういった考えの持ち主だ」
そういうと、疑惑のまなざしが俺のほうへと向けられる。
「へぇ、どうだろうねぇ。零一君が言うと信じられないけどさ」
「む、失礼だな。まぁ、ありがたく借りてくぜ」
「いやいや、一生涯大切に持ってて欲しいんだけど」
「悪いな、今度何かお礼するぜ」
竜斗に手を振り、そういうと奴は笑うのだった。
「そうだね、今度一緒に遊園地にでも行こうか」
「おう、そのぐらいならお安い御用だ」
「………旅費は全部零一君持ちでね」
「………わ、わかった」
「じゃ、頑張ってきなよ」
「ありがとな」
そういって別れようとしたのだが、竜斗は俺の手を掴んでいた。
「なんだ、どうかしたのかよ」
「………あのさ、なんならぼくが……手伝ってもいいんだよ。零一君が東家で面倒なことに巻き込まれてるって言うのなら、ぼくがどうにかしてもいいんだ。君にはそれだけする義理だってある。あの時助けてもらった恩返し、まだぼくは君にしてない」
「………………」
真摯な瞳はその言葉が嘘じゃないと教えてくれている。いつもは飄々としているんだけどな、こういう時に限って真面目になるもんだから対応に困る。
「………俺はな、助けてもらいたくて竜斗を助けたんじゃない。事実、あの頃は自分が東家だって知らなかったし、こんなことに巻き込まれるなんて思いもしなかったからな。それに、俺はお前を助けたおかげでいろいろなことを知ることが出来たし、楽しい思い出もあるからな。これで貸し借りはなしって考えてくれ。あ、さっきの懐中時計の分はちゃんと返してやるからな………だから、竜斗……」
「………そっか、やっぱり零一君は………いい男だよ」
「何を今更」
俺ほどいい男はこの世になかなかいないと思うぜ。
「じゃ、お返し待ってるからね」
「ああ、その時は楽しもうな」
両手をちぎれんほどにふりたくる竜斗に笑顔で返し、俺は佳奈の家へと帰った。最後、竜斗が何やら叫んだようだったが、あいにく車の音で掻き消えて聞きとれなかった。
終わる、終わる、終わると再三にわたって言ってきましたが他にもやらなきゃいけないことがあるので本編終わった後も微妙に続きます。実は、転校しなかった零一の話もあるんですよ。こっちじゃ友達零という悲惨な結果になっていたりしますけどね。さて、今回の話もうまくまとめられたかどうかは不明ですが、終わりに近い感じかなぁと一人で納得しています。次回で佳奈が出てきて、その次で終われる………のだろうかと、非常に悩んでいたりします。連載当初から読み続けている方、感想なんかありましたらよろしくお願いします。九月三日金曜、二十三時雨月。