第二百四十五話◆:加速する道
第二百四十五話
「大体、零一君のどこがよくて友達になったんですか」
朱莉は笹川に対してそんなことを言った。本当、何を考えているのだろうか。
「あのねぇ、なんでそんなことを言わないといけないのよ」
馬鹿らしそうに笹川は朱莉を見ている。全く、昼休みまで何してるんだ。
「あの、一先輩」
「何だ、剣」
「ここ、二年生の教室ですよね」
「そうだな」
「あの、朱莉先輩たちは三年生ですよ」
「それもそうだな」
澤田も不審者を見る目で朱莉、そして笹川を見ている。
「なんで、いるんですか」
「俺が聞きたいぐらいだ。澤田、知ってるか」
「私もわかりませんよ」
何だろう、クラスの男子たちが羨望の目で俺を見ている気がする。ああ、そうか、今更ながら俺の男としての力強さに気がついたのか………まぁ、腕力とかそんなにないほうだけどな。
「大体、なんで笹川栞なんぞがいるのですか。ここ、二年生の教室です。出て行ってください」
おお、とうとう剣が笹川に物申した………。
笹川もてっきり何か言い返すものかと思っていたのだが、いきなり立ち上がり周りを静寂に突き落とした………だって、雰囲気がものすごく怖いんだもん。
「それもそうね、邪魔したわ。行こう、雨乃」
「え」
俺の腕に自分の腕をからめるようにして立ち上がった。
「ちょっと待ってください」
澤田が笹川とは反対の腕を掴んで引っ張る。
「零一先輩はまだ食事中ですよっ。食事中に席を立つのはお行儀が悪いです」
「これだからお譲さまは………雨乃、行くわよ」
呆れたように笹川はつぶやいて、俺の腕をなお強く、引っ張った。
「え、あ、ああ………」
「ちょっと一先輩、後輩を見捨ててどこかに行く気ですかっ」
澤田のほかに今度は剣が俺の腕をしっかりとつかむ。笹川のほうへと引きずられていた俺の体は再び動きを停止して定位置へと戻った。
「え………、あ、ああ~、そ、それもそうか」
「雨乃、行くって言ってるでしょっ」
は、八方ふさがりだ………もはや、窓から外へと逃げるしか方法がないのかもしれない。
「まぁまぁ、争いはそこまでにしてとりあえずお弁当を食べましょう」
朱莉が仲介役としてはいってくれたおかげで場はちょっとだけクールダウン。今の隙に俺はこの争いを収束させることにした。
「そ、そうだぞ。ほら、笹川も弁当を持ってきてるんだから此処で食べる気だったんだろ」
「………そうだけどさ」
どうも不満があるようだったが、おとなしく席に座って弁当を広げる。朱莉も、自分の弁当箱を広げた。
「そういえば、一先輩はいつもあの風花さんと言うお手伝いさんがお弁当を作ってくれているのですか」
「ん、ああ、そうだな」
「そうなのですか」
剣の視線はそれぞれの弁当へと移動していき、とある部分で停止した。
「………」
「どうかしたのか。あ、他人の弁当のおかずを見て笑うのは重大な規約違反だぜ」
不思議なおかずが入っていたとしても、そのことで相手をいじってはいけない。
「あの、一先輩」
「何だ」
「偶然、でしょうか………湯野花先輩のお弁当とほとんど内容が変わりませんよ」
澤田、笹川も箸を止めて朱莉と俺の弁当を何度か確認し、動きが止まった。
「ああ、これですか。あたしと零一君は同じところに住んでいるから当然ですよ」
「……………は」
俺の左隣にいる笹川からこの世のものとは思えぬ声が聞こえてきたような気がした。気のせい、そう信じたいのだが違う、頭ではちゃんと理解できている。
「一先輩、それはどういうことでしょうか」
「まぁ、ちょっと厄介事って言うか、朱莉が仕事で俺の部屋にいるんだよ」
「で、でも、朱莉先輩はまだ高校生ですよっ」
「澤田は知ってるだろ」
朱莉は非合法で仕事をしているのである。慈善企業じゃないんですよと稀に言うことがあるのだが、企業って言えるほど規模は大きくない。
「それはそうですが………でも、おかしいじゃないですかっ。零一先輩の住んでいる場所って結構狭いですよっ」
「ぐはっ、地味にへこむことを言うなよ………まぁ、三人で住むと結構狭いけどな」
「三人………一先輩に、湯野花先輩、あとは風花さんと言うお手伝いさんですね」
「そうだな」
それまで各自、恐ろしいオーラを出していたのだが、風花と言う言葉を聞いて静かになった。
風花にそれほどの力があるとは思いもよらなかったな。
「湯野花先輩も大変でしょう」
「そうですね、零一君の寝顔は他人に見せられないぐらいですよ」
「え」
「は」
「………は」
せっかく終息していたと思った謎のオーラを俺は感じることが出来た。人はそれをシックスセンスと言うのだろうか。
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その後、俺は気がついたら屋上で倒れていたのだが………昼休み以降の記憶がぽっかりとなくなっていた。
会心の出来とか、自分ではおもっていても、実際には違うことってあるものです。時間が少し経ってみると粗が目立つ。つまり、客観的に見るのは時間がひつようと言うことですね。雨月の小説は粗ばかりですが。さて、次回もまだまだ、続きます。八月三十日月曜、十一時五十二分雨月。




